1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。
文明開化の最中に訳された「イソップ物語」から、現代に通ずる教訓を読み解いてみる。 |
こうもいろんな出来事が続くと、思考も身体も疲弊するばかりである。本当は、その「出来事」を自分に引き寄せて、ヒントなり教訓なりを引き出せればいいのだが、それはなかなかムズカシイ。だって「●●が悪い!」と文句をいって溜飲を下げた方が楽だから(かくいう私も、愚痴る側の一人である)。
偉人といわれる人たちは、何の変哲もないことから、教訓以上の“真理”を発見する。ニュートンのリンゴしかり。坂道に蹴躓いて悟った禅僧もいる。
ニュートンのように真理を発見できなくとも、日々のニュースから「教訓」を得る程度の自分でいたい。ではどうしたらいいか。スポーツでもそうだが、凡人がうまくなるには特訓あるのみである。同じように、教訓を引き出す練習をすればいいのではないだろうか。
というわけで、“教訓を織り込んだ寓話”を読みこめばいい、という結論にたどり着いた。最も有名な寓話集といえば、B.C3世紀ごろにギリシャで成立した『イソップ物語』である。で、これを明治期に翻訳したのが『通俗伊蘇普物語』というわけなのだ。
有名な「キツネと葡萄」。
〈或日狐葡萄園(はたけ)にはいり。赤く熟せし葡萄の高き架(たな)より披離(すずなり)にさがりたるを見て。是は甘(うま)さうじやと。鼓舌(したうち)をして賞揚(ほめた)て。幾度となく躍上(とびあが)り踊上りたれどもとゞかず。そこで狐が怒(はら)を発て。「ヨシ。なんだこんなものを。葡萄はすッぱいぞ…〉
ジャパンナレッジの「ランダムハウス英和大辞典」で、「grape」(ブドウ)を引いてみると、こんな慣用句が。
〈sour grapes〉
直訳すると「酸っぱいブドウ」。意味は「負け惜しみ」。〈イソップの寓話で,ブドウを取ろうとしたが手が届かなかったため、あれは酸っぱいと言ったキツネの話から〉こんな慣用句ができたそうだ。
『通俗伊蘇普物語』では、痛烈なツッコミも加える。
〈なんでも手前勝手のものじゃ。自分の思ふ様になれば賞(ほめ)る。ならねば誹(そし)る。こゝが情(じょう)の私する処じやゆゑ常に戒めねばならぬぞ〉
「負け惜しみ」ではなく、「自分勝手」という教訓を引き出しているところが面白い。あなたならば、イソップの寓話からどんな教訓を引き出すだろうか。
ジャンル | 説話 |
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時代 ・ 舞台 | B.C.3世紀以前のギリシャ(明治時代の日本) |
読後に一言 | 少し賢くなった気がします。 |
効用 | いわば「教訓リテラシー(読解力)」といってもいい、人生のスキルが身につきます。 |
印象深い一節 ・ 名言 | 原書は欧羅巴諸州の今日に至れる開化を促したる教訓の一書なり(「東京日日新聞」に載せた広告文) |
類書 | 『荘子』や『列子』などから説話を集めた『中国古代寓話集』(東洋文庫109) 中世インドの説話集『鸚鵡七十話』(東洋文庫3) |
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(2024年5月時点)