1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。
小洒落たショート&ショート、江戸の「小咄集」で大いに笑って、新年に備えよう。 |
1年前、このコラムの締めは、『醒睡笑』であった。で、今回もテーマは「笑い」。「ココロ弾むような話題で締めよう」という安易な発想2連ちゃんだが、新年を「笑い」で迎えんとする心持ちは、実は“江戸人”の基本でもあったらしい。「初笑い」をジャパンナレッジの「日本国語大辞典」で調べてみると、初出は1780年。で、実際このあたりに「江戸小咄」が次々と登場するのだ(それを編んだのが、『江戸小咄集 1、2』である)。この「小咄集」、それぞれの序を丹念に読んで見ると、実際どれも「正月」の刊行となっている。そのうちのひとつ。
〈古めかしきをすてゝ、新らしい一ツゑりの咄を一冊となして、はつ春の笑いぞめとなしぬ〉
(「今歳笑(ことしわらい)」序)
これも江戸人の智恵かしらん? どんな年であろうが、年が明けたら笑って迎える。とはいえ、笑うのもムズカシイから、「小咄集」の登場と相成る、というワケ。
では、どんなお笑いで新年を迎えたかって?
私の好きな小咄を3編、選りすぐって紹介しよう。
〈(盗人、殺される前に辞世の句をといわれ、)
「かゝるときさこそ命の惜からめ兼てなき身と思ひしらずば」
皆人聞いて「ソレハ太田道灌の歌じゃが」
盗人「アイこれが一生の盗納めでござります」〉
(「俗談今歳花時(ぞくだんことしばなし)」)
教養のある泥棒というのもオツですな。ではお次。
〈(昼間から夫婦でしているとこに隣のおかみさんがやってきた。灸をしているのだと思い、)
「おかミさんよいことを、なさりますな」といへば、紙帳の内から「ハアそこからも見へますか」〉
(「笑談聞童子(しょうだんきくどうじ)」)
下ネタはいつの時代も不滅なようで。ではラスト。
〈蟹なまこに向ひ「貴様は頭がしりか、尻があたまだか」なまこ「そふいふ貴様のあるくのは、行くのか帰るのか」〉
(「笑談聞童子(しょうだんきくどうじ)」)
どっちもどっち。目くそ鼻くそを笑う、の類だ。2011年という年は、蟹がなまこを責める如く、他人を責め立てることに日本中が終始してしまった気がする。責めても前には進まない。もちろん、笑いも生まれない。ここは粋な江戸人に倣って、せめて笑おうではありませんか。「呵呵大笑」していれば、きっといいことがある、よね?
ジャンル | 笑い/説話 |
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時代 ・ 舞台 | 江戸時代後期 |
読後に一言 | 2巻あわせて24もの小咄集。読後、「笑いの満腹感」があります。 |
効用 | 笑門来福! |
印象深い一節 ・ 名言 | 鼻の大きなを見込みにして婚礼もすみ、新枕にむだごとの時、嫁、むこの鼻を小指で叩きながら「嘘つき嘘つき」(「今歳咄二篇(ことしばなしにへん)」) |
類書 | オチだけのイイトコ取り『新編落語の落(全2巻)』(東洋文庫611、615) 笑話の古典『醒睡笑 戦国の笑話』(東洋文庫31) |
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