1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。
中国の孔子→フランス革命→文庫クセジュ?! 中国から影響を受けたフランスを論ず。 |
とうとうジャパンナレッジにも「文庫クセジュ」が仲間入りした。西洋の知の代表のような叢書だから、東洋文庫とあわせれば、東西を制覇したようなものだ。
第二次大戦中にフランスで刊行が開始されたクセジュは、元をたどると18世紀の『百科全書』に行き着く。この“百科全書の精神”を再び、というのがクセジュの主旨だからだ。
では、“百科全書の精神”とは? この答えが、なんと東洋文庫にあった。東西文化の比較研究で知られる仏文学者・後藤末雄(1886~1967)の手による学術論文『中国思想のフランス西漸』がそれである。
著者によれば、清の時代に、フランスの宣教師たちが次々に中国に布教に赴き、そこで非キリスト教の文明国に出会ったのだという。宣教師経由で中国、および儒教を知った、『百科全書』の編集主任ディドロ(本書ではヂドロ)は、次のように言う。
〈孔子教のなかには、奇蹟も、霊感も、霊験もない。しかし支那の国民ほど善く治められているものがこの地上に存在していようか〉
1700年代のヨーロッパにあったのは、キリスト教に対する不信感だった。絶対王制はキリスト教と結びつき、宗教家は特権をむさぼっていた。思想家は「神とは何か」を問い、神の呪縛から逃れんとした。絶対的な神を持たない儒教は、フランスの思想家たちにとって、格好の教材だった。中国人の「自然=天」への崇拝のあり方は、衝撃的だったとも言える。著者はこう結論づける。
〈百科全書家は自然科学を研究して、自然法則とその発展とを学び、人間の生活を始め、森羅万象が自然法則のみによって支配されていることを認めた。したがって自然を創造しその法則をも支配すると考えていた基督教の「神」所謂「超自然」の存在を否定したのである〉
事実、百科全書派のひとり、ボルテール(本書ではヴォルテール)は〈宗教的狂信を非難して寛容論を唱え〉ており、〈フランス革命のもっともフランス革命らしさはカトリック宗教の地位低下にある〉と指摘する研究者もいるほどなのだ(ジャパンナレッジ「ニッポニカ」、「フランス革命」の項)。
東洋と西洋の出会いは、ヨーロッパ人を神の呪縛から解き、やがて革命に至った。その精神は、クセジュとして結実した。「クセジュ=西洋の知」と出会う私たちからは、さて何が生まれるだろうか。
ジャンル | 思想/評論 |
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時代 ・ 舞台 | 1600年代~1700年代の中国、フランス |
読後に一言 | 文庫クセジュの出発点が、ここには書かれていました。 |
効用 | 異文化との出会いが、新たな思想を生む。その価値を再認識します。 |
印象深い一節 ・ 名言 | フランスにおいては中国思想の中心説たる仁愛政治、民本主義等の諸思想が百科全書家の主張に影響し、これに利用されてフランス大革命が勃発し、ルイ王朝は倒壊したのであった。 |
類書 | フランス人による中国学『中国人の宗教』(東洋文庫661) フランス人宣教師による清国皇帝の報告書『康煕帝伝』(東洋文庫155) |
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