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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 122

『日本児童遊戯集』(大田才次郎編、瀬田貞二解説)

2011/08/18
アイコン画像    明治時代の子どもたちの"遊び"を600以上も
収集した遊戯百科事典で、童心にかえろう。

 最近の子どもにとって夏休みは、“受難”らしい。常日頃から「お膳立て」で生きているから、一日“自由”だとやることがなくなってしまうのだ。わが家の愚息も例に漏れず、もうウルサイのなんのって、夏の蝉にも勝る。

 何かいい知恵はないものかと開いてみたのがコレ。『日本児童遊戯集』である。編集されたのは明治時代。外国から様々な遊びが日本に入ってきたのを契機に、日本の昔ながらの遊びを再発見すべく、全国津々浦々から遊びを募ったものだ。その数なんと、630!

 これがいたってマジメな本で、例えば誰もがよく知る〈睨めッこ〉の記述。


 〈児童各顔を出し合い、種々の睨め方をなし、敵手(あいて)をして失笑せしめんと競うなり。始終耐忍強く笑わざる者を以て勝とし、笑声は勿論、微笑を呈する者を敗と定む〉


 こんな調子で書かれているのだ。いやはや、これが面白い。中でも感心したのは、〈蝉捕り〉の記述。


 〈夏季男児の遊びにて、樹上に攀(よ)じ登り手捕りにせんと敦圉(いきま)く者あり、袋を竿の頭に付して覆い捕えんと猿眼の頑童あれば、黐竿(もちざお)を担ぎて捜し廻る兄さんあり、いずれ未来の英雄ならん〉


 そういえばかつて、木登りや蝉捕りは、夏休みの風物詩であった。今、小学生が木登りしていたら「危ない!」とすぐに止められるだろうけど、明治時代の編者は違う。〈いずれ未来の英雄ならん〉と締める。気が利いている。


 そもそも蝉は、世界中で見られる虫ではない。


 〈世界に分布するセミは約1600種といわれ、それらの多くは熱帯・亜熱帯地方にすんでいる〉(ジャパンナレッジ「ニッポニカ」)


 古代ギリシャの「イソップ物語」が欧米に伝わった際、「アリとセミ」が「アリとキリギリス」に変更されたのはそのせい。蝉の生息する地域では、蝉を特別視し、〈前生を人間であるとする伝えも多い〉(同前)のだそうだ。

 ジャパンナレッジの「日本国語大辞典」で「蝉」を引いてみると、「ほお!」という言葉を見つけたのでここに記す。


〈せんだつ【蝉脱】〔名〕俗事から超然として抜け出ること。古い因襲束縛から抜け出すこと。現状から理想を求めて抜け出すこと〉


 当初の目論見とは異なる読書となってしまったが、まあよし。蝉脱とまでいかなくとも、蝉捕りをする子どもになって欲しいと思う夏である。

本を読む

『日本児童遊戯集』(大田才次郎編、瀬田貞二解説)
今週のカルテ
ジャンル風俗/音楽
時代 ・ 舞台明治時代
読後に一言かつての子どもたちは、"何もない"からこそ、さまざまな遊びを生み出してきたのかもしれない。
効用童心にかえることができます。
印象深い一節

名言
お客が三人飛脚が一人、丹波栗が四つ有って、お客が丹波栗むきゃ飛脚が丹波栗食い、飛脚が丹波栗むきゃお客が丹波栗食い、飛脚とお客と三つと一つに分けて食った。(越前の早口言葉)
類書沖縄のわらべ唄『沖縄童謡集』(東洋文庫212)
おとぎ話の集成『日本お伽集1、2』(東洋文庫220、233)
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