1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。
フランス人宣教師が見た 1700年代初頭の台湾とは? |
台湾についてあれこれ思いをめぐらせてみたい。
現在、中国とアメリカの争いが激化しているが、その懸案のひとつが「台湾」である。台湾の独立を依然として認めない中国と、台湾を後押しするアメリカ。台湾を「米中の火薬庫」と見る向きがある。何ともきな臭い。
そもそも台湾とは?
〈台湾は漢民族により発見され、7世紀初頭、隋 (ずい) の時代に台湾の偵察征略が試みられている〉(ジャパンナレッジ「ニッポニカ」)とあるが、「発見」の記述は正しくない。先住民の高山族(マライ・インドネシア系)がすでに根を張っていたからである。ネイティブ・アメリカンに対する西洋人、アイヌや琉球民族に対する日本人の暴挙と同じことが、ここ台湾でも起こった。台湾は、中国、オランダ、日本に支配され、戦後は国共内戦に敗れた国民党政権が大挙して台湾に渡って今に至る。
『イエズス会士中国書簡集5 紀行編』の中に、仏人宣教師が見た1700年代初頭の台湾の姿が描かれている。台湾を併合した清の康熙帝は、宣教師たちを使って地図を作らせていた。その一環としての台湾渡航だった。地図作成に携わった宣教師だけに、地政学的な視点もはっきりと持っていた。
〈台湾(フォルモーズ)はきわめて重要な土地です。もし一シナ人がこれを奪えば、それは全帝国に大騒ぎを惹起する可能性があります〉
重要な土地ということは、それだけ争いが絶えないということだ。
宣教師は先住民の食事の模様などを「野蛮」と評すが、本質は捉えていた。
〈誇りということは、かれらにおいての方がもっとも文化の進んだひとびとや、贅沢と豪華さを得意がっているひとびとよりもずっと高い価値をもっているということさえもあなたはお信じになりますか〉
自分たちの価値基準からすれば着る物は粗末で刺青もしていたが、彼らには「誇り」があったというのだ。結婚も自由が許されており、個々人の選択が尊重された。彼らは公平で、泥棒や喧嘩もなかった。
〈わたしはかれらがシナのもっとも有名な哲学者たちの多数より以上に真なる哲学者に近いと信じます〉
自分たちと違う文化を持つ人々をどう見るか。ようはどんな「ものさし」持つかということなのだろう。
ジャンル | 宗教/紀行/td> |
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時代・舞台 | 中国・清代(1699~1773年)、台湾、チベット、日本 |
読後に一言 | 本書が面白いのは、ここに異文化同士のつばぜり合い、交わし合いが収められているからである。 |
効用 | 他にも、琉球(沖縄)やチベットなど、周辺地域のレポートも収録されています。 |
印象深い一節 ・ 名言 | 陛下のお部屋には椅子もなければ、腰掛もありません。なぜならば陛下がだれかに座をお与えになるにしても、その男はいつも敷物が敷いてある床の上にしか坐ることがないからです。(「第十書簡」) |
類書 | 清代の台湾の風俗『問俗録』(東洋文庫 495) 同時代の朝鮮知識人がみた中国『熱河日記(全2巻)』(東洋文庫325、328) |
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(2024年5月時点)