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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 746

『増補 本居宣長1』(村岡典嗣著 前田勉校訂)

2020/12/24
アイコン画像    真理に生きた本居宣長、
「もののあはれ」を発見す

 学生の頃、子安宣邦の『本居宣長』(岩波新書)を手に、松阪(三重県)に向かった。ここには宣長の旧宅が残っている。ついでに梶井基次郎の『城のある町にて』の舞台となった松坂城跡を訪ねた。以来、ン十年経つが、「本居宣長をちゃんと学ばねば」という念だけを頭の片隅に残すのみで、これっぽっちも進んでいない。

 そこでこの年末にようやく歩を進めることにした。手に取るは村岡典嗣の名著『増補 本居宣長』である。

 まずは宣長について確認したい。

 〈江戸後期の国学者。一七三〇年(享保十五)~一八〇一年(享和元)。(中略)郷里で医者を開業しながら、賀茂真淵(かものまぶち)を師と仰いで、本格的な実証的研究を深め、国学を大成した〉(ジャパンナレッジ「全文全訳古語辞典」)

 宣長には多くの弟子がいたが、教え方も変わっていた。本書の記述を要約してみよう。

(1)伝統だからといって鵜呑みにするな
(2)師の教えだからといって、無闇に従うな
(3)周囲の人間の考えに惑わされるな
(4)自分の説に固執するな(説は変わってよい)
(5)新しい説を唱えるのはいいが、まず突き詰めよ

 師の教えに従わずともいい、というところに凄味を感じる。自分に自信があったともとれるが、ようは従うべきは真理である、と説いたのだ。

 では宣長が見いだした真理とは?

 『源氏物語』といえば、「もののあはれ」が相場だが、このことを説いたのは、誰あろう宣長であった。


〈物語の意義、目的は、決して教誡でもなく、勧善懲悪でもなく、詮ずるところ「物のあはれ」にある〉


 村岡は、宣長の言葉を引きながら解説する。


 〈あはれとは、「見るもの、聞くもの、触るゝ事に、心の感じて出づる歎息の声」で、畢竟これ、人心自然の感情である〉


 村岡によれば、喜怒哀楽、感情の動くものはすべて「あはれ」である。それが、〈悲哀の感情につけてのみ言ふやうになつたのは、人情あまたある中に、悲哀の情がことに深いからである〉。利でも智でも意志でもなく、宣長は(日本人の)根本に「情」を見いだしたのであった。

 宣長の功績は多岐にわたり、これだけにとどまらないが、ひとまずここまで。年始に続きをお届けしたい。



本を読む

『増補 本居宣長1』(村岡典嗣著 前田勉校訂)
今週のカルテ
ジャンル思想/伝記
刊行年・舞台1911年刊行、1928年増訂・日本
読後に一言年またぎでお届けします。
効用本居宣長研究の基本的文献です。
印象深い一節

名言
彼(宣長)の一生の活動は、殆んど凡て、学問の研究に限られてゐる。(「序 宣長伝の区劃」)
類書同著者の論文集『新編 日本思想史研究 村岡典嗣論文選』(東洋文庫 726)
本居宣長の古今集俗語訳『古今集遠鏡(全2巻)』(東洋文庫770、772)
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