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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 729、730

『アルファフリー1、2 イスラームの君主論と諸王朝史』(イブン・アッティクタカー著 池田修、岡本久美子訳)

2022/05/26
アイコン画像    イスラム流君主論
リーダー必須の10の資質は?

 リーダー如何で国が滅びることがある。

 皆さんも実感しているのではないでしょうか。北の彼の国や戦争中の大国に限らず、戦中の日本は亡国一歩手前でした(いや、ここ数年の日本も危うかったか)。

 本書『アルファフリー』は〈第4代正統カリフ,アリーの系統を引く家系に生まれた〉〈14世紀のイラクの歴史家〉イブン・アッティクタカーによる君主論です(ジャパンナレッジ「世界大百科事典」)。当時のイスラム圏ではどんな君主を評価していたのか、ここに紹介します。


理性   〈王者の諸々の性質の根本であり〉、〈これを基礎に王国も、さらには宗派すら統治される〉。多くの暴君はこれを失っている。

公正さ リーダーの公正さによって、〈各地域が栄え、人々が善良になる手立てとなる〉。お友だち優遇や賄賂が横行する国が栄えることはないということだ。

知識 〈学問の専門家と相談し、当面する困難な状態をそれによって克服することを可能にする程度に学問に親しむ〉。学問を否定する宰相が日本には多いようで。

敬神の念 上が〈神を畏れ〉れば下は〈安心〉する。「オレサマが一番」ではない、ということ。

罪をよく許す 〈憎悪することは王者にとっては最悪〉。暗君は「こういう人たちに負けるわけにはいかない」と批判者を決して許さない。

気前よさ 気前の良さによってリーダーは〈世間から助言を得〉る。暴君はたいてい私財を溜め込む。

畏敬される 〈これによって王国の秩序は保たれ、臣民の野望から王国が安全に守られる〉。名君は、誰からも尊敬される人のことをいう。

政治力 〈これによって、人命は救われ、財産は守られ、悪事は妨げられ、(中略)不当行為も避けられるのである〉。施政者の基本ですな。

約束に忠実である 〈臣民が王を信用する根本をなす〉。議会で何度もウソをついた宰相がいましたっけ。

状況を見定める 〈善人には彼の善行に報い、悪人にはその悪行に報いてやること〉。暗君はイエスマンに囲まれ、正しい情報とそうでない情報の見分けがつかない。


 著者は〈以上が王にとって備わっているのが望ましいとして挙げられている十の資質である〉と断言します。

 どうでしょうか? 頭の中で較べてみてください。国のトップだけでなく、およそ「リーダー」と言われる人は、すべからくこれらの資質を有して欲しいと願います。


本を読む

『アルファフリー1、2 イスラームの君主論と諸王朝史』(イブン・アッティクタカー著 池田修、岡本久美子訳)
今週のカルテ
ジャンル歴史/宗教
成立・舞台1302年執筆/イラクなど
読後に一言リーダーに求められていることは、イスラム世界であっても変わらないようです。
効用二章からなる本書は、一章で君主論を、二章で通史を論述します。中世イスラム世界の理解を手助けしてくれます。
印象深い一節

名言
書物の価値についていえば、それは欺かず、疲れさせず、仮に読者が粗末に扱っても、文句もいわず、読者の秘事を暴くこともない座右の友である。(「序」)
類書前嶋信次のイスラム文化論『千夜一夜物語と中東文化』(東洋文庫669)
中世アラブの説話『マカーマート(全3巻)』(東洋文庫780ほか)
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