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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 757

『良寛詩集』(入矢義高訳注)

2020/01/09
アイコン画像    孤独も老いらくの恋もあるがまま
良寛忌に良寛の漢詩を読む

 陰暦1月6日は、良寛(1758~1831)の命日です。良寛は、〈歌人、書家としても知られる〉〈江戸時代後期の禅僧〉(ジャパンナレッジ「日本架空伝承人名事典」)で、「良寛忌」は冬の季語にもなっています。

 さて皆さんは、良寛にどんなイメージを持っているでしょうか。子どもと毬つきをして遊ぶ好々爺? 新潟の田舎で清貧を旨とした修行僧? 〈竹の子を伸ばしてやるために五合庵の床や屋根を壊した〉(同前)優しい禅僧? いずれにせよ、世俗を離れ、超然とした僧を思い浮かべるのではないでしょうか。

 ではこんな漢詩はいかがでしょう?


〈蕭条(しょうじょう)たり 三間の屋
終日 人の親しむなし
独り閒窓(かんそう)の下に坐して
唯だ落葉の頻りなるを聞く〉


 良寛の寂しい家を訪ねてくる人は、丸1日いないわけです。だから、ぽつねんと窓際に座って、落ち葉の音を聞いている。これを「悟りの境地」と捉える人もいるようですが、私はむしろ、「さびしい」と本音で呟いたのではないかと思います。


〈独り臥す 草庵の裡(うち)
終日 人の視るなし(中略)
陌上(はくじょう)の諸童子
旧に依って我が臻(いた)るを待つ〉


 病気で伏せていた時の漢詩です。それなのに誰も見舞いに来てくれない。路上(陌上)の子どもたちだけが、昔のように私が来るのを待っていた。これも寂しいですよね? 「寂しいから寂しいと嘆く」強さこそ、良寛なのではないかと思えてきました。どこかの境地に到達する、というよりは、眼前の状態を、気持ちを含めてそのまま受け入れる。子どもに対してはそれが「受け入れる優しさ」になるでしょうし、清貧の生き方も、そのままでいることを受け止めただけ、ともいえます。

 と考えると、良寛の住む越後地方を襲った地震(1828)のあと知人に送った手紙の一節も、深みが増します。


〈災難に逢ふ時節には災難に逢ふがよく候。死ぬる時節には死ぬがよく候。是はこれ災難をのがるる妙法にて候〉


 〈70歳の年に29歳の貞信尼と出会〉い〈深く愛した〉(同「世界大百科事典」)のもあるがまま。

 自然でいることが、いちばん難しいのかもしれませんが、今年1年、そうでありたいものです。



本を読む

『良寛詩集』(入矢義高訳注)
今週のカルテ
ジャンル詩歌
時代・舞台江戸時代後期の日本
読後に一言心の動きも欲もあるがまま。それでいて他人に優しい。こうありたいと思うけれど、本当に遠いなあ。
効用二百余篇の良寛の漢詩を、現代語訳付きで存分に味わえます。
印象深い一節

名言
孰(たれ)か我が詩を詩と謂う/我が詩は是れ詩に非ず/我が詩の詩に非ざるを知らば/始めて与(とも)に詩を言(かた)るべし
類書和歌集『良寛歌集』(東洋文庫556)
禅僧・一休の生涯『一休和尚年譜1、2』(東洋文庫641、642)
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