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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアの古典・名著がズラリそろって、その数なんと850点余! 後世にぜひ引き継いでいきたい、まさにアジアの文化遺産なのです。

そんな珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、あなたを面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫
『果樹園 中世イランの実践道徳詩集』(サアディー著 黒柳恒男訳)

2019/09/12
   “ピスタチオの実を食べて、殻は捨てよ”
イランの詩集に学ぶ上手な付き合い方

 きな臭い世の中です。あっちでもこっちでも国の首脳同士が角突き合い、それぞれが「正義」を口にする。小学生のケンカでももっとマシだと思うぐらい、揉めっぱなし。ということは、当事者が小学生より下ということでしょうか?(本当にそうだとしたら怖い……)。

 小学生のケンカは、大抵が無知からきています。相手のことを知らなければ、背景も理解できていない。「ばか!」と言わざるを得なかった相手の心情や状況、環境を理解できれば、罵声も笑ってやり過ごせます。

 ならば、「にわかに緊迫度を増しているイランを知ろう!」というわけで『果樹園』です。

 著者のサアディー(1213頃~1292)は、〈中世ペルシアの代表的詩人〉(ジャパンナレッジ「日本国語大辞典」)で、詩集『薔薇園』の著者としても知られています。〈ハーフィズと並び、同国(イラン)で最も人気がある〉とされ、彼の霊廟が建っているほどです(同「デジタル大辞泉」「サーディー廟」の項)。

 で、この『果樹園』、〈イスラム諸国を約三〇年間遍歴〉(同「日本国語大辞典」)の経験からの“気づき”が中心で、〈私が聞くところ〉というフレーズが頻出します。長きにわたる旅で、さまざまな考え方を学んだともいえましょう。たとえばこのように。


〈人が人間らしい道を進むのは
欲情の犬を黙らせる時だけだ
食べて眠るだけでは獣の道だ〉

 

〈幸福は公正なる神のお恵みにあり
力強い者の手と腕にあるのではない〉


〈昨日は過ぎたが、明日はまだ手に達しない
今あるこの一瞬を大切にせよ〉


 相手と揉めている時は、この警句が有効です。


〈ピスタチオの実を食べて、殻は捨てよ〉


 長所(実)だけを見て、短所(殻)は気にせず目をつぶれ、ということです。

 私個人は、この言葉に勇気をもらいました。


〈おお、弱い者よ、強い者に堪え忍べ
いつの日か、そなたが彼より強くなるから
決意を固めて暴君に対し叫びをあげよ
決意の腕は暴力の手に勝る
唇が渇き、虐げられた者に「笑え」と言え
暴君の歯はいつか抜かれよう〉


 ……暴君、早く去らないかな。



今週のカルテ

ジャンル詩歌/文学
時代・舞台13世紀のペルシア(イラン)
読後に一言読んでいて「なるほど」と頷くことしきりでしたが、何にひっかかるかで、その時の自分の状態や問題意識が見えてくるのかもしれませんね。
効用同著者の代表作品『薔薇園』(東洋文庫12)も東洋文庫に収録されています。あわせてお楽しみください。
印象深い一節

名言
人間は弁舌と知性で知られている
おうむのようになにも分からずにしゃべるな
類書14世紀イランの詩集『ハーフィズ詩集』(東洋文庫299)
11世紀イランの民族叙事詩『王書』(東洋文庫150)
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