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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアの古典・名著がズラリそろって、その数なんと850点余! 後世にぜひ引き継いでいきたい、まさにアジアの文化遺産なのです。

そんな珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、あなたを面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫
『老乞大 朝鮮中世の中国語会話読本』
(金文京、玄幸子、佐藤晴彦訳注、鄭光解説)

2012/02/16
   1300年代に朝鮮半島で生まれた、世界初の「旅行者用外国語会話」の虎の巻、その中身とは?!

 ジャパンナレッジの「日本の論点」で「重要語Index」を眺めてみた。“英語教育”が気になったからである。小学生の英語教育が、2011年より開始・義務化されたからだ。個人的には「日本語をきちんと習う方が先じゃないの?」と思っているが、さて。で、見てみると多い順に、英語教育(33)、英語公用語化論(20)、英会話教育(12)、英語必修化(7)、とある。「重要語Index」で論文数が30を越えるものは10タイトルくらいだから、やはり世間的にもここに論点があるということなのだろう。

 いったい外国語とどうつきあうべきか? 答えになるかはわからないけれど、実は東洋文庫には、〈世界で最初の旅行者用外国語会話教科書〉がある。高麗時代に朝鮮で編まれた『老乞大(ろうきつだい)』である。

 これは非常によくできた本で、高麗の商人が大都(北京)に商いに行く、というシチュエーションを会話でたどっていくという体裁になっている。最初に朝鮮語(本書では日本語)、続いて同文を中国語で記す。その中の一節。

 高麗の商人(主人公)は、知り合った中国人から、〈中国語の本なんか勉強してどうするんだい?〉と訊かれる。


 〈今、朝廷が天下を統一し、世間で使っているのは中国語です。われら高麗の言葉は、ただ高麗の地で通用するだけで、義州を過ぎ、中国人の土地に来ると、みんな中国語になります。誰かに聞かれて、一言も話せないようじゃ、他の人がわたしたちをなんと思うでしょう〉


 当時、中国は「元」によって統一されていた。高麗を含む周辺諸国も、中国語が共通言語だったのである。だから勉強するのは当たり前だ。こう主人公は胸を張るのである。しかも、〈両親から勉強するように言われた〉というのだから、何だか今の日本を見ているようである。

 グローバリズムなんて最近の言葉のようだが、これを読む限りそうではない。他国との繋がりがあり、その地域に強国が存在する以上、そこの言語が一帯を席巻するのは、ある意味、昔からのことなのだ。嗚呼。

 本書は、旅の途中、突然、道徳論が差し挟まれるのだが、これはこれで結構笑ってしまった。強者に対する身の処し方の一例である。


 〈友達の間では、自分の取りえを言うでない(中略)。蒙古人がたとえば、おまえはすごいと言っても、私は有能です、というようなことを言ってはならぬぞ〉


 外国語教育について考えつつ(しかも答えの出ぬまま)、朝鮮半島シリーズ、ひとまずこれにて完。

今週のカルテ

ジャンル教育/実用
時代 ・ 舞台1300年代の朝鮮(韓国、北朝鮮)
読後に一言外を知ることで、より内を知る、ということか……。
効用教科書ではあるのですが、当時の朝鮮半島の人々および中国人、周辺諸国の商人の様子が、いきいきと描かれています。
印象深い一節

名言
人というものは今日死ぬか、明日死ぬか分からぬ、達者なときに楽しまねば、まこと愚か者じゃ。
類書朝鮮の民衆の気持ちがわかる物語『パンソリ』(東洋文庫409)
朝鮮の人びとの生活『朝鮮歳時記』(東洋文庫193)
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