1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。
“ピスタチオの実を食べて、殻は捨てよ” イランの詩集に学ぶ上手な付き合い方 |
きな臭い世の中です。あっちでもこっちでも国の首脳同士が角突き合い、それぞれが「正義」を口にする。小学生のケンカでももっとマシだと思うぐらい、揉めっぱなし。ということは、当事者が小学生より下ということでしょうか?(本当にそうだとしたら怖い……)。
小学生のケンカは、大抵が無知からきています。相手のことを知らなければ、背景も理解できていない。「ばか!」と言わざるを得なかった相手の心情や状況、環境を理解できれば、罵声も笑ってやり過ごせます。
ならば、「にわかに緊迫度を増しているイランを知ろう!」というわけで『果樹園』です。
著者のサアディー(1213頃~1292)は、〈中世ペルシアの代表的詩人〉(ジャパンナレッジ「日本国語大辞典」)で、詩集『薔薇園』の著者としても知られています。〈ハーフィズと並び、同国(イラン)で最も人気がある〉とされ、彼の霊廟が建っているほどです(同「デジタル大辞泉」「サーディー廟」の項)。
で、この『果樹園』、〈イスラム諸国を約三〇年間遍歴〉(同「日本国語大辞典」)の経験からの“気づき”が中心で、〈私が聞くところ〉というフレーズが頻出します。長きにわたる旅で、さまざまな考え方を学んだともいえましょう。たとえばこのように。
〈人が人間らしい道を進むのは
欲情の犬を黙らせる時だけだ
食べて眠るだけでは獣の道だ〉
〈幸福は公正なる神のお恵みにあり
力強い者の手と腕にあるのではない〉
〈昨日は過ぎたが、明日はまだ手に達しない
今あるこの一瞬を大切にせよ〉
相手と揉めている時は、この警句が有効です。
〈ピスタチオの実を食べて、殻は捨てよ〉
長所(実)だけを見て、短所(殻)は気にせず目をつぶれ、ということです。
私個人は、この言葉に勇気をもらいました。
〈おお、弱い者よ、強い者に堪え忍べ
いつの日か、そなたが彼より強くなるから
決意を固めて暴君に対し叫びをあげよ
決意の腕は暴力の手に勝る
唇が渇き、虐げられた者に「笑え」と言え
暴君の歯はいつか抜かれよう〉
……暴君、早く去らないかな。
ジャンル | 詩歌/文学 |
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時代・舞台 | 13世紀のペルシア(イラン) |
読後に一言 | 読んでいて「なるほど」と頷くことしきりでしたが、何にひっかかるかで、その時の自分の状態や問題意識が見えてくるのかもしれませんね。 |
効用 | 同著者の代表作品『薔薇園』(東洋文庫12)も東洋文庫に収録されています。あわせてお楽しみください。 |
印象深い一節 ・ 名言 | 人間は弁舌と知性で知られている おうむのようになにも分からずにしゃべるな |
類書 | 14世紀イランの詩集『ハーフィズ詩集』(東洋文庫299) 11世紀イランの民族叙事詩『王書』(東洋文庫150) |
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(2024年5月時点)