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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 61

『ハリス伝 日本の扉を開いた男』(カール・クロウ著、田坂長次郎訳)

2011/09/29
アイコン画像    "台風"から読み解く歴史秘話――日本の
門戸を世界に開いた男・タウンゼント・ハリス。

 台風の季節である。直撃した際の被害は甚大で、毎年のように日本列島に災禍をもたらしている。

 だが過去を振り返ってみると、この「台風」がひとつの遠因となって、日本の歴史が大きく動いたことがある。

 幕末の開国だ。その先陣を切ったアメリカが、捕鯨基地の確保を理由に日本に開国を迫ったことは知られているが、もうひとつの大きな理由は、台風のために日本に避難するアメリカ人の安全を確保することだった。太平洋を襲う暴風雨が、日本の開国を後押ししたのだ。そもそも「台風」という呼び方さえ、明治以降に入ってきたものだ。英語の「タイフーン」の当て字なのだから。

 日本に黒船という名の台風がやってきたのは、1853年。ペリー提督率いる米海軍艦隊だ。その後、江戸幕府は崩壊し、御一新へと繋がっていくのだが、今回、その立役者のひとり、初代駐日総領事(のち公司に昇格)ハリスの伝記『ハリス伝』を読んで、つくづく「ハリスで良かった」と思った。

 そもそもペリーは日本人をバカにしていた節があって、報告書にも、日本人は〈弱小にして、半野蛮人〉であり、〈正に人類共同の敵というべき〉と記している。交渉もいい加減で、やる気もゼロ。で、その後、総領事としてやってきたのがハリスというわけである。

 元々、無償の中学校(後のニューヨーク市立大学)を設立するほどの人物である。彼は、自分の役割を十二分に認識していた。


 〈私は日本に駐在のため、文明国から送られた、最初の公認領事となるだろう。これは自分の生活に一時代を画するとともに、日本にとっても、新体制の夜明けとなろう〉


 日本の役人たちも、ハリスには驚いたらしい。


 〈日本の役人たちがいちばん驚いたことは、彼が一言も嘘をつかなかったこと、あらゆる質問に対しては率直な回答をしたことである〉


 と伝記は記す。一方のハリスは、日本の役人に対し、〈彼らは地上最大の嘘つぎだ〉と憤慨しているのだが……。

 ハリスはしかし、どこまでも公正だった。日米修好通商条約は不平等条約といわれるが、それは致し方のないこと。むしろハリスによって、列強の暴風雨から日本は守られたと言えまいか。少なくとも、ここから日本の近代は幕を開けた。


〈墓地に眠る彼の墓碑には、「日本の友」と刻まれている〉

(ジャパンナレッジ「国史大辞典」)

本を読む

『ハリス伝 日本の扉を開いた男』(カール・クロウ著、田坂長次郎訳)
今週のカルテ
ジャンル伝記
時代 ・ 舞台幕末の日本
読後に一言最後は「公正」さが決め手なのだと、納得しました。
効用ペリーの知名度に対してハリスは2番手。しかし往々にして、物事を動かすのは2番手、No.2である。1番ばかりが能じゃない?
印象深い一節

名言
日本こそは、あらゆる冒険ずきの旅行者の最後の目標である
類書ハリスとの交流も載せる、漂流水夫の自伝『アメリカ彦蔵自伝(全2巻)』(東洋文庫13、22)
ハリスとの交渉を詳細に描く『幕末外交談(全2巻)』(東洋文庫69、72)
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