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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 636

『詩経雅頌2』(白川静訳注)

2020/06/25
アイコン画像    紀元前から愛されていた鳥とは?
中国最古の詩集を読む

 私の利用する駅には、ツバメの巣がある。数えたら3つもあった。ハトやカラスは追われるのに、ツバメが大事にされるのはなぜか、と常々疑問に思っていたのだが、そんな折、『詩経』の詩の中にこんなフレーズを見つけた。


 〈天つ神 玄鳥に命じ
 下界に商(しやう)を生ましむ〉(「玄鳥」)


 〈玄鳥の生ませる子 武威すぐれ
 小國を受くるも よく治まり
 大國を受くるも よく治まる〉(「長發」)


 「玄鳥」とは、〈ツバメの別名〉(ジャパンナレッジ「デジタル大辞泉」)である。本書には、〈簡狄(かんてき)が玄鳥(燕)の貽(おく)った卵を呑んで孕んだとする説話を歌う〉とある。簡狄とは、〈中国,殷王家の始祖である契(せつ)の母親〉とされる女性で、〈川で水浴びをしていたところ,玄鳥(ツバメ)が飛んできて卵を産んだ.簡狄がその卵を拾って呑むと,身ごもって契を産んだ〉(同「岩波 世界人名大辞典」)という。契とは、〈中国古代殷王室の始祖とされる伝説上の人物〉(同「世界大百科事典」)で、殷=商である。くだんのフレーズは、この伝説を歌ったものなのだ。殷は、〈ほぼ紀元前17、16世紀の境より、前11世紀なかばごろまで〉(同「ニッポニカ」)続いたとされる、現在わかっている限りでは、中国最古の王朝である。その始祖伝説にツバメがからんでいるのだ。

 調べてみると、中国だけではない。ドイツやギリシャでもツバメは幸運の鳥である。〈渡りの習性から、異郷(他界)と現世を結ぶ神秘的な鳥とされたもので、アルタイ系諸民族で、ツバメが創世神話の主役を演じているのも、共通の宗教基盤によるものであろう〉(同「ニッポニカ」)。日本でも、〈ツバメは常盤(ときわ)の国を往来するといい、縁起のよい鳥と感じていた〉(同前)。春と共に渡ってくる燕は、誕生の象徴ということであろうか。


 ツバメは、〈北極と南極を除いたほぼ世界中に分布し,約80種が知られている〉(同「旺文社 生物事典」)。そして、〈害虫を捕食する益鳥〉(同前)であり、〈渡りは季節感の指標〉(同「ニッポニカ」)であった。


 なんとツバメは、世界中で愛されていたのである!(そういえば、『竹取物語』にも「燕の子安貝」が出てくるではないか!)

 ツバメを大事にしないとバチが当たりますな。



本を読む

『詩経雅頌2』(白川静訳注)
今週のカルテ
ジャンル詩歌/評論
時代・舞台B.C.1000~B.C.500年代の中国
読後に一言『詩経国風』(東洋文庫518)、そして本書『詩経雅頌(全2巻)』で『詩経』完読です。なんと豊かな世界でしょう。非常に感慨深い読書体験でした。
効用『詩経』の中から「大雅」「周頌」「魯頌」「商頌」を収める。
印象深い一節

名言
〔詩經〕の研究は、私の終生の志業の一とするものであった。(「あとがき」)
類書同著者による読む字源辞典『漢字の世界(全2巻)』(東洋文庫281、286)
仏社会学者が分析する「詩経」『中国古代の祭礼と歌謡』(東洋文庫500)
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