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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 436

『ハジババの冒険2』(ジェイムズ=モーリア著 岡﨑正孝、江浦公治、高橋和夫訳)

2020/04/23
アイコン画像    人生、翻弄されるのも悪くない?
悪漢ハジババの“巻き込まれる力”

 最近、私の周囲で「リコメンデーション」が流行っています。recommendation、意味通り〈推薦〉(ジャパンナレッジ「ビジネス技術実用英語大辞典V6」)です。どういう文脈で用いるかといいますと、たとえば好きな本をリコメンデーションしあう、というように。

 リコメンデーションには、〈助言〉や〈アドバイス〉(同前)という意味もありますが、「人の勧めに乗ってみる」のも、人生が広がるのではないか、と。思うままにならぬ人生ならば、いっそアドバイスに乗っかってしまえ、ということです。

 本書の主人公、ハジババを見ていると、この人、「乗っかり上手」なんですね。行者のアドバイスに乗っかったり、運命に任せて未亡人と結婚して大金持ちになったり。ただ欲をかき過ぎたり、我を出し過ぎたりして、人生、すぐに急降下してしまうのですが。


 〈別の運命がわたしには用意されていた。人生という競馬場(メイダーン)がまだ門を開いており、自分という駿馬(しゅんめ)が跳躍し、わたしを駆り立てていた。馬は疲れも見せず、まだまだ多くの変転をわたしのために用意しているのだ〉


 この感じです。

 競馬場を用意したのも、門を開けたのも、ハジババ本人じゃありません。でもその運命に乗っかってしまう。

 リコメンデーションの達人に、新井見枝香さんという書店員(「HMV&BOOKS 日比谷コテージ」)がいます。新井さんは、芥川賞・直木賞発表の日と同じ日に、この半年でいちばん面白かった本を一人で選び、「新井賞」として勝手に表彰している人で、読書家の間では密かに芥川賞・直木賞より注目されています。

 勝手に表彰しちゃう、というところが、リコメンデーションの最たるところなんですが、この新井さんが最近、ストリッパーデビューしたという記事を読みました。(https://www.news-postseven.com/archives/20200409_1554871.html

 理由がふるっていて、知り合いの踊り子から「見枝香ちゃん、舞台に立ってみる?」と突然、誘われたから。そのまま舞台に上がって一糸まとわぬ姿になるところが、「カッコいいな」と思います。リコメンデーションの達人は、リコメンデーションされる達人でもあったのです。

 本書ハジババの人生は、例によって二転三転。最後は大物になって故郷に錦を飾ったところで物語が終わりますが、人生という競馬場の門はまだ閉じていません。きっとこれからも様々な人に翻弄されるのでしょう。しかしそれだからこそ、人生、面白いのではないでしょうか。



本を読む

『ハジババの冒険2』(ジェイムズ=モーリア著 岡﨑正孝、江浦公治、高橋和夫訳)
今週のカルテ
ジャンル文学
時代・刊行年イラン/1824年
読後に一言まずは手始めに、お互いの好きな本をリコメンデーションしあってみてはいかがでしょうか。
効用19世紀初めのイスラム社会を、イギリスの外交官である著者がどう捉えていたのか。その視点をお楽しみください。
印象深い一節

名言
どの道によって幸福を求めるかは、人さまざま。街道を行く者もおれば、近道を選ぶ者もいる。中には自分で新しい道を切り開く者もいるし、人に尋ねることもなく一人でわが道を行く者もおる(第四十四話)
類書本書に登場するイラン中世の道徳書『薔薇園』(東洋文庫12)
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