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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

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『南アフリカでのサッティヤーグラハの歴史1 非暴力不服従運動の誕生』(M.K.ガーンディー著 田中敏雄訳注)

2021/12/23
アイコン画像    2021年を象徴する漢字は「金」
ガンジーと南アフリカと金と

 2021年の世相を表す「今年の漢字」は「金」でした。東京五輪の「金」メダルラッシュから選んだ人が多いのでしょうが、コロナ禍での休業支援金に給付金、政治家の金絡みの汚いニュースなど「金」にまつわるニュースも多く流れた年でした。

「金」という漢字は、一説に〈土の中の鉱石が光を発していること〉(ジャパンナレッジ「新選漢和辞典 Web版」)だといいます。〈美しいもの、貴重なものの形容〉(同前)という意味も生まれました。本コラムの1年の終わりは、美しいもので終えたい。というわけで、インド独立の父・ガンジー(本書ではガーンディー)にご登場いただきましょう。ガンジーの箴言です。


 〈重い責任のある地位につく人に英語力や学歴は必要ですが、それ以上に必要なのは、真実、平静、忍耐、強固、沈着、勇気、そして常識です。公的な活動では、これがなければ、最高学歴ですら一握りの土くれの値打ちもありません〉


 『南アフリカでのサッティヤーグラハの歴史』は、ガンジーをガンジーたらしめた闘争の記録です。ガンジーは、〈(南アフリカで)働くインド人年季雇用労働者たちの市民権獲得のための運動を指導することとなり、22年間ここに滞在し、自ら「サティヤーグラハ(真理の把握)」と名づける大衆的な非暴力的抵抗闘争を成功へと導いた〉と「ニッポニカ」(ジャパンナレッジ)にあります。

 状況を説明すると、19世紀末の南アフリカは英国の支配下にありました。ところが奴隷制度は廃止され、大規模農園の働き手がいない。そこで英国は同じく支配していたインドから、大量の労働者を連れてきたのです。やがて経済力を身につけたインド人を、白人は恐れます。そして次々と法律による差別を開始、ガンジーはそれに対し、戦ったのです。本書はその記録です。

 南アフリカ連邦(のちの南アフリカ共和国)成立の立役者・スマッツ将軍(第一次世界大戦後、国際連合の設立を提唱)の言い分が振るっています。西洋文明と東洋文明の〈両文明が融合できるとは認めていない〉と断言します。


 〈西洋は質素を敵視する。東洋の人たちは質素を重要視する。この両者がどのようにして一緒になれようか?〉


 さらに自分たちを〈物質的欲求〉を追う〈浪費家〉だといいます(まさに資本主義的です)。その〈自己の文明〉を守るためにインド人的な〈辛抱強さ〉や〈倹約ぶり〉が際立つ生き方は受け入れられない、というのです。ようは西洋と東洋のいちばんの違いは、「金」を使うか、使わないか。「金」=権力を武力で守るか否か。

「金」が差別を生み、差別を肯定していたのでした。



本を読む

『南アフリカでのサッティヤーグラハの歴史1 非暴力不服従運動の誕生』(M.K.ガーンディー著 田中敏雄訳注)
今週のカルテ
ジャンル思想/政治
時代・舞台19世紀後半から20世紀前半のインド、南アフリカ
読後に一言労働力が足りないからと、余所の国から大量に人を入れ、挙げ句、差別する。これは南アの話ですが、21世紀の日本の「技能実習生」制度と、さて何が違うのでしょうか。
効用非暴力不服従というスタイルが生まれたきっかけが、書かれています。
印象深い一節

名言
頭の上での知は、実体験の機会には役に立たないのです。(24「内部の意見不一致」)
類書ガンジーの自伝『ガーンディー自叙伝(全2巻)』(東洋文庫671、672)
ヒンズー教の習俗と儀礼『カーストの民』(東洋文庫483)
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