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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 129

『改訂京都民俗志』(井上頼寿著)

2011/12/15
アイコン画像    京都の名石や名水、風俗の採訪記録。
「清盛」で"検索読み"をしてみると――。

 こっそりと平清盛特集を続けているが、トリを飾るのは、『改訂京都民俗志』である。「なぜこの本?」というのはさておいて、この本の紹介から。

 本書は旧制中学の歴史教師が自分の足で集めた京都の民俗誌で、いわば「裏ガイドブック」といえよう。市井の学者が好きなことをやりました、という熱さが随所に感じられる。で、コンテンツは、「習俗」「井(名水や井戸)」「祭石」「名石」「植物」「動物」などなど(この項目だけで心躍るのは私だけ?)。中でも面白いのは「動物」で、例えば「蝦(えび)」。


 〈上京区相国寺の内に蝦薬師のあった由、松屋筆記に見える。臥雲日件録には相国寺の西、衣服寺にあったと見える。大原江文社から流れて来たと伝えられる〉


 とまあ、エビ絡みの雑学や寺社仏閣をザーッと挙げていく。エビだからこれで済んでいるが、「馬」などは4ページにのぼる(読んでみたくなりません?)。

 私がオススメしたいジャパンナレッジ流の『改訂京都民俗志』の使い方は、「好きな歴史上の人物名で検索」することだ。例えば「信長」。「布留井神社」など5件ヒット。「秀吉」だと16件、「弁慶」だと6件……とゆかりの地が検索できてしまうのだ。で、私は当然、この名前で検索しました。平清盛特集ですから、「清盛」です。すると11件ヒット。なかなかの数じゃありませんか。

 その中のひとつ、「三島社影向石」。


 〈東山区馬町の三島神社の拝殿の右手、華洛名勝図会に示してあるのと同位置にある。高さ九〇センチばかりの石で、うしろに桜の木があり、稲荷式の垣がめぐらされている。相殿木花咲耶姫(このはなさくやひめ)が影向し給うた石と伝え、傍に大岩の社という社のあったこともある。安産を祈る信仰があって、光明皇后、平清盛もこの石に祈願したという。安産石とも誕生石とも呼ばれている。/一説に、この岩上に白鬚の神翁が影向して、牛若丸に奥州へ下るべしとのお告げがあったので、牛若は同石の前から奥州へ下ったとも伝えられている〉


 いま、自分がこの目にすることのできる「石」が、時空を超えて清盛や義経と繋がっている。清盛の祈願が事実かどうかはともかく、「繋がっている」と思えるその“感覚”が心地好いのだ。そして京都は、こうした伝説の宝庫である。著者もこうしたロマンに惹かれたのかなと思いつつ、またまた別の名で検索してしまうのであった。

本を読む

『改訂京都民俗志』(井上頼寿著)
今週のカルテ
ジャンル民俗学
時代 ・ 舞台昭和初期の日本
読後に一言京都に行きたい……。
効用ガイドブックにない京都がここにあります。
印象深い一節

名言
筆者は京都が好きで、中学時代から休みごとに来ていた。大正十三年から「京の人」になると、暇を作っては見学して歩いた……(あとがき)
類書日本各地の祭のフィールドワーク『祭』(東洋文庫631)
奄美大島の民俗誌『南島雑話(全2巻)』(東洋文庫431,432)
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