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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアの古典・名著がズラリそろって、その数なんと850点余! 後世にぜひ引き継いでいきたい、まさにアジアの文化遺産なのです。

そんな珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、あなたを面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫
『択里志 近世朝鮮の地理書』(李重煥著 平木實訳)

2020/11/19
   性格も成功も住んでいるところ次第?
270年前の朝鮮半島の地誌

 このところ、「地政学」と銘打った書籍や雑誌が目につくようになりました。端的に言えば、〈民族や国家の特質を、主として地理的空間や条件から説明しようとする学問〉です。ただし、〈ナチスの領土拡張を正当化する論に利用された〉(ジャパンナレッジ「デジタル大辞泉」)という悲しい歴史も持っています。

 そんな「地政学」がなぜ再び注目を集めているかといえば、グローバル化が関係しています。いまや一地域の問題が世界に影響を与える時代。例えば日本にとっての北朝鮮は、「地政学的リスク」でしょう。

 もっと単純化していうならば、私たちは「地理」に影響を受ける、ということです。自分の住んでいる場所、地域、国……あなたの性格や言動もまた、土地に根ざしたものかもしれないのです。

 そこで『択里志』です。本書は、李氏朝鮮時代の18世紀中頃に成立した、朝鮮半島の地誌です。


 〈およそ住むのに適した土地を占うには、まず地理が第一である。生利(生計)がこれに次ぐが、そのつぎは人心であり、さらにそのつぎは山水である。これら四者の一を欠いても楽土ではない〉


 風水が盛んな朝鮮らしく、「地理」から住む場所を選べ、というのがこの本の眼目です。風水的情報も入っていますが、むしろそれをとっかかりにしつつ、自分が見聞きした情報を盛り込んでいった地誌です。著者の李重煥(イ・ジュンファン/1690~1756)は、両班(官僚、特権階級)の権力争いに巻き込まれ遠島の憂き目に。〈その後30年にわたる放浪生活のなかで〉(同「岩波 世界人名大辞典」)作成したのが、本書というわけです。だからでしょうか、ところどころ皮肉が見え隠れします。

 朝鮮半島は八道=〈李朝時代の行政区域〉(同「ポケットプログレッシブ韓日辞典」)に分かれているのですが、その地域評(著者の滅多斬り)をいくつか紹介します。


 〈咸鏡道は地が胡(女真族)との境界に接しているために、住民はみなかたくなで荒っぽい〉

 〈黄海道は山や川が険しいために、住民の多くは荒々しく角張っている〉


 とまあボロクソなのですが、日本(秀吉)と中国(清)の侵攻で国が疲弊し、両班の権力闘争が絶えなかった自国を憂いての辛口といえましょう。

 地理から国と人を見る。古びていない視点でした。



今週のカルテ

ジャンル歴史/産業・技術
時代・舞台18世紀の朝鮮(韓国、北朝鮮)
読後に一言慶長の役(第二次朝鮮侵略)は約400年前、慶長3年(1598)11月に終わりました。両国間の地政学的な問題は、この頃からすでにあるのかもしれません。
効用地理から見た歴史、風俗が見えてきます。風水も登場し、当時の半島の人々の思考が見えてきます。
印象深い一節

名言
時には利・不利があり、地には善・悪があり、人には進退・出処に異なるところがある。(「四民総論」)
類書イザベラ・バードの紀行『朝鮮奥地紀行(全2巻)』(東洋文庫572、573)
李氏朝鮮時代の説話『青邱野談』(東洋文庫670)
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