1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。
後世に大きな影響を与えた西行。 かの歌人を一躍メジャーにした、新古今和歌集。 |
「八代集」の最後を飾る『新古今和歌集』。しかしこの名称、よくよく考えるとヘンである。私の世代でいうと、「帰ってきたウルトラマン」に通ずるヘンさがある。あれも、ウルトラマン→ウルトラセブンと来て、初代に回帰したのだった。そして通称は「新マン」。勅撰和歌集は間に6つ挟んで、とうとう初代に回帰した……そんなことが、この“新”には込められている?
では『新古今和歌集』の正体とは? 最も多くの歌が入集している歌人――西行を手がかりに考えてみる。
某政治家が尊敬している人物にあげている高杉晋作は、一時期、東行と名乗って詩作をしている。西行に憧れるあまり、その名をパロったというわけだ。他にも松尾芭蕉、連歌師の宗祇や宗長が影響を受けたといわれているほどで、その存在は非常に大きい。
ということは、西行の歌を見れば新古今がわかる?
気になった歌をあげてみる。
〈おも影のわすらるまし(じ)き別(わかれ)かな名残を人の月にとゝ(とど)めて〉
別れたばかりのあの人の面影が忘れられない。月に光の中に名残が残っているよ。
〈をしなへて(おしなべて)物をおもはぬ(思わぬ)人にさへ心をつくる秋のはつかせ(初風)〉
物思いしないような人でも、一様に物思いに更けりたくなる秋の風だなあ。
〈さひしさ(寂しさ)にた(堪)へたる人の又もあれな庵をならへん(並べん)冬の山里〉
寂しさに耐えてる人が自分の他にいたらいいな。冬の山里は庵を並べて住んだらいいのに。
勝手な訳なので思い違いもあるだろうけど、パッと読むとセンチメンタルな部分だけが際立つ。言い換えると、芯の強さや生命力といったものを、うまく隠しているような、そんな気がしてならない。
〈世中(世の中)をおもへはなへて(思へばなべて)散(散る)花の我身をさてもいつ(づ)ちかもせん〉
桜が散るように、すべてのものは滅んでいく。そんな我が身をさあいったいどうしよう?
問い自体は骨太なのだ。しかし表現が繊細だから、こちらがぶつかる前に逃げられてしまう。そんな感じだ。
美しすぎて正体が見えない――まるで着飾ったセンスのいい女性だ。これが私にとっての新古今であった。
ジャンル | 詩歌 |
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時代 ・ 舞台 | 鎌倉前期の日本 |
読後に一言 | 日本人の桜好きは、西行の影響? |
効用 | 日本の美のひとつの形が、ここに結実した――そんな和歌集です。日本文学の基本を学べるのでは? |
印象深い一節 ・ 名言 | 心なき身にもあはれはし(知)られけり鴫たつ沢の秋の夕くれ(暮)(西行「新古今和歌集」) |
類書 | 西行を敬慕した詩人『良寛歌集』(東洋文庫556) 『八代集1~3』(東洋文庫452、459、469) |
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