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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 491

『清嘉録 蘇州年中行事記』(顧禄著 中村喬訳注)

2020/12/17
アイコン画像    かつて中国の古都・蘇州では、
冬至をもっとも重んじていた

 伊勢神宮の内宮にかかる宇治橋のたもとに、大きな鳥居があります。毎年、冬至の前後約1か月は、この大鳥居から橋の一直線上に、朝日が昇って来ます。おそらく、それをわかった上で、この位置にしているのでしょう。

 神道だけではありません。〈日本では(冬至に)弘法大師(こうぼうだいし)が村を巡るという伝承〉(ジャパンナレッジ「ニッポニカ」)も残っています。

〈新石器時代後期から青銅器時代にかけて(前2500~前2000ごろ)〉造られたイギリスのストーンヘンジは、〈ヒール・ストーンの方向が夏至の日の出の方向に一致することが指摘され〉ています(同「世界大百科事典」)。言い方をかえると、ストーンヘンジの中央とヒール・ストーンを結ぶラインは、冬至の日の入りと一致するということです。

 こんなことわざもあります。

〈冬至は唐(から)の正月〉(同「故事俗信ことわざ大辞典」)

 とみていくと、世界中で「冬至」を何かのしるしと考えていたことは間違いありません。

 中国・蘇州は、〈揚子江流域ではもっとも早く開発された〉(同「ニッポニカ」)都市で、隣接する上海に取って代わられるまでは、江南随一の繁栄を誇っていました。本書は、その蘇州の歳時記です。ここに、


 〈郡の人はもっとも冬至節を重んじる〉


 とあります。冬至の前日は、クリスマスイブならぬ〈冬至夜〉。この夜は、〈人家ではたがいに招きあって酒宴を催す〉そうですから、まさにイブ。しかも〈冬至の大(さかん)なること年(がんじつ)の如し〉という諺があるとか。

 本書が書かれたのは19世紀前半。注によれば、この頃すでに、全国的には冬至のお祝いが廃れつつあったようですが、ここ古都・蘇州では、なお冬至が盛んだったのです。

 冬至は、一年で昼が最も短い日です。ゆえに、冬至は〈生活上の終りと始め〉でした。蘇州地方では〈拝冬〉といって、新しい衣に身を包み、挨拶回りをしたそうです。この日を大切に考えていたことがわかります。

 さあ、日本、ヨーロッパ、中国と、「冬至」が揃いました。時代は違えど、冬至はやってきます。今年の冬至は12月21日。古にならって(たとえばゆず湯につかりながら)、来し方行く末について、思いを巡らせたいと思います。



本を読む

『清嘉録 蘇州年中行事記』(顧禄著 中村喬訳注)
今週のカルテ
ジャンル風俗
時代・舞台19世紀前半の中国・清
読後に一言クリスマスはもとより、〈世界の諸民族の間にも、この日を陽気の回復、再生を願う日、また太陽の誕生日とするような観念がうかがえる〉(ジャパンナレッジ「ニッポニカ」)。やっぱり冬至ですよ。
効用気になる日や行事と、本書を読み比べてみると、いろいろな発見があります。
印象深い一節

名言
俗に、冬至の日から数え起して九九八十一になると、寒さが尽きるとされる。(「十一月」)
類書2世紀の中国の歳時記『四民月令』(東洋文庫467)
19世紀の北京の歳時記『燕京歳時記』(東洋文庫83)
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