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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

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『伽婢子1、2』(浅井了意著、江本裕校訂)

2011/05/19
アイコン画像    「因果のことはり」……その恐ろしさに背筋が
ゾクゾクっとくる、江戸初期の怪異物語集。

 三浦(神奈川県)に住む知人から「道寸祭りにぜひ!」と誘われた。毎年5月最後の日曜に荒井浜(油壺マリンパークの下)で、かつて三浦半島で栄華を誇った三浦一族の鎮魂祭を行うのだそうだ(今年は5月29日。目玉は砂浜での笠懸だとか。首都圏の方はぜひ!)。

 三浦一族といっても知らない人が多いかも知れないが、かつては源頼朝を助け、1516年に北条早雲に攻め滅ぼされるまで、三浦半島を支配する関八州屈指の名門だった。全国各地に三浦姓が多いのは、三浦一族の荘園が全国に散らばっていたからだという説があるほど、一時の勢力は絶大だった。その三浦一族の最後の当主が、三浦道寸(義同)なのである。

 この悲劇が特別な意味を持ったのは、三浦一族の滅びた日と、一族を滅ぼした後北条の滅亡の日(北条氏政自決の日)が、同じ7月11日だったからだ(!)。江戸時代の書いわく「因果のことはりこそおそろしかりけれ」(『北条五代記』)。しかも道寸が養父(時高)を殺害し当主になったという話も流布していたから、三浦一族の滅亡もまた、因果応報というわけである。

 しかしこの滅亡の連鎖、北条氏の記憶の残る江戸初期には、余程インパクトがあったのだろう。〈近世怪異小説の型(スタイル)を確立した〉(解説)という『伽婢子(おとぎぼうこ)』に、この道寸の子孫なる浅原新之丞(架空)が登場するのである。

 〈才智ありて弁舌人にすぐれ〉てはいるが、〈因果変化のことはり〉を聞いても無視、という信心なき男だ。ある日、隣人が亡くなるのだが、残された家族が財産を投げ打って祈祷すると、なんと蘇った。地獄で、家族の祈りが聞き届けられたという。そんな馬鹿なことがあるかと浅原があざ笑ったものだからさあ大変、地獄から使者が来て、浅原を地獄へ連れて行ってしまう。眼前の地獄絵図に呆然とする浅原に、鬼がいう。


 〈(苦しんでいる者たちは)みな主君をころし、不忠をいだき、国家をほろぼしけるもの共也〉


 ここで読者は、道寸の主君(養父)殺しや北条家滅亡を思い出すという訳だ。史実(と思われていたこと)と物語が絶妙に絡み合い、当時の人は、それはそれは恐ろしかったことだろう。

 本書は、「牡丹灯篭」を含む、江戸初期の怪異物語集だ。怪異はすべて、「因果のことはり」と密接に結びつく(そのあたりが現代からするとやや説教臭いのだが)。良し悪しは別として、この“恐怖”が、江戸時代の秩序を形作っていたのかもしれない。

本を読む

『伽婢子1、2』(浅井了意著、江本裕校訂)
今週のカルテ
ジャンル説話/文学
時代 ・ 舞台江戸初期
読後に一言後ろめたい自分には、つらいお話だらけでした。
効用①日本的恐ろしさの源を知ることができる。
②少しは……自分の行動を改めようと思う。
印象深い一節

名言
只児女(じぢょ)の聞(きく)をおどろかし、をのづから心をあらため、正道におもむくひとつの補(おぎない)とせむと也
類書同著者の代表的名所案内記『東海道名所記(全2巻)』(東洋文庫346、361)
「牡丹燈篭」の元の話も含まれる、中国の明代の怪異小説集『剪燈新話』(東洋文庫48)
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