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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 622

『中国の花譜』(佐藤武敏編訳)

2012/04/12
アイコン画像    日本人が桜を愛するように、中国人は
1300年以上も前から、牡丹を愛でていた!

 日本人が「花」と言ったら「桜」のことである。「花=桜」。これは平安以降、揺るぎない。となると気になるのは(気になるのは私だけかもしれないけれど)、隣国のことである。たとえば中国人は?

 難しいお題のようにも思ったが、東洋文庫にはそのものズバリの本がある。『中国の花譜』である。「花譜」とは、〈花を、四季の順や分類などに従って記録した図譜〉(ジャパンナレッジ「デジタル大辞泉」)のことで、本書ではさらに広げて、〈花卉の記録、花卉の書物という意味〉で用いている。つまり「草花の本」というわけ(この中には、「瓶花譜」や「瓶史」など、花を花瓶にどう生けるか、を解説した本もあって、それはそれで面白い)。

 本書には、宋代から清代までの代表的な花の記録12編が収録されているのだが、その中の1つに、こう書かれていましたよ。


 〈人は牡丹(ボタン)の場合、ただ花といって、花の名はいわない〉(「范村菊譜」)


 中国では、「花=牡丹」だったのだ!

 日本では「梅」→「桜」、と花のキングの座が移行したが、中国でも同じらしい。かつての中国の花の王は、「芍薬(シャクヤク)」であったという。実際、芍薬は、〈『詩経』に記録があり、紀元前から知られていた〉(ジャパンナレッジ「ニッポニカ」、「牡丹」の項)。ところが、唐代になると牡丹が大流行する。


 〈当時(唐代)すでに、白、紫、紅、黄白(おうはく)などの色変わりや、八重咲き、また花径7~8寸の大輪花などの品種が分化し、寺院に植えられ、牡丹の会が開かれていた。白楽天は「花開き、花落の二十日」と詠んだ〉(同前)


 白楽天が言うには、牡丹が花を付け、花が落ちるまでの20日間、人は皆狂うように牡丹を愛でたのだとか。

 芍薬の地位は、牡丹に押し出されるように下がった。「木芍薬」と言われていた牡丹は「花王」になり、芍薬は「草牡丹」となった。牡丹の逆転である。


 〈唐代に牡丹が愛好されるようになると、牡丹の花王に対して(芍薬は)花相ともいい、草本なので草牡丹とも呼ばれた〉

(ジャパンナレッジ「日本国語大辞典」)


 芍薬と牡丹の戦いか――と独りごちていたのだが、検索中に「Peony」という単語を見つけて目が点になった。英語では、牡丹も芍薬もどちらも「Peony」だそうです。

本を読む

『中国の花譜』(佐藤武敏編訳)
今週のカルテ
ジャンル実用
時代 ・ 舞台中国(1034~1688年)
読後に一言収録作の「花鏡」は、園芸技術の書で、個人的に参考になりました。
効用春牡丹の開花は、4~5月です。きっと牡丹園に行きたくなります。
印象深い一節

名言
世間で花を好む人は高い金を払うのを惜しまずに買い入れ、遠くから持ち帰るが、まだ半年もたたないのに枯らすか、育たなくなる。これはその理に暗く、その性情を見失うからである。(「花鏡」)
類書牡丹のガイドもある清代の年中行事記『燕京歳時記』(東洋文庫83)
白楽天の「秋の牡丹」の詩を載せる『白居易詩鈔』(東洋文庫52)
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