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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアの古典・名著がズラリそろって、その数なんと850点余! 後世にぜひ引き継いでいきたい、まさにアジアの文化遺産なのです。

そんな珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、あなたを面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫
『イエズス会士中国書簡集 4 社会編』(矢沢利彦編訳)

2021/04/01
   困ったときは神頼み? 
それとも巨大イカにすがる?

○萌えキャラ・バーチャル観光大使製作(沖縄県中城村)
○巨大イカのモニュメント(石川県能登町)
○仮想徳島城天守閣(徳島市)

 とつらつらと並べてみたが、これ「新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金」によってなされた公共の事業だ。他にも、公用車を購入したり、花火大会を開催したりとやりたい放題。これは、コロナ対応のための取組である限り地方公共団体が自由に使える、というふれこみの政権肝いり交付金で、予算は計4兆5000億円! このお金を別のことに回せなかったのか、と私でなくとも考えるのではないか。

 似たようなことが300年前の中国で起こっている。

 ふたつの省を管轄する総督が、皇帝に対し言上した。当時、この省ではイナゴの被害に苦しんでいた。


 〈将軍劉猛(リユーモン)(後漢のひと)をたたえる廟を建てた地方では、ほとんどどこでも蝗(イナゴ)やその他の昆虫類の害が少しもないのに、逆にかれのために廟をつくらなかった地方では、これらの昆虫から普通与えられる被害をしょっ中蒙っている〉


 「劉猛将軍」は、〈蝗害を駆除するとされる神〉(ジャパンナレッジ「岩波 世界人名大辞典」)として信仰を集めていた。「だから廟を建てましょう」と上申したのだ。

 幅約13メートル、高さ約4メートルの巨大イカを作れば、まさかコロナが終息すると考えたわけではないだろうが、「イナゴには廟」レベルのアイデアだろう。

 今の日本はこうした愚策もまかり通る。では300年前の中国ではどうだったか。上申を受けた皇帝の言。

・正道を踏み外した皇帝に起因する。
・官僚が公共の福祉を探し求めなかった。
・地方が、法を守らず、適切な指令を与えなかった。

 などと問題点を指摘し、こう言を繋ぐ。


 〈(地方に問題が起きていると報告を受けると)朕は入念に自己の行為を検討し、宮中にはびこっているかも知れない不品行を正そうと考えるのである〉


 本書は、仏人イエズス会士による報告書簡である。官報の記事を抜き書きしたものなので、施政者側に有利な誇張もあるだろうが、それでも皇帝は正しく振る舞おうとしていることがわかる。はたして300年前の中国より、今の日本が優れているといえるだろうか。



今週のカルテ

ジャンル宗教/風俗
時代・舞台中国・清代(1700~1778年)
読後に一言人間も社会も、過去と比べて進歩しているわけではない、ということを改めて実感。ゆえに本から学ぶのでしょう。
効用仏人宣教師の目を通して、当時の清の社会が浮かび上がってきます。「書簡による報告書」という体裁が、さらに内容を端的にしています。
印象深い一節

名言
官たるものはおのれを忘れ、公共の利益だけを考えるべきであります。(「第八書簡」)
類書イエズス会マテオ・リッチの中国向け布教の書『天主実義』(東洋文庫728)
イエズス会ザビエルの考えが分かる『聖フランシスコ・ザビエル全書簡(全4巻)』(東洋文庫 579ほか)
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