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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 296|312|340|378|395

『本朝食鑑』(人見必大著、島田勇雄訳注)

2011/10/13
アイコン画像    30数年の探求の成果をまとめた"食材の百科
事典"で「ドジョウ」を調べてみると……。

 何かと話題になっている「ドジョウ」だが、やはりこういう時には、ジャパンナレッジの「東洋文庫」で検索してみたい。そんなものまで東洋文庫にあるかって? あるんです。しかもすこぶる詳しいヤツが。だって東洋文庫には、あの『本朝食鑑』の読み下し文がラインナップされているのだから! 

 ご存じない方に説明すると、『本朝食鑑』は“食の素材”の百科事典である。元禄時代に医師の人見必大(ひとみひつだい)が記したもので、原本は全12巻。東洋文庫でも全5巻という大著である。

 ジャパンナレッジの「国史大辞典」によれば、本書は〈国産の食物四百四十二種について『本草綱目』の分類と解説形式にのっとって記述〉しており、〈物産学・民俗学的記述も実証性に富み、著しく博物学的である〉。


 序にこうある。


 〈凡そ食に形あり、色あり、気あり、味わいあり。その本(もと)を究めず、その微を発(ひら)かざれば、則(すなわ)ち日用の間、この生を養い難し。もしこの生を養わずんば、則ち何をもってかその形を養い、その徳を養い、その人を養わんや〉


 うーむ、含蓄がありますな。実際、パラパラと読んで見ると、事典というよりも、食エッセイという趣きさえある。では本題のドジョウ。


 〈鯲・土長は倶(とも)に俗称である。また俗に泥鰌を鰻の名とするのは訛(あやま)りである〉


 という名前の解釈に始まり、養殖ドジョウは、〈肉も堅く、味もやはり美(よ)くない〉が、天然モノは、〈味は最も鮮美である〉という味講釈が続く。特に大阪府島本町の東大寺付近のドジョウが美味しいなんて情報は、現代の情報誌顔負けだ。で、さらに効用など医師ならではの記述が続く、という寸法だ。著者は伝聞を鵜呑みにせず、取材をし、30数年吟味検討を繰り返して完成させたと言うから、いやはや頭が下がります。しかも取り上げているのは、ドジョウといった今でも食されている素材だけでなく、鶴やコウノトリ、果ては金魚まで、多岐にわたる。「食べた」という記録のあるモノは総ざらいするんだ、という作者の執念のようなものを感じる。

 江戸のひとりの人間が、30年かけて偉業を成し遂げる。同じことを現代人の私たちができないわけがない。信じて前に進めばいいのだ。そう考えると、日本の未来に少しだけ希望が持てる気がした。

本を読む

『本朝食鑑』(人見必大著、島田勇雄訳注)
今週のカルテ
ジャンル事典
時代 ・ 舞台江戸時代初期の日本
読後に一言人間、やればできるんです。
効用フードに関するウンチクの宝庫。
印象深い一節

名言
飲食は、人の大欲存せり。これを慎まずんばあるべからず。(序)
類書日本初の図入り百科事典『和漢三才図会(全18巻)』(東洋文庫447ほか)
本草家小野蘭山の主著『本草綱目啓蒙(全4巻)』(東洋文庫531ほか)
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