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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアの古典・名著がズラリそろって、その数なんと850点余! 後世にぜひ引き継いでいきたい、まさにアジアの文化遺産なのです。

そんな珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、あなたを面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫
『ヤング・ジャパン1 横浜と江戸』(J・R・ブラック著 ねず・まさし、小池晴子訳)

2020/08/20
   開国とテロと人情と
英国人ジャーナリストが見た幕末

 〈今から「若い日本(ヤング・ジャパン)」について書こうと思う〉

 こんな書き出しから始まる本書は、スコットランド生まれのジャーナリスト、ジョン・レディ・ブラック(1827~1880)による幕末・維新の記録である。

 ブラック(漢字で「貌剌屈」とも書く)は元々、〈海軍士官であったが,のちオーストラリアで商業に従事し〉失敗。〈帰国の途次,来日してそのまま滞在,日本で没した〉という人物である。〈彼(ブラック)を有名にした最大の事業は日本語新聞《日新真事誌》の刊行である。72年創刊の同紙は忌憚(きたん)のない論調と整った紙面構成とによって当時の大新聞(おおしんぶん)の模範とされた〉。いわば、〈日本の新聞草創期のジャーナリスト〉(ジャパンナレッジ「世界大百科事典」)なのである。

「日新真事誌」は、〈板垣退助らの「民撰(みんせん)議院設立建白書」を特報するなど政治事件をスクープ〉(同「ニッポニカ」)したが、結果政府に目をつけられ、あの手この手で潰されてしまった。言論封殺である。

 幕末に活躍した外国人の多くは、外交官か明治政府のお抱えであった。ブラックは、そのどれとも異なる。いわばフリーの立場から幕末~維新を記録しているのだ。この時点で、本書の貴重さがわかってもらえるだろう。

 本書第⼀巻は、⽇⽶和親条が結ばれた1854年(安政元年)から、池⽥屋事件などが起きた1864年(元治元年)までを記す。

 面白い、と言いたいところだが、前半はかなり憂鬱だ。なぜならばページを繰るごとに、外国人襲撃事件がこれでもかと登場するからだ。歴史の授業では、生麦事件など主立った事件しか教わらないが、いきり立った武士が、外国人と見れば手当たり次第に切りつけている印象だ。刃傷沙汰はあちこちで起きていたのである。ここだけ切り取れば、幕末の日本はテロリスト国家である。

 救いは著者の言葉にあった。


 〈ある階級(武士)を除けば、「日本は世界でいちばん愉快な国で、日本人は世界で最も好ましい国民だ」と思った。(中略)「ある階級」の者でさえ、大部分は外国人に好意的か、少なくとも、悪意は持っていなかった。そして誰よりも愉快な連中だった〉


 今も昔も外国人に敵意をむき出しにするのは一部の人間ということか。だがそうした一部が、国を動かしてきたのも、紛れもない事実である。



今週のカルテ

ジャンルジャーナリズム/記録
時代・舞台幕末の日本(1858~1864年)
読後に一言お上と大衆の分離(言い換えれば「お上まかせ」)が、もしかしたら日本の問題かもしれないな、と本書を読んで思いました。
効用幕末の日本の様子がつぶさにわかります。
印象深い一節

名言
日本の魅力  国(日本)の美しさと一般に健康な気候と、日本人の気持ちのよい誠実さとは(公然と敵意を示す者は別として)、強い誘因となっていた。(第十四章)
類書紀州藩士の妻が見聞きした幕末~維新『小梅日記(全3巻)』(東洋文庫256、268、284)
米総領事ハリスの伝記『ハリス伝 日本の扉を開いた男』(東洋文庫61)
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