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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 452

『八代集1』(奥村恒哉校注)

2011/07/14
アイコン画像    和歌の基本中の基本、『古今和歌集』を眺めると見えてくる、日本人のやまとうたの心。

 日本最古の和歌は、素戔嗚尊(スサノオノミコト)の歌だといわれている。


 八雲立つ出雲八重垣妻籠みに八重垣作るその八重垣を 


 『古事記』にある歌だが、歌に疎い私には「八」ばかり目立つなあと思っていたのだが、先日、「八代集」について調べていたら、思わぬ解答を得た。


 〈……(八代集の呼称は)定家のころ、『新古今集』撰集後間もなく生じたと考えられる。なお、「八」はわれわれの遠い祖先以来尊重された数であった〉

(ジャパンナレッジ「国史大辞典」)


 「八代集」とは、『古今集』から『新古今集』までの8つの勅撰和歌集のことだが、なぜ「八」なのかといえば、「祖先以来尊重された数」だから。例えば江戸は「八百八町」といわれるが、実際の数ではなく、「たくさんある」という意味を「八百八」に込めている。つまり「九百九」でもよかったのだが、あえて「八」を選んでいるのだ。四国の霊場が88カ所なのも、米寿を祝うのも、八重咲きも八百万神も、「八」信仰から来ているのだろう。だから「八雲」や「八重垣」であり、勅撰和歌集も「八代」なのだ。

 そんなことが気になるのは、和歌が頭にあるから。

 先日、和歌を研究する友人に、「和歌の優劣はどうやってつけているの?」と聞いたら、「数多く触れるうちにわかってくる」という答えにならない答えが返ってきた。和歌に正解への近道はないらしい。それでは、ということで『八代集』全4巻を頭から読むことにした。

 東洋文庫の『八代集1』は、『古今集』と『後撰和歌集』を載せているが、その『古今集』で有名なのは、紀貫之による「かな序」だ。その出だし。


 〈やまとうたは人の心をたね(種)としてよろつ(よろず)のことの葉(言葉)とそ(とぞ)なれりける〉


 和歌は心に起こり、それは言葉となって出てくる。ストレートではなく、ワンクッションおくという古今スタイルだ。ゆえに(特に明治以降)、「理知的で技巧的」、「女性的」というマイナス評価になるのだけれど……。

 で、「八代集1」で気になったのは、この夏歌。


 〈こそ(こぞ)の夏鳴ふるしてし時鳥それかあらぬか声のかはらぬ〉


 去年の夏、精一杯鳴いていたホトトギスかどうかわからないけど、声も変わらないで鳴いているよ。わが家の近くからもホトトギスの声が毎年するけれど、確かにこの歌のような気持ちになる。それだけで何だか嬉しくなった。

 

本を読む

『八代集1』(奥村恒哉校注)
今週のカルテ
ジャンル詩歌
時代 ・ 舞台平安前期の日本
読後に一言和歌との距離が少し縮まった気が。
効用少なくとも、日本語の美しさを再発見できる。
印象深い一節

名言
花になくうくひす(鶯)水にすむかはつ(蛙)の声をきけは(聞けば)いきとしいけるものいつれかうたをよまさりける(かな序)
類書第2~4巻『八代集』(東洋文庫459、469、490)
中国の詩の基本『唐詩三百首』(東洋文庫239、265、267)
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