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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 618|619

『中国小説史略1,2』(魯迅著 中島長文訳注)

2021/03/04
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魯迅に教わる中国文学史

 文学部出身なので「文学史」自体に馴染みが深いのですが、本書『中国小説史略』の解説を読んでいて、フムフムと考えるところがありました。


 〈アジアにもと文学史はなかったと言ったが、西洋にも古典古代は言うまでもなく、中世にも文学史はなかったのである。西洋各国の文学は、国民国家あるいは民族国家の成立過程と軌を同じくする。言語の面では民族語の成長とラテン語からの独立によって各国の国民文学が成立する〉


 活版印刷は、〈火薬、羅針盤とともにルネサンス期の三大発明〉(ジャパンナレッジ「ニッポニカ」「印刷」の項)といわれていますが、15世紀から始まった印刷革命が、それぞれの国の言語を定着させていったと考えていいでしょう。

 早くから印刷技術を持ち、優れた文学作品を有していた中国には、しかし「文学史」はありませんでした。解説の〈文学史というものは成り立ちのそもそもから国民的ないしは民族的契機を元としている〉という言をそのまま受けるなら、アジアの中心として確固たる地位を築いていた中国にとって、「民族的契機」は必要としていなかったのかもしれません。19世紀末になり、欧米列強から領土が脅かされるにあたって、日本からの逆輸入という形で中国文学史がもたらされたのは、必然といえなくもありません。こうした流れの中で、本書著者・魯迅は、中国小説の歴史の整理に挑みます。小説とは何かを〈いちいち論じないで〉、〈(文学の)歴史に徴してみよう〉というところに、魯迅の潔さを感じます。

 本書の有効な使い方は、「読書の手すり」です。例えば、東洋文庫所収作品も多く登場します。


・六朝時代の志怪小説集『捜神記』
・同じく六朝時代の短編小説集『幽明録・遊仙窟他』
・唐代の小説を集めた『唐代伝奇集』(全2巻)
・明代の怪異小説集『剪燈新話』(本文では『剪灯新話』)
・明代末のファンタジー『鏡の国の孫悟空 西遊補』(本文では『西遊補』)
・明代末の口語短編小説集『今古奇観』(全5巻)
・清代の人気長編小説『水滸後伝』(全3巻)
・清代の官僚批判小説『老残遊記』
・清代の玄宗・楊貴妃の恋愛譚『長生殿』(本文では『長生殿伝奇』)
・清代、18世紀後半の怪談集『子不語』(全5巻)


……とこんな具合です。

 東洋文庫は、中国小説の宝庫だったのですね。



本を読む

『中国小説史略1,2』(魯迅著 中島長文訳注)
今週のカルテ
ジャンル評論/文学
刊行年・舞台1923、24年/中国
読後に一言小説だけでこのボリューム。詩を加えたら大変なことに。中国文化の底力を感じます。
効用日本に大きな影響を与えた中国文学の流れを掴むことができます。
印象深い一節

名言
(大器は晩成のため、この瓦釜のごとき凡庸の作が生き延びているのである。(「題記」)
類書魯迅論『魯迅 その文学と革命』(東洋文庫47)
魯迅の詩集『魯迅「野草」全釈』(東洋文庫541)
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