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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 135|142

『明治東京逸聞史1、2』(森銑三著)

2011/05/26
アイコン画像    明治時代は猫派の方が多かった!? 明治の庶民生活史データベースに見る、当時の暮らしぶり。

 わが家に猫が来て半年が過ぎた。2匹の猫たちは「前からいましたけどなにか」というようなふてぶてしい態度で、わがもの顔である(今もキーボードの前をウロウロしている)。この存在感たるや、私の家庭内でのそれをはるかに凌駕している。……気になって、ジャパンナレッジの「東洋文庫」で「猫」および「犬」を全文検索してみたら、面白い記事を『明治東京逸聞史』から発見。


 〈東京十五区で飼っている犬は千八百六十七、猫は三千二百九十で、この食料は併せて、毎月米千二百六十四石三斗二升だというから、馬鹿にならぬ。金額では一万八千七百七十五銭二厘である。(明治31年1月)〉


 この当時、東京の人口は188万人なので、単純計算すると犬飼育率は約0.1%、猫は約0.2%となる。では現在は、というと、全国の犬の飼育頭数は約1186万頭(飼育率17.8%)、猫は約961万頭(10.6%)、と飼育率では犬猫逆転しているのであった(ペットフード協会「平成22年全国犬猫飼育実態調査」)。

 〈日本で猫を飼うようになったのは、奈良時代に中国から渡来してから〉(ジャパンナレッジ「日本国語大辞典」)というから、犬に比して猫の歴史は浅い。それでも明治時代には、小説の主人公になるなど、数でも存在感でも犬を上回っていた。それがなぜ? 同じく『明治東京逸聞史』にその手がかりが……。


 〈洋犬がはやって、日本犬の廃れたこと(明治6年)〉

 〈西洋犬を飼う家が多いので、従ってバタ臭い名が多くなっている(明治43年7月)〉


 文明開化と共に欧米から入ってきた犬に、日本人は目を奪われ、次第に猫から犬へとシフトしていった――。と、こんな推理はいかがだろうか?

 ちなみに「日本国語大辞典」によれば、「寝るのを好む」から「ねこ」、「家に寝る→イヌル」から「いぬ」という「語源説」もあるとか。穏やかに「寝る」とは、まさに平穏や幸福そのものだ。案外、この辺りに犬猫が愛され続けた理由があるのかもしれない。

 しょうもない動機から『明治東京逸聞史』を紐解いたが、本書は、書誌学者である森銑三が、新聞・雑誌・文芸作品などの資料から、当時の庶民の生活や世相を抜き出したもので、いわばパソコンなき時代の人手によるデータベースだ。この中には確かに、「明治の生活」があった。もっといい利用の仕方、してあげてほしいな。

本を読む

『明治東京逸聞史1、2』(森銑三著)
今週のカルテ
ジャンル風俗/歴史
時代 ・ 舞台明治の日本
読後に一言確かにこの中には明治の生活がありました。
効用現代社会と地続きなようで、意外なことばかりの明治時代。比べてみることで、現代のオカシサも見えてきます。
印象深い一節

名言
滅びるものは、ずんずん滅びる。(序文)
類書新聞記事をもとに明治大正の世相を論評『明治大正史世相篇』(東洋文庫105)
明治の文豪や庶民へのインタビューを掲載『唾玉集』(東洋文庫592)
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