1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。
なぜ過ちは繰り返されるのか 日本人の犯した残虐行為 |
もう賠償金は払ったのだから、いつまで朝鮮の人たちに、植民地時代のことを謝らなければならないのか。こう声高に叫ぶ人がいます。これもひとつの考え方でしょう。ですが、「日本人が何をしてきたか」ということをはたして知っているのでしょうか。知ってもなお、そう主張し続けることができるでしょうか。私にはできません。
『朝鮮独立運動の血史 2』には本編と別に、「付録 世界の世論」が掲載されています。付録といっても本書の約半分を割くボリュームで、これだけで1冊の本が編める内容です。日本の朝鮮での振る舞いを世界はどう見ていたか。客観的資料としてここにその一部を紹介します。
中でも異彩を放つのは、米国上院での報告です。米国の立場は明確で、まず〈朝鮮独立運動を政治的に問題にしているのではない〉と明確に線引きします。その上で、日本に対しても頭ごなしに否定するのではなく、日本には〈反動的軍国主義勢力〉と〈自由主義的で進歩的な勢力〉があると分析し、後者に期待を寄せています。〈正確な情報にもとづく、公正な世論が必要である〉という認識のもとなされた報告であることを押さえてください。
その一例です。
・日本人の警察/〈朝鮮では、殴打と拷問が、警官の使用する訊問方法の根本方針である〉
・デモの対応1/〈デモの群衆は、なんらの暴力も使わずただ独立を叫んだのみで、発砲されたり襲撃されたりした点で、一致している〉
・デモの対応2/孟山で「独立万歳」を叫んだ56人は憲兵分遣所に連れてこられ、〈構内に入ると、憲兵は門を閉め塀の上にのぼって、皆を射ち倒した〉
上院に報告した際の「証拠書類」は30以上にのぼります。本書では「証拠書類」の約半数を収載していますが、そのほとんどは、ここで紹介するのも憚られるような、日本人による残虐行為です。人の心は、こうも簡単に捨てられるものなのでしょうか? しかし遠い昔の話ではないのかもしれません。21世紀の日本でも、施政者の演説中にヤジを飛ばせば警察に連行され、「五輪反対」を叫べば反日のレッテルを貼られるのですから。
〈朝鮮が内乱で、日本の友好的援助を要請している〉
これが、朝鮮半島に日本軍を派遣する際に、日本政府が行った説明です。ですが実際にしたことは、〈内乱を煽動〉することと〈秩序を紛乱〉することでした。
平気で嘘をつき、不都合な人間は排除する。100年前から変わらぬ日本の姿です。過ちを直視しなかったことが、今日の同じ過ちに繋がっているのかもしれません。
ジャンル | 歴史 |
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時代・舞台 | 20世紀初頭の朝鮮(韓国、北朝鮮) |
読後に一言 | 躊躇なく朝鮮の人を打ち殺した日本人は、家族の前では「いい人」だったのでしょうか。何が人を残虐行為に駆り立てるのでしょうか。 |
効用 | 日本の植民地支配を、朝鮮の人はどう見ていたか。世界はどう見ていたか。「視点」を変えることで、見えてくるものがあります。 |
印象深い一節 ・ 名言 | (ひとりの朝鮮の女性が、官憲に「独立」を口にしたことを咎められ)わたしは朝鮮人です。かならず朝鮮の独立を希望します(第一八章「女性と子供の愛国熱」) |
類書 | イサベラ(イザベラ)・バードが見た19世紀末の朝鮮『朝鮮奥地紀行(全2巻)』(東洋文庫572、573) 新羅・高句麗・百済の朝鮮三国時代の史書『三国史記(全4巻)』(東洋文庫372ほか) |
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