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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 222

『朝鮮の悲劇』(F.A.マッケンジー著、渡部学訳注)

2012/01/26
アイコン画像    すべてはここから始まった?!
100年前のレポートから考える"朝鮮半島"

 私は韓国に行ったことがあるが、北朝鮮にはない。これが大方の日本人の“距離”である。だが近くて遠い国のトップは死に、混乱の幕は開けた。今後、あの半島がどうなるのか。このことは多分、他人事じゃない。

 民族的に近いというのもあるけれど、それだけじゃない。日本は、朝鮮半島の歴史に手を突っ込んだという過去を持つ。正直、「いつまで謝り続けないといけないの?」と憤慨する気持ちにもなるが、それでもやってしまった事実は動かせない。では何を? そのヒントとなるのが、カナダ人ジャーナリストの手によって書かれた『朝鮮の悲劇』である。出版は1908年。日露戦争終結の3年後、日韓併合の2年前のレポートだ。

 外国人の目から見た朝鮮半島は、こんな風だった。


 〈私はあたかも、現世からほんとうのアリスの不思議な国に来たような錯覚を覚えた。すべてがたいへん幻想的であり、この世のどこよりもあまりに異質的であり、不条理であり、よそよそしく、そして奇妙であった……〉


 鎖国をしていたアジアの小国。そこに日本はあたかも欧米の一員として乗り込んでいく。本書によれば、当初日本は、朝鮮半島の人々にも、欧米人にも、歓迎されていたという。ふるまいのひどかったロシア人を、半島から追い出したということで、評価もあがった。

 だが徐々に、日本は正体を露わにする。地名を日本語化し、日本時間を使わせる。朝鮮人労働者の賃金を低く抑え、日本国内で禁止しているアヘンを解禁する。

 自己批判もこめて、著者はいう(ちなみに著者も、相当な日本贔屓であった)。


 〈日本国民に対する好意という強い感情――つまり、戦時中に示したこの国の立派な行為から来る感情――が、日本を告発することなく過ごしてしまうことになった……〉


 ほんの少し前までは、朝鮮とほとんど変わらぬ暮らしをしていた日本が、諸外国が下に見ている間に、あれよあれよという間に、肩を並べてしまった。これは誇っていい栄光の歴史だろう。だが一方で、急速な発展は、国の借金&重税という歪みを生んだ。そのしわ寄せは、朝鮮半島へ向かった。これが著者の見立てだ。100年前に、リアルタイムに書いているにもかかわらず、著者の視点はいまなお正しく、有効だ。

 一国の発展に「しわ寄せ」が必須なのだとしたら……私たちは発展すること自体を、疑ってかからないといけないのかもしれない。

本を読む

『朝鮮の悲劇』(F.A.マッケンジー著、渡部学訳注)
今週のカルテ
ジャンルジャーナリズム
時代 ・ 舞台日韓併合直前の朝鮮半島(韓国・北朝鮮)
読後に一言まずはここから。
効用第三者(外国人)の冷静な視点によって、1900年初頭の朝鮮半島の様子が浮かび上がります。
印象深い一節

名言
朝鮮は、二十世紀における世界興亡の動きの最初の舞台となった。だが朝鮮は眠りつづけた。たしかに改革は企てられた、それはまちがいない、だがもっと正確に言えば、その企てが、じっさいの改革実施において何かよわよわしかったのである。
類書1600年代、朝鮮に幽閉された西欧人の記録『朝鮮幽囚記』(東洋文庫132)
1919年の三・一独立運動の記録『朝鮮独立運動の血史(全2巻)』(東洋文庫214,216)
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