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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

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『東洋遍歴記1』(メンデス・ピント著 岡村多希子訳)

2022/02/17
アイコン画像    海を行く『東洋遍歴記』、
陸で暴れる『ドン・キホーテ』

 メンデス・ピントによる『東洋遍歴記』が本国ポルトガルで出版されたのが1614年。〈ピカレスク物語風〉(ジャパンナレッジ「集英社世界文学大事典」「ピント メンデス」の項)は、欧州各国で翻訳されるベストセラーとなった。

 『東洋遍歴記』とはいかなる書物か。

 〈いわゆる大航海時代の風潮に乗じて一五三七年ごろインドに赴いたのち、五八年までの約二十年間、東南アジア・中国・日本水域をあるいは奴隸として、また兵士として、商人として、宣教師として、海賊として遍歴し、その間の見聞を自伝的にまとめた〉(同「国史大辞典」「ピント」の項)

 奴隷、兵士、商人、海賊、宣教師……ピントの「顔」は多岐にわたり、これだけで、とてつもない記録であることがわかる。3巻の巻末に収録する解説によると本書は、〈真実を求めてというよりも、楽しみのために読まれた〉との同時代評もあるという。「嘘つき」と呼ばれることもあったらしく、〈全体的にみて必ずしも事実に基づく記述ではなくむしろ多分にフィクションを交えた文学的作品と評価されている〉(同「国史大辞典」)。

 なにせ冒頭からこう記載されている。


 〈(書く意図は)アジアの果てのあの東洋の島々のその他多くの地方で、十三回捕虜になり十七回身を売られた二十一年の歳月の間に嘗めた苦労と生命の危険を、この書きものを通じて子供たちに知らせんがためである〉


 嘘、奴隷、冒険。この言葉から同時代の物語が頭に浮かんだ。『ドン・キホーテ』だ。〈スペインの作家セルバンテスが1605年に前編を,1615年に後編を発表した小説〉(同「世界大百科事典」)であり、『東洋遍歴記』と同時代だ。実はセルバンテスも、イエズス会系の学校で学んだとされ、兵士であり、船で海に出、奴隷となった(同「ニッポニカ」より)。ピントはアジアの海を彷徨ったが、セルバンテスは陸にとどまった。

 ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャは自らを名高い騎士と思い込み、風車を巨人と勘違いして襲いかかった。ピントは、アオントニオ・デ・ファリアという架空の人物を創出し、途中で出くわす海賊を次々に征伐させた。『東洋遍歴記』への、〈当時の既成の価値観に対する鋭い批判が見られる〉(同「集英社世界文学大事典」「ピント メンデス」の項)という評は、そのまま『ドン・キホーテ』と重なる。

 世界と出会い、価値観が揺らいだ大航海時代だからこそ、海の『東洋遍歴記』と陸の『ドン・キホーテ』が生まれたとはいえまいか。



本を読む

『東洋遍歴記1』(メンデス・ピント著 岡村多希子訳)
今週のカルテ
ジャンル紀行/文学
時代・舞台1500年代中頃のインドネシア、マレーシア、中国など
読後に一言ピントは来日もしていますが、それについては次回!
効用資料としては〈側面史としては無視しえない記述が各処に見られるなど注目すべき著作〉(ジャパンナレッジ「国史大辞典」「ピント」の項)です。
印象深い一節

名言
フェルナン・メンデス・ピントの『遍歴記』という標題の本書には、我らの聖なる信仰あるいは良俗、およびその遵守に反するものは何もなく、むしろきわめて多様、珍奇なことに満ちたすこぶる立派なはなしであり、それゆえ大いに愉快であろう。(「許可状」)
類書14世紀、西欧から中国までの旅行案内書『東方旅行記』(東洋文庫19)
13世紀、マルコ・ポーロの冒険記『東方見聞録(全2巻)』(東洋文庫158、183)
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