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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアの古典・名著がズラリそろって、その数なんと850点余! 後世にぜひ引き継いでいきたい、まさにアジアの文化遺産なのです。

そんな珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、あなたを面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫
『歌麿』(エドモン・ド・ゴンクール著 隠岐由紀子訳)

2019/09/19
   文化はこうやって伝播する!
海を渡った浮世絵・喜多川歌麿

 芸術の秋の到来ですが、各地で頻繁に開催されているのが「浮世絵」の展覧会です。『レスコヴィッチコレクション 広重・北斎とめぐるNIPPON』(京都・細見美術館/~10月20日)など、海外コレクター収蔵作品の“里帰り展”も多く、浮世絵の海外評価の高さが伺えます。

 〈19世紀の後半から20世紀の初頭にかけてヨーロッパやアメリカでその芸術的価値が高く評価され,浮世絵は印象主義やアール・ヌーボーなど西洋近代の芸術運動に大きな影響を与えている〉(ジャパンナレッジ「世界大百科事典」)

 〈芸術的価値が高く評価され~〉とありますが、これ、よく考えると“評価した人物”が存在するということですよね? お茶の世界における千利休のような、「いいね!」を最初に口にした目利きがいたということです。

 気になって調べると、かの人物に行き当たりました。エドモン・ド・ゴンクール。弟のジュールとの合作で多くの作品を発表した19世紀のフランスを代表する作家で、2人の名を冠した文学賞があるほどです。兄エドモンは、『歌麿』(本書)という美術評論を著しているのですが、解説によれば、〈西洋において日本版画の巨匠をあつかった最初の書物〉だそうです。つまり、浮世絵の芸術的価値にお墨付きをあたえたひとり、というわけです。

 エドモンは、浮世絵を、〈私的生活における存在感を、いわば写真的な見せ物として提示してみせた〉と定義しますが、中でも歌麿を、〈非常な現実味をもって(身振り、姿勢、動作などを)再現〉したと評価したのでした。

 〈〈写実主義闘争〉と自然主義の誕生とに密接に関わっている〉(同「世界文学大事典」)と評されるゴンクール兄弟ですが、エドモンは、歌麿の絵に、歌麿が持つ自然主義的な観察眼を見いだしたともいえるでしょう。

 豊富な図版(モノクロですが)を眺めつつ、鋭い分析に「ほぉ」と感嘆しながら読み進めたのですが、どうやらこの本、林忠正という美術商の存在なくして成り立たなかったようなのです。林が参考文献や浮世絵の文字を仏語に翻訳したことで、一度も日本を訪れたことのないエドモンは、本書を書き上げることができたのでした。訳者は、〈ゴンクールの手によって、歌麿は一八九一年、パリに画家として誕生した〉と結論づけますが、“林忠正の手によって”とも言えるわけです。

 林も紹介者であり、エドモンも紹介者です。文化の伝播は、こうした何人もの“紹介者”の存在なくしてはあり得ないのですね。



今週のカルテ

ジャンル評論/美術
刊行年1891年
読後に一言歌麿の描いた吉原の浮世絵を解説するにあたり、「太鼓もち」まで詳しく語っているところに、本書の美術評論を超えた面白さがありました。
効用歌麿の「春画」に関しても詳しく紹介しています。
印象深い一節

名言
ああ、十八世紀末から十九世紀初頭に出現した版画の数々のなんたる美しさ! ああ歌麿版画のなんという麗しさ!
類書4代目広重による江戸の記録『絵本江戸風俗往来』(東洋文庫50)
浮世絵についても言及する、英国人の日本文化紹介書『日本事物誌(全2巻)』(日本事物誌131、147)
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