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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 625

『文芸東西南北 明治・大正文学諸断面の新研究』(木村毅著、紅野敏郎解説)

2011/10/20
アイコン画像    “読書の達人”の大正時代のブンガク論から、
小説の面白さを味わってみよう。

 私は「本好きな人」が好きである。電車の中ではスマホより文庫本、なんて人はもっと好きだし、手元にある写真集『自宅の書棚』(産調出版)はいつ開いても飽きない。で、古今東西、本好きを見つけると勝手にリスペクトしてしまうのだが、中でもこの人は無類の本好きである。“文士”を自称する、木村毅(きむら・き)である。

 ジャパンナレッジで調べてみると、〈明治文学・文化の開拓的研究者の一人〉(「日本国語大辞典」)で、〈改造社の『現代日本文学全集』(いわゆる円本)、新潮社の『世界文学全集』などの編集企画にかかわるなど、多面にわたる出版文化への功績が大きい〉(「ニッポニカ」)とある。

 そんな氏の代表作が、明治・大正の膨大な小説を横断的に論じた『文芸東西南北』なのである。その中で、「女」を切り口に論じているのだが、これが新鮮だった。


 〈第一期 芸娼妓、町娘、小間使時代(『書生気質』当時より日清戦争前後まで)

 第二期 女学生(日清戦争後から日露戦争当時まで)

 第三期 混沌時代(自然主義文芸全盛の頃)

 第四期 モダン・ガール時代(カッフエ女の擡頭頃から、最近まで)〉


 木村毅の見立てによれば、島崎藤村や北村透谷らが「処女信仰」を持ち込んで、さらに「恋愛神聖」主義を生み、やがて平塚らいてうの『青鞜』創刊に繋がっていく。確かにらいてうを有名にしたのは、森田草平との心中未遂だ。で、漱石が弟子の森田の話を聞いて想像した女性像が、『三四郎』の「美禰子」である。木村毅も言う。


 〈モダン・ガールの発生をかなり早くから予触して描いたのは夏目漱石ではあるまいか。その『三四郎』と云う作品の中に美禰子と云う女が出て来る。彼女は聡明で、機智的で、そして周囲に集る男の学生などを手玉に取って飜弄しているような形がある〉


 モダン・ガールの代表格である平塚らいてうが『青鞜』を創刊したのは、ちょうど100年前、1911年9月のことである。その7年後、らいてうは与謝野晶子や山川菊栄らと、有名な「母性保護論争」を繰り広げるのだが、「社会的に母子を保護すべきだ」と主張したらいてうの指摘は、いまだに問題提起として有効だ(子ども手当や高校無償化にも繋がってくる話だ)。

 ……話が脱線したが、これも読書の醍醐味(?)ということでご容赦いただきたい。

本を読む

『文芸東西南北 明治・大正文学諸断面の新研究』(木村毅著、紅野敏郎解説)
今週のカルテ
ジャンル評論/文学
時代 ・ 舞台明治~大正の日本
読後に一言「本好き」はやっぱりいいなぁ。
効用文学評論のひとつであるが、その横断の仕方はミラクル。切り口の新しさに思わず唸ります。
印象深い一節

名言
地方を旅行して最もたのしみなのは、その地の古本屋や、古道具を漁って古書をさがす事であろう。
類書平塚らいてうも登場する山川菊栄の自伝『おんな二代の記』(東洋文庫203)
モダンガールズを論ずる『思想と風俗』(東洋文庫697)
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