1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。
ありがとうよりかたじけない? 有職故実の古典に学ぶ(4) |
先日、書架を整理していて驚いた。「事典」「辞典」と名がつく本がやたら多いのである。
『消えた日本語辞典』(東京堂出版)、『関西ことば辞典』(ミネルヴァ書房)、『新版 日本史モノ事典』(平凡社)、『日本史「今日は何の日」事典』(吉川弘文館)……。まあここまではいい。何か学問の香りがする。
ではこうなるとどうか。『いろごと辞典』(角川ソフィア文庫)、『方位読み解き事典』(柏書房)、『異名・ニックネーム辞典』(三省堂)、『日本現代怪異事典』(笠間書院)、『日本伝奇伝説大事典』(角川書店)、『事典 和菓子の世界』(岩波書店)……。途端にアヤシイ人物になる。「図鑑」も含めるともっとヘンになるのでやめておく。
実は辞事典好きにとって、『貞丈雑記』は外せないことを今回、学んだ。これは有職故実の事典なのであった。
辞典的な記述の中でも「おっ」と思ったのは、これだ。
〈「忝(かたじけなし)」という詞(ことば)を、今時は貴人に対しては「ありがたし」と云う事、古(いにしえ)はなき事なり。古は、公方様(将軍)へも「忝」と申したるなり〉
気になって「日本国語大辞典」(ジャパンナレッジ)で、「ありがたい」を調べてみる。すると「語誌」のところに、「かたじけない」との関連で次のようにあった。
〈……類義語カタジケナシと関連があり、室町頃は感謝の意はカタジケナイが用いられ、元祿以降アリガタイが優勢になったとされている〉
これからは、事あるごとに「かたじけない」と言おう。
「おっ」第二弾はこれ。
〈料理と云う詞、今は食物を調えこしらゆる事を云う。むかしは食物ばかりに限らず、何にてもとりはからう事を「料理する」と云うなり。「料」の字は「はからう」と訓むなり〉
これもジャパンナレッジで調べてみる。
〈料理ということばは平安朝の初期からある。物や物事を、はかりおさめる、うまく処理する意に用いていたが、まもなく食べ物専用のものになった〉(「ニッポニカ」)
食べ物を調理する「料理」が先にあって、そこから転用していったと思っていたが、逆だった。『貞丈雑記』の正確さ、オソルベシである。
こうやってツマミ読みするだけで、どこまでも好奇心の線は引かれていく。辞書を読む醍醐味である。
ジャンル | 教育/政経 |
---|---|
時代・舞台 | 江戸/1784年頃完成、1843年刊行 |
読後に一言 | 『大予言事典』(学研)や『日本語をみがく小辞典』(角川ソフィア文庫)も捨てがたいです(笑) |
効用 | 最終4巻目は、お金(鳥目類)や神仏など15項目を収録します。 |
印象深い一節 ・ 名言 | 「あやまる」と云うは「あやまちある」を云うなり。今時は、我が悪事を悔みて赦免を請うを、あやまると云うは、非なり。(巻之十五「言語の部」) |
類書 | 日本初の図入り百科事典『和漢三才図会(全18巻)』(東洋文庫447ほか) 江戸の本草事典『本朝食鑑(全5巻)』(東洋文庫296ほか) |
ジャパンナレッジは約1900冊以上(総額850万円)の膨大な辞書・事典などが使い放題のインターネット辞書・事典サイト。
日本国内のみならず、海外の有名大学から図書館まで、多くの機関で利用されています。
(2024年5月時点)