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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 490

『八代集4』(奥村恒哉校注)

2011/08/04
アイコン画像    後世に大きな影響を与えた西行。
かの歌人を一躍メジャーにした、新古今和歌集。

 「八代集」の最後を飾る『新古今和歌集』。しかしこの名称、よくよく考えるとヘンである。私の世代でいうと、「帰ってきたウルトラマン」に通ずるヘンさがある。あれも、ウルトラマン→ウルトラセブンと来て、初代に回帰したのだった。そして通称は「新マン」。勅撰和歌集は間に6つ挟んで、とうとう初代に回帰した……そんなことが、この“新”には込められている?


 では『新古今和歌集』の正体とは? 最も多くの歌が入集している歌人――西行を手がかりに考えてみる。

 某政治家が尊敬している人物にあげている高杉晋作は、一時期、東行と名乗って詩作をしている。西行に憧れるあまり、その名をパロったというわけだ。他にも松尾芭蕉、連歌師の宗祇や宗長が影響を受けたといわれているほどで、その存在は非常に大きい。

 ということは、西行の歌を見れば新古今がわかる?

 気になった歌をあげてみる。


 〈おも影のわすらるまし(じ)き別(わかれ)かな名残を人の月にとゝ(とど)めて〉

 別れたばかりのあの人の面影が忘れられない。月に光の中に名残が残っているよ。


 〈をしなへて(おしなべて)物をおもはぬ(思わぬ)人にさへ心をつくる秋のはつかせ(初風)〉

 物思いしないような人でも、一様に物思いに更けりたくなる秋の風だなあ。


 〈さひしさ(寂しさ)にた(堪)へたる人の又もあれな庵をならへん(並べん)冬の山里〉

 寂しさに耐えてる人が自分の他にいたらいいな。冬の山里は庵を並べて住んだらいいのに。


 勝手な訳なので思い違いもあるだろうけど、パッと読むとセンチメンタルな部分だけが際立つ。言い換えると、芯の強さや生命力といったものを、うまく隠しているような、そんな気がしてならない。


 〈世中(世の中)をおもへはなへて(思へばなべて)散(散る)花の我身をさてもいつ(づ)ちかもせん〉

 桜が散るように、すべてのものは滅んでいく。そんな我が身をさあいったいどうしよう?


 問い自体は骨太なのだ。しかし表現が繊細だから、こちらがぶつかる前に逃げられてしまう。そんな感じだ。

 美しすぎて正体が見えない――まるで着飾ったセンスのいい女性だ。これが私にとっての新古今であった。

本を読む

『八代集4』(奥村恒哉校注)
今週のカルテ
ジャンル詩歌
時代 ・ 舞台鎌倉前期の日本
読後に一言日本人の桜好きは、西行の影響?
効用日本の美のひとつの形が、ここに結実した――そんな和歌集です。日本文学の基本を学べるのでは?
印象深い一節

名言
心なき身にもあはれはし(知)られけり鴫たつ沢の秋の夕くれ(暮)(西行「新古今和歌集」)
類書西行を敬慕した詩人『良寛歌集』(東洋文庫556)
『八代集1~3』(東洋文庫452、459、469)
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