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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアの古典・名著がズラリそろって、その数なんと850点余! 後世にぜひ引き継いでいきたい、まさにアジアの文化遺産なのです。

そんな珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、あなたを面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫
『制度通1、2』(伊藤東涯著 礪波護、森華校訂)

2020/11/12
   ハンコは必要? 不必要?
中国・日本の歴史をひもとく

 「はんこをやめろ」と大臣が口走ってニュースになっていますが、ここには2つの問題があります。ひとつは、決済の煩雑さと押印はイコールではないということ。効率化って何のため? という問題も残っています。

 もうひとつは、印鑑文化をどう考えるのか、という問題です。かつて「無駄だ」という理由で、文化団体への支援を打ち切った首長がいましたが、文化って費用対効果で考えるものなのでしょうか。

 そもそも印章って何? というのが今回のお題です。

 本書『制度通』は、〈古代中国の諸制度の沿革を、上代日本の制度との対比をまじえて論じたもの〉で、〈記述は正確で、現代でも参照するに足る中国制度史〉です(ジャパンナレッジ「日本国語大辞典」)。


 〈秦の時、印を改めて璽(じ)と称して、玉を以て是れを作る。又天子にかぎりて、臣下に通用せず。(略)(始皇帝が作らせた)この璽、後世まで伝わりて、伝国璽と云う〉


 伝国璽には、一説に、〈受命于天 既寿永昌〉(同「世界大百科事典」)と彫られていたといい、この璽は正統王朝の証拠でした。『三国志』でも伝国璽を巡る逸話が登場します。本書によれば漢代に臣下に印を授けたようです。福岡・志賀島で発見された「漢委奴國王印」は後漢時代のものといわれています。

 『制度通』は中国の制度を詳述したあと、「本朝」という項目を立て、日本の制度を紹介していきます。


 〈内印有り、外印(げいん)有り、諸司の印有り、諸国の印有り〉


 内印とは〈御印(みしるし)〉のこと。〈今俗に御証印(みしょういん)と云う。その文は「天皇之璽」と云う四字なり〉。外印は太政官の印で、以下、役人の印(諸司印)、地方役人の印(諸国印)、と続きます。サイズも紹介されていて、「天皇之璽」は〈方三寸〉とありますから、約9センチ四方、ということになります。

 戦国時代の武将が「花押」というサインをしていたことは知られていますが、あれも彫物に変わっていきます。江戸時代に、〈印章の使用は庶民にも広まって証文に押された〉のだそうです。しかも〈印章の流行に伴い、印章の正否を判断するため、照合用にあらかじめ印影を登録しておく必要が生じた〉(同「ニッポニカ」「印章」の項)といいますから、印鑑文化は「江戸の流行」がひとつの起源といえましょう。彼らは好んで印を持ち歩いたのです。

 さて、こうした文化も踏まえて「はんこNO」となっているならいいのですが。役所の押印をやめるとのことですが、勲記の国璽もやめるんですかねぇ。



今週のカルテ

ジャンル法律
舞台・成立年など中国・日本/1724年成立、1796-97年刊
読後に一言印鑑はもともと、〈関所、番所などに届け出ておく特定の印影の見本〉(ジャパンナレッジ「日本国語大辞典」)のことで、これが転じて今の名になったそうです。
効用記述は、天文、暦法、地理、官制、税制、度量衡など制度全般におよびます。
印象深い一節

名言
本朝(日本)、姓と氏と分かつこと、古えに見えず。(巻十「姓氏の事」)
類書紀元前から中華民国までの生活史『中国社会風俗史』(東洋文庫151)
神農時代から漢代末の政策・制度『漢書食貨・地理・溝洫志』(東洋文庫488)
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