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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

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『青邱野談 李朝世俗譚』(野崎充彦編訳注)

2012/02/09
アイコン画像    李氏朝鮮時代の説話集に、朝鮮半島で生きる人々のしたたかさとたくましさの根源を見た!

 勝手にシリーズ化している朝鮮モノ第3弾である。

 まずは、先入観なしに以下の物語を読まれたい。

 ひとりの官僚になりたい男がいた。科挙の試験を受けたいが(朝鮮にも科挙があった)、まったく能力がない。そこで試験1発目のレポートは、仲間の使い残した文章を借用して合格。しかし2次試験は詩作。会場で実際に書かねばならない。すると代筆屋(代わりに詩作する商売があったらしい)を見つけ、脅して詩を書かせる。これを清書すれば万事OKなのだが、字が下手でどうしようもない。字の上手い男を会場で見つけ、騙して代書させ、それを提出して合格。ところがツテがないから出世ができない。男は、息子が早世した大物官僚を捜し出す。その息子のことを調べ上げ、さも友人のような追悼文を書いて渡す(もちろん友人の代筆)。感激した大物官僚は、男の後ろ盾となって出世の後押しをした。

 これ、1843年(李氏朝鮮時代)に編まれた説話集『青邱野談』のひとつ(「文筆の才なき両班、詭計を用いて官職につきしこと」)。日本でいうと天保の改革の頃に編まれた書である。どうしようもなくコズルイ男の話なのだが、日本の説話にありがちな説教臭さがない。賞賛しているのか、批判しているのかも、よくわからない。

 続いてもうひとつ。「昔日の不倫、今日の財運となりしこと」。

 ある夫婦の家に、官僚を目指す男が泊めてもらった。この男、主人が留守の時に奥さんをいただいてしまう。途中、夫が帰ってくるのだが、まさか妻といたしているとは思わず、邪魔しちゃ悪いと気を利かして家をまた空ける。後日、男は出世し、ある地方の地方長官として赴任する。で、夫は何かおこぼれでももらおうと赴任先の役所を訪ねるのだがけんもほろろ。すると「あたしが行かないとダメよ」と奥さん。もちろん行けば焼けぼっくいに火。情欲の限りを尽くして、宝物と一緒に帰還。驚く夫に妻。


 〈女が笑いながら(以前男と寝たのは私だと)告げると、男はようやく事情を悟り、驚き且つ悔しがって言った。「あの時、おまえが奴の下にいたと知っていたなら黙っていなかったし、それに今度の土産はこの程度では済まなかったものを。」と、二人して大笑いするのだった〉


 笑うか、普通。しかし考えてみると、このナイーヴさとは真逆の結果オーライのたくましさこそ賞賛すべきでは? これを理解しないと、始まらないんだろうな、隣国とのつきあいは。

本を読む

『青邱野談 李朝世俗譚』(野崎充彦編訳注)
今週のカルテ
ジャンル説話
時代 ・ 舞台李氏朝鮮時代の朝鮮半島
読後に一言どの話にも、カルチャーショックを覚えますよ、ほんとに。
効用「自分のものさし」で他人をはかることの過ちに気づきます。
印象深い一節

名言
「私たちは甚だ貧しいうえ、床を共にすれば自ずと子供もできましょう。(中略)子供の食い扶持や病気のときの薬代など、かかる費用は如何ばかりでしょう。ですから、あなたは上の間で履き物を編み、私は下の間で布を織って、十年をめどに日に一杯の粥で凌ぎ、家業に励むことになさいませんか。」(「夫婦、房を別にして家業に励みしこと」) 
類書日本の説話『日本霊異記』(東洋文庫97)
中国の説話『中国古代寓話集』(東洋文庫109)
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