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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 607

『源威集』(加地宏江校註)

2012/02/23
アイコン画像    南北朝時代に書かれた、まぼろしの軍記物を
通して考える、「“世襲”って何だろう?」

 私は「寺」という「世襲」が大前提の家で育ったせいか、「世襲」という在り方に、妙に敏感である。坊主などは(浄土真宗を除き)、江戸時代までは妻帯が許されていなかったので、当然、世襲はあり得なかった。それが明治以降、政府の方針で妻帯可となり、どこの宗派でも当たり前のように世襲となった。これっておかしくない? そう思うから、家を飛び出したのだけど、世の中を見回すと、世襲だらけである。総理も2世だらけだし、自民の某若手ホープなんて4世だ。某製紙会社の不祥事も、世襲ゆえの結果ではなかったか。お隣の国が3代世襲だと批判する声があるけれど、どっこい日本こそ、世襲大国なのである。では世襲の根源にあるものとは?

 というわけで取り出したるは、東洋文庫の『源威集』。〈南北朝終息期に著された〉軍記物語で、〈足利政権成立の正当性を主張する〉ために書かれたと解説にある。本書にも、〈源氏ノ威勢ヲ申サンカ為ノ物語〉とある。ざっくり言えば、足利家の将軍世襲に対する援護射撃の本である。

 本来、「面白いから読んでね」というべきコラムなのだが、この『源威集』、やたら難解なのである。校註者の、研究者としてのマジメな態度がそうさせるのか、本書には原文を掲載。で、現代語訳ではなく、「訓読」を並記。

 冒頭部分、原文より読みやすい訓読の箇所を記してみよう。


 〈近寺ノ鐘ノ音ニ驚(き)、老(い)ノ睡(り)覚(め)テ起(き)居タレバ……〉(序章・訓読)


 慣れていない私は、数秒で睡魔に襲われましたよ。

 それでもざっと目を通してみたところ、本書では、「八幡大菩薩」と源氏の関係に遡り、前九年の役から歴史を紐解き、「足利尊氏ってまるで頼朝の再来だよね」てなことを言い、だから足利将軍家ってすごいんだ、と結論づける。いやー、その回りくどい論拠の進め方といい、最終ゴールに向かう強引なまでのもって行き方といい、これはこれですごい本である。ただし、「面白さ」に欠けるため(だって、目的は「正当性を主張する」ことなんだから)、今まで顧みられなかった(つまり流行らなかった)のだ。

 面白さ云々はともかく、「正当性を主張する」必要があったということは、逆にいえば「正当性を疑う」勢力があったということ。この時代もまた、「世襲」は攻撃されていた、といえないか。……と強引に結論づけてみたが、この手法は『源威集』そのものだ。世襲にこだわること自体、その考えに取り込まれているのかもしれない。

本を読む

『源威集』(加地宏江校註)
今週のカルテ
ジャンル歴史/文学
書かれた時代1300年代後半、室町時代の日本
読後に一言この本のおかしさは、その「存在」にこそある。こうした本が必要とされたこと自体に、私はニヤつきたい。
効用漢文と歴史の勉強になります。
(強引な論法も学べるかも……)
印象深い一節

名言
問、八幡大菩薩、御当家祖神(の)濫觴(らんしょう)、如何(八幡大菩薩が源氏の氏神になった起源とは?)
類書源氏の勃興についても論ずる、山路愛山の『源頼朝』(東洋文庫477)
足利義晴から秀吉の時代を描く『室町殿物語』(東洋文庫380、384)
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