1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。
日本は差別大国だった!? ガンジーの闘争から見る日本 |
コロナが炙り出したのは、世界中の差別感情でした。黒人差別や欧米諸国のアジア人差別だけではありません。五輪期間中、日本の大手ホテルは、館内の食事会場やエレベーター前に「日本人専用」「外国人専用」と書いた貼り紙を掲示し、謝罪に追い込まれました。コロナ対策と称して、「外国人お断り」と貼り紙を張る飲食店も、全国に出現しました。問題なのは、これが差別だと気づいていなかったことです。
本書は、南アフリカにおける1900年代前半のインド人公民権運動の記録です。これは、〈同地での厳しい人種差別政策に抗して〉の運動で、〈いかなる弾圧にも非暴力で抵抗するという,のちのインド独立運動にたいするガンディーの指導原理の基礎〉(ジャパンナレッジ「世界大百科事典」「サティヤーグラハ」の項)となりました。ガンジー(ガンディー、ガーンディー)は、インド独立の前に南アで闘っていたのです。
本書(第二巻)ではいよいよ、ガンジーの闘争が激化します。といってもその闘いは、あくまで非暴力不服従。例えばインド人は登録証の携行が義務づけられていましたが、未携行は逮捕されます。インド人が大量に逮捕されれば監獄は満杯になります。政府の出費は嵩み、内外の世論も喚起される。相手を痛めつけるのではなく、自ら進んで苦痛を受け、法のおかしさを世に示したのです。
〈自分の力を信じ、相手側が騙そうとしても心配しません。何度騙されても信じつづけますし、そうすることでこそ真理の力は増し、勝利は近づいてくる、と信じています〉
ガンジーらインド人たちは勝利を収め、約20年に渡った闘争は終わりを迎えたのでした。
人種隔離政策アパルトヘイトが本格化するのは第2次大戦以降ですが、ガンジーの頃からすでに始まっていたといっていいでしょう。アパルトヘイトは廃止されましたが、今も人種間の分断が続いているといいます。
2021年12月6日、在日米大使館は、日本の警察が特定の人種や民族、肌の色、宗教などを対象にした捜査活動(レイシャル・プロファイリング)を行っていると在日米国人に警告を出しました。100年前の南アで、ガンジーたちインド人がされていたことが、21世紀の日本でも公然と行われているのです。
人種とは何でしょう? 見た目で、態度を変えてしまうのはなぜでしょう? ガンジーならこの現状をどう捉えるでしょう?
ジャンル | 思想/政治 |
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時代・舞台 | 20世紀前半のインド、南アフリカ |
読後に一言 | ガンジーの功績に異を唱えるわけではありませんが、引っかかりを覚えるのは、この闘争が常に「インド人」たちの権利獲得を目的にしていた、ということです。アフリカ人たちのことは眼中にあったように思えません。実はここにも差別が内在していたのではないか? ではどうすべきか、という答えはないのですが……。 |
効用 | ガンジーの思想により近づけます。 |
印象深い一節 ・ 名言 | 人間は信仰や勇気を他人から盗めません。(11「トルストイ農場──3」) |
類書 | 古代インドの行動規範『ヤージュニャヴァルキヤ法典』(東洋文庫698) ヒンズー世界の古典『ヒンドゥー教の聖典 二篇』(東洋文庫677) |
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(2024年5月時点)