「はばかり」といえば、「人目をはばかるところ」という意味が転じ、「トイレ」をさす名称として知られている。ところが、京都でこれに「さん」を付けて「はばかりさん」というと、トイレの丁寧な呼び方ではなく、「ご苦労さん」や「ありがとさん」というまったく違う意味になる。実際に使う場合、「昨日はえらいはばかりさんどしたな」とか、「おおきに、はばかりさん」などといった風である。

 身近な間柄の人に対し、日常的な頼みごとをしたり、ちょっとした気遣いをさせたり、世話になったりしたときの感謝の気持ちを含めた挨拶である。また、こうした挨拶とは違うニュアンスを含んで使われることもある。例えば、相手の期待が外れて思うようにならない、というような会話の相づちに使うと、軽い皮肉の混じった「おあいにく様」や「お気の毒に」といった印象を含んだ表現になる。

 「はばかりさん」の本来の意味を『日本国語大辞典』で紐解いてみると、「遠慮する」や「気がねする」などの意味のある「憚る」と接尾語「様」を組み合わせた「憚様」(はばかりさま)ということばが語源であった。「はばかりさん」や「はわかりさん」などと、大阪や兵庫でも使われていたことばのようである。

 似たような皮肉めいた方言が京都にはいろいろある。例えば、「もっともらしい」という意味の「しかつい」とか、「しょうもない」という意味の「しゃっちもない」など。また、「異(け)なり」から派生した「けなりい」ということばは、「うらやましい」という意味で使われる。ちょっとやっかみ(ねたみ)含みのようにも聞こえる。最近は方言があまり使われなくなっているが、昔の京都人は巧みに微妙な心情を会話に盛り込んで、きっと楽しんでいたことだろう。

 

   

京都の暮らしことば / 池仁太   



 『週刊現代』(3/29号、以下『現代』)は、超リッチなエリート層と、地元に住みほどほどの生活に満足感を覚えるマイルドヤンキー層という新しい「階級」に日本は分断されつつあるという特集を組んでいる。

 『現代』によれば、年間の学費が300万円以上もするスイスや英国の寄宿舎を出て、米国の大学で経営学を学び、モナコ・グランプリや英ウィンブルドンのテニス大会などのイベントに顔を出し、資産はシンガポールなどの租税回避地を利用する「新しい種族」が日本でも生まれつつあるという。

 だが、IT企業の経営者(45)は相続税逃れのため3年前にシンガポールに拠点を移して生活しているが、子どもの同級生の親たちはヘッジファンドや投資銀行で荒稼ぎしている連中が多く、子どもの誕生会にサーカスを呼んだりするため、わが子からは「うちは貧乏なんだよね?」といわれているという。上には上がいるということである。

 その一方で、千葉に住むサーファーショップの店員(36)は、月給手取りで20万円弱だが「仲間と波があればそれでいい」と、いまの生活に満足しているそうだ。

 アメリカと英国の大学の共同研究では「年収3万6000ドル(約360万円)を超えると幸福度は下がり始める」という結果が出ているという。さらに慶應大学大学院・前野隆司(たかし)教授によると、高い年収や高級ブランドの服や車など「地位財」という他人と比較可能なものによる幸福は長続きせず、他人が持っているかどうかに関係なく幸福をもたらしてくれる「非地位財」は長続きする。自分の好きなことや身の回りの小さな幸せを大切にという、なんの新しさもない内容ではある。

 ちょっぴり目新しいのは、東京などには見向きもせず、地元を離れずに仕事をしながら、家族や友達を大事にして、週末には大型ショッピングモールや郊外型アミューズメント施設へ行くことを楽しみにする20代から30代のマイルドヤンキーという新しい階級が、日本のサイレントマジョリティになりつつあるという指摘である。

 博報堂の原田曜平氏によれば、彼らは一般の若者たちより所得が低いのに消費意欲が高く、「若者が離れたとされる自動車やバイク、酒、タバコ、パチンコなどに興味があり、カネを使う」そうだ。原田氏はこういう。

 「彼らは積極的に地元に残りたがるのです。『成り上がり』の願望をそもそも持っていない。ここが昔のヤンキーと最も違うところです。(中略)
 中学生時代から通う近所のファミレスで、30歳になっても40歳になっても、同じメンバーでたむろしていたい。それがマイルドヤンキーの理想の人生なのだと思います」

 一昔前にいわれた若者の「Uターン」とは違う。はじめから都会なんぞに目もくれず、地元に根を生やし家族や友達と楽しく生きていこうという若者が増えることは歓迎すべきことではある。

 大学卒の若者を「正社員」という甘い餌で釣って長時間労働を課し、過重な責任を負わせ、パワハラなどで精神的に追い詰め、3年も経たないうちにボロ雑巾のように捨てるブラック企業が増えていることにも関連しているのであろう。

 昔、一億総中流時代といわれた。それが崩れ貧富の格差が年々甚だしくなり、1%の富裕層のためだけに政治が行なわれ、都会の若者たちは夢を見ることさえかなわない時代になってしまった。

 そうした中央集権国家に寄りかからない新しい層の台頭は、この不公平な世の中に対する“抵抗”の、彼らなりの表し方なのかもしれない。


元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3

 今週は企業ものといわれるジャンルを取り上げてみた。

第1位 「ユニクロがパート・アルバイト1万6000人を『正社員化』それっていいことなの?」(『週刊現代』4/5号)
第2位 「孫と柳井、10年後に生き残るのはどっちだ?!」(『週刊ポスト』4/4・11号)
第3位 「あなたの税金が大企業の『ベア』に化けた」(『週刊現代』4/5号)

  3位。『現代』は大企業がベースアップを認めたのは法人税減税を見越してのことで、結局われわれの税金が使われるだけだと批判している。

 「3月12日に、安倍首相の諮問機関である政府税調で、法人税改革を議論するワーキンググループが初会合を開きました。(中略)
 3月12日というのは企業側がベアの回答をする集中回答日。まさに企業の賃上げ姿勢を見届けながら、法人税減税の幕が開かれた形です」(税調関係者)

 法人税減税については1パーセントの減税で5000億円近い税収が失われるリスクがあるため自民党内ですら慎重論があるが、政府税調は「減税ありき」の議論を展開することが決定的だと『現代』は書いている。これで景気がよくなるわけはない。

 2位の『ポスト』の記事では、ソフトバンクの孫氏とユニクロの柳井氏のどちらの企業が10年後に生き残っているのかを論じている。
 企業戦略、後継者問題、どれをとっても同じ課題を抱えているため、結局この勝負、痛み分けのようだ。

 今週の1位はパート、アルバイト1万6000人を正社員化すると発表したファーストリテイリング(FR社)に疑問を呈している『現代』の記事。
 社員化には落とし穴があるという。現在、現場の店長には「売り上げの増大」と「人件費の管理・削減」という難題が要求されている。FR社は「正社員化」される人々が納得できるような賃金アップをするつもりはあるのだろうかと問いかけている。
 また、賃金がある程度上がったとしても、それに見合わないほどの過重なノルマが課せられるようなことになっては「幸せ」とは到底言えないだろうともいっている。
 ブラック企業被害対策弁護団の代表を務める、弁護士の佐々木亮氏がこう語っている。

 「現状の報道だけ見て、『立派な判断ですね』とは言えません。正社員化によって生み出されるのは、残業やノルマが増えただけの『名ばかりの正社員』という可能性もあるからです。
 柳井さんは正社員化の方針と同時に、『販売員には今の効率の2倍を求めます』と述べていますね。これまで店長が担っていた責任が、新たな正社員にも降りかかり、労働強化が行われることが容易に想像できます。そもそもユニクロは長年、長時間労働が問題視されてきました。その是正が同時に図られるのでしょうか」

 ブラック企業というありがたくない称号を捨て去るためには、正社員化だけではダメだということである。

   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   



 日本人にとって新顔の朝食「グラノーラ」は、エンバク・麦・玄米・トウモロコシといった穀物にハチミツや黒砂糖、植物油を加えて焼いたシリアル食品。ドライフルーツやナッツと混ぜて食べる。その栄養価と比較してカロリーが低く、食物繊維も豊富だ。女性たちの食生活の強い味方ととらえられている。昨今、忙しい毎日を乗り切るため、朝食の重要性が見直されているタイミングにうまくはまった格好である。

 ひとたびブームが起こると、「専門店」が現れるのが「食」というもの。それはシリアル食品のようなシンプルなものでも変わらなかったようで、先陣を切ったのが東京・代々木上原の「GANORI(ガノリ)」である。2013年8月にオープンした。木造による雰囲気のある店舗は、まさに「オーガニック」を具現化している感じ。グラノーラブームのシンボル的存在としてマスコミで採り上げられることが多い。ほかにも、日本初のシリアル専門店と銘打った「GMT」が2010年から目黒で営業。「本場」アメリカ出身のシェフが、グラノーラの普及に一役買っている。

   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   



 いよいよ4月1日から、消費税が現行の5%から8%に引き上げられる。6日後に迫った改正に伴い、値札の付け替え、料金表示の看板の取り換えなど、ありとあらゆる業界が料金改定の作業に追われているだろう。

 なかでも大変なのは鉄道料金だ。4月以降は、切符の料金とICカードの料金では異なる料金が設定されるのだ。

 自動販売機などでの1円単位の支払いは煩雑になるため、切符は10円単位の料金となっている。過去の消費税増税時には、増税分を丸めて四捨五入し、10円単位で料金が改定されていた。

 しかし、現代はスイカやパスモなどICカードが発達しており、こちらは現金でのやりとりはない。コンピュータのデータを変更すればいいだけなので、ICカードで鉄道に乗る場合は1円単位で料金が改定される。一方、切符は従来通りに増税分を四捨五入して10円単位で改定されるため、鉄道料金は2種類の料金体系が作られたのだ。

 そのため、同じ距離を乗るにしても、切符を買うか、ICカードを使うかによって料金に差が出るところもある。たとえば、JR東日本の4月以降の初乗り運賃(1~3㎞)は、切符は140円だが、ICカードを使うと144円。この場合は、切符を買ったほうがお得だ。しかし、4~6㎞になると切符が190円で、ICカードが185円なので、ICカードを使ったほうがお得になる。

 少しでも節約したいなら、電車に乗る前に料金を確認して、どちらを使うか吟味する必要が出てくるだろう。

 しかし、やっと料金を覚えても、来年10月に消費税が10%に上がれば、再び料金の改定が行なわれ、同じ作業が繰り返されることになる。そのコストや手間は、事業者や消費者に相当な負担を負わせることになる。

 たくさんの負担を負わせて集める税金だ。1円たりとも無駄にせず、有意義に使わなければ、時の政府が国民からそっぽを向かれるのは時間の問題だ。

   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   



 日本が輝いていた高度経済成長期、中卒などの若い労働者たちは「金の卵」と呼ばれた。新時代のスキルを担っていく、貴重な存在だったのである。そして現在、労働の現場には、ミドル層のいわば「いぶし銀」のベテランたちを積極的に活用しようという動きがあるらしい。このような人材登用の動きを、「金の卵」ならぬ「銀の卵」から、「銀たま採用」と呼ぶ。一般には転職は「35歳が限界」といわれるが、希望的観測によればこれが変わる可能性がある。

 現在、大企業が「余った人材」を切り捨てる情けないニュースが目立つが、一方では働き手の不足に苦しむ業界(たとえば介護分野やITなど)も多く、アンバランスな状態になっている。人材がうまく流れれば、労働市場の現況もだいぶ改善されるであろう。多くの企業が求めているのは、かつて「金の卵」に期待されたハード面のスキルよりも、社会人として積み重ねたソフト面の経験だ。特に若い企業では、旧来の企業のような交渉能力を持つ人材が育っていない場合がある。企業の急激な成長と、社員のコミュニケーションスキルの向上を比例させるのは容易でなく、そこに外部からベテランを採用する余地があるわけである。

   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   



 安倍政権が「配偶者控除」の見直しに向けて動き出した。3月19日、政府の経済財政諮問会議と産業競争力会議の合同会議で、安倍晋三首相が検討を指示したからだ。

 配偶者控除は給与所得の場合で、年103万円以下の配偶者がいる納税者に所得控除38万円を認める制度。例えば専業主婦のいるサラリーマンの夫の課税対象(年間所得)から38万円を差し引いて所得税を軽減する。1961年に創設され、現在、約1200万人がその恩恵を受けている。

 見直しの背景にあるのは、配偶所控除が、「女性の就業意欲や社会進出をそいでいる」との指摘があるからだ。控除を受けるために年収が103万円に届きそうになると、仕事を抑制する主婦が少なくないという事情がある。「人口減少社会」の到来を受け、「女性パワー」の活用を成長戦略の柱に掲げる安倍政権としても、配偶者控除の見直しは当然、手をつけたい改革だ。

 ただ、控除額の廃止・縮小を行えば、専業主婦のいる家庭には増税となる。そのため、2015年の統一地方選をにらんで「選挙では、反発する専業主婦から、与党はしっぺ返しを受ける可能性がある」(自民党関係者)との見方がある。さらに、待機児童の解消など「女性が子育てと仕事を両立できる社会基盤の整備がまだまだ不十分だ」との指摘もある。

 見直しに向けた議論は難航しそうだ。

   

   

マンデー政経塾 / 板津久作   



 前に「女性に勝るとも劣らない美容知識を持ち、美白&無毛(髪・眉毛・まつ毛は除く)に多大な労力を惜しまないナルシスト男子=ミルクボーイ」について書いたが、韓国でもそういった高い美意識を持つ若い世代の男子が急増しているらしく、その彼らのことを「グルーミン族」と呼ぶ。(語源:grooming=髪・髭・身体などを清潔に手入れすること)

 グルーミン族は、大学進学を控えた高校生あたりに特に多いそうで、「今までとまったく違った自分になって、大学入学をきっかけに人生をリセットしたい」という強い願望から、鼻を高くしたり二重まぶたにしたりする美容整形手術も厭わない過剰さが、コスメ中心の日本のミルクボーイとは決定的に異なっている。

 美容整形大国である韓国ならではの風潮で、このトレンドが未だ「素材重視」の概念が根強い日本に100%受け入れられるかは疑問だが、昨今は、もっとも加齢が誤魔化せない部位の一つとされる“手”の、シワやシミを取る最新の美容外科施術を受ける壮年男子も、にわかに増え始めているといううわさだ。

   

   

ゴメスの日曜俗語館 / 山田ゴメス   


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