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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 414

『都風俗化粧伝』(佐山半七丸著、速水春暁斎画図、高橋雅夫校注)

2011/06/23
アイコン画像    江戸美人はつくられていた! 江戸後期に
流行した「おしゃれマニュアルBOOK」。

 なぜ車内で化粧をするのか? そんな批判がされだして久しいが、さてこの現象はいつからだろうか?

 「駅と電車内の迷惑行為ランキング」(日本民営鉄道協会)によれば2000年の第1回調査から見事Top10にランクイン(この時は1.8%、2010年は10倍の18%が迷惑と感じている)。『平然と車内で化粧する脳』(澤口俊之×南伸坊/扶桑社)なんて本が出たのも2000年だから、この時点で市民権(?)を得ていたことがわかる。

 ジャパンナレッジの「亀井肇の新語探検」で調べてみると、〈クローズ人間〉(2003年8月)、〈ハピパラ世代〉(2008年7月)など、若者を表すカテゴリーの該当者説明として「車内での化粧」があげられている。ようは、「他人を気にしない現代の迷惑な若者」という括りなんでしょう(女優の星野真里も、TVで「車内での化粧」が大嫌いと公言していたっけ)。

 へそ曲がりの私は「待てよ」と思う。酔っ払ったオヤジに比べたら、車内で化粧なんてカワイイもんである。そして私は、化粧をしているところを見るのが好きである。まったくの別人へと変化していくプロセスの、あのスリリングさ! そして終わった後の「どや顔」。見事「自信」という仮面を被りましたなあと、毎度、感心することしきりなのだ。

 そしてこの「化粧」、驚くことなかれ、江戸時代にはすでに、今の女性誌にも引けを取らない「お化粧マニュアルBOOK」が出版されていたのである。その名も『都風俗化粧伝』。これがね、本当、すごいんです。目次を書き出してみると……。


 〈色を白くし、肌を細かくし、美人とする伝〉

 〈眼の小さきを常のごとき目にする伝〉

 〈髪を黒うし、光沢を出だす薬の伝〉

 〈眉毛を作る伝〉

 〈首筋のふときを細く見する伝〉

 〈衣類の汗臭きにおいを去る伝〉


 どうです? 現代女性のニーズと変わりません。で、その方法が微に入り細を穿ち、しかもキレイなイラスト入り。これ1冊あれば万事OKっていうんだから、当時の女性は狂喜乱舞した?

 江戸時代の男性もきっと“化粧女”好きだったんだろうな。そんなわけで、私は化粧女の肩を持ちたい。そんなことに目くじら立てない人でありたい。

本を読む

『都風俗化粧伝』(佐山半七丸著、速水春暁斎画図、高橋雅夫校注)
今週のカルテ
ジャンル実用/風俗
時代 ・ 舞台1800年代前半、江戸後期
読後に一言女性の化粧へのこだわり、歴史的な重みがあったんだなあ。
効用「欲望」について考えることは、人間について学ぶことでもある。
印象深い一節

名言
毛論こし人(中国人)の応宝と(宝として)愛でたたえし夜光の玉といえど、みがきよそおわざればひかりなしとかや。女もそれにことならずして、顔かたちこよなく生い立ちたりとても、みがきよそおわずして、心をさえにみやびならぬは、いと口おしく、みおとりせらるる物になむ。(叙)
類書江戸時代後期の江戸の風物を描く女流エッセイ『むかしばなし 天明前後の江戸の思い出』(東洋文庫433)
「お江戸ウォーカー」ともいえる江戸末期の絵入り年中行事記『東都歳事記(全3巻)』(東洋文庫159ほか)
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