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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

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『稿本 自然真営道 大序・法世物語・良演哲論』(安藤昌益著 安永寿延校注)

2022/01/20
アイコン画像    江戸時代に平等を唱えた
唯一無二の独創的思想家

 いろり(炉)には薪が赤々と燃え、鍋が火にかけられている。かつての日本の田舎では、当たり前にあった光景ですが、安藤昌益はここに、世界のすべてを見ました。


 〈転下、万国万家異なれども、炉の四行、八気、互性の妙用に於て、只一般なり。此の一般の炉に助けらる人なる故に、人の業は直耕一般、万万人が一人に尽し極まること、明らかに備わる、其の証、是れ炉なり〉


 天下にある国や家はすべて異なる。しかし「いろり(炉)」に人が助けられているのは、万国共通だと昌益は説く。端的にいえば、いろりの前では平等だ、といえばいいでしょうか。私なりに解釈すれば、身分によっていろりの働きは変わらない、ということです。

 いろりの火によって、相手の顔が見えます。


 〈男女(ヒト)は万万人にして只一人なる明証の備わり、面部を以て自(ひと)り知れて在り。(中略)面部に、大小、長短、円方の小異有れども、八門の備わりに於て、全く二別有ること無し〉


 人間は無数にいるが、誰ひとり同じ顔はない。(貴人だろうが下賤の者であろうが)身分によって顔の作りが違う、ということもない。

 安藤昌益は、江戸中期の思想家です。〈すべての人が平等に生産に従事して生活する「自然の世」を唱えた〉(ジャンパンナレッジ「デジタル大辞泉」)というのが辞書的説明です。本書『稿本 自然真営道』は〈近世において封建的な身分制度を全面的に否定すべきことを主張した唯一の書物〉(同「国史大辞典」)です。で、昌益の平等主義を本書から抜いてみたのですが、この思想がわかるようでわからない。そもそも昌益時代が謎に包まれています。

 〈経歴の大部分は不明〉(同「ニッポニカ」)で、わかっているのは八戸(青森県)で町医者を営んでいたということと、門人を抱え、本書を著したということ。そして〈同時代ならびにその後の文献の中で、学者もしくは思想家としての昌益に言及したものは、一つも発見されていない〉(同「国史大辞典」)という事実です。明治時代に狩野亨吉(思想家)が古書店で偶然発見するまで、誰も注目していませんでした。

 昌益は、仏教、儒教、神道などのあらゆる宗教や政治を「法世」と名付け否定します。そこには作為がある。反自然的なので災害や争いが絶えない。耕さずに貪る僧や学者を忌み嫌いました。昌益は、自然にまかせる「自然の世」に理想の世界を見出したのです。

 本書を手に取れば、この思想が独創的で、それゆえに広がらなかったことが理解できるでしょう。圧倒されるためだけに、目を通して欲しい書物です。



本を読む

『稿本 自然真営道 大序・法世物語・良演哲論』(安藤昌益著 安永寿延校注)
今週のカルテ
ジャンル思想
時代・舞台江戸中期(1700年代半ば)の日本
読後に一言これら思想が、東北のいろりの中から生まれたことに、驚きます。
効用思想の根幹をなす「大序」が現代語訳されているので、読みやすい。
印象深い一節

名言
真は道なり、道は真なり(「大序」)
類書江戸中期の儒学者・荻生徂徠の注釈書『論語徴(全2巻)』(東洋文庫575、576)
江戸中期の国学者・本居宣長の口語訳『古今集遠鏡(全2巻)』(東洋文庫770、772)
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