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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 735

『広益俗説弁 続編』(井沢蟠竜著 白石良夫、湯浅佳子校訂)

2019/07/18
アイコン画像    江戸時代に書かれていた
フェイクニュースを見破る方法

 ヤフコメなんぞをつらつらと見ておりますと、なんとまあ、フェイクニュースを信じる人の多いことか!

 かのカエサル(前100ころ~前44)は、人間の傾向を、〈願わしいものなら喜んで本当と思い込む〉(『ガリア戦記』講談社学術文庫)と看破していますが、逆に言えば、2000年も昔から、人は好んで嘘を信じて生きてきたのです。

 だからといって、それでいいといっているわけではありません。現代に生きる私たちは、真偽を見分けるリテラシーを獲得しなければならないのです。

 ではどうやって? 本書『広益俗説弁続編』はそのお手本たり得ます。実は以前、『広益俗説弁』を当欄で紹介しているのですが、これはその続編です。

 著者の井沢蟠竜(いざわばんりゅう1668~1730)は、〈江戸時代中期の神道家〉で、〈ひろく和漢の書に通じ、博学多識で世に知られた〉(ジャパンナレッジ「国史大辞典」)人物です。で、本書では、世間に広まっている俗説を著者が俎上にのせ、〈今按(しらべ)るに、此説、非なり〉と痛快に切って捨てます。もちろんそのあとに、根拠を並べ上げるのですが、博学多識ぶりを存分に発揮しています。

 つまり蟠竜は、俗説=フェイクニュースを、文献その他をあたってひとつずつ検証しているのです。鵜呑みにせずに別のメディアで調べてみる。これぞフェイクニュースを見破る方法ではないでしょうか。

 蟠竜のもうひとつの特徴は、理知的であるということです。科学的といってもいいかな? 基本的に迷信を信じません。たとえば、鶏が宵に鳴くと不吉だという迷信に対し、いろいろな説をもってきて否定するのですが、止めの言葉が素晴らしいのです。


 〈吉祥とてよろこぶことなかれ。凶兆とていむことなかれ。禍福はもとより、其人主の徳と不徳にあるのみ。あへて草木・鳥獣のあづかれる所にはあらず〉


 カエサルいわく、〈願わしいものなら喜んで本当と思い込む〉のが人間です。たとえ迷信でも、〈吉祥〉と聞けば喜んでしまう。パワースポットが人気なのもそういうことでしょう(スピリチュアル好きとフェイクニュース信奉者は重なるような……)。

 運がいいとか悪いとか、目の前の幸不幸に左右されない。この動じなさこそ、フェイクニュースに立ち向かう方法なのかもしれません。



本を読む

『広益俗説弁 続編』(井沢蟠竜著 白石良夫、湯浅佳子校訂)
今週のカルテ
ジャンル随筆
成立1700年代前半
読後に一言正しい知識は、フェイクニュースを打ち負かします! 参院選も近いことですし、候補者や政党の発する「嘘」にも騙されないようにしないといけませんね。
効用逆説的にいえば、当時の人々がどんな俗信や迷信を信じていたかがわかります。
印象深い一節

名言
今按るに、他の説をもつて我説としてほこるは、志士のあへてなき事とぞ(後編巻二十五「雑類 芸術」「他説を我説とする説」より)
類書本書第一巻『広益俗説弁』(東洋文庫503)
同時期に書かれた新井白石の西洋研究『新訂 西洋紀聞』(東洋文庫113)
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