椿餅は2月ごろに食べられる季節菓子である。白い餡餅(あんもち)に、つやつやとして厚い椿の葉を組み合わせている、独特の姿を記憶している人は多いだろう。粳米(うるちまい)からつくった道明寺糒(どうみょうじほしい)のぷつぷつとした生地で餡を包み、俵の形に丸めたものを椿の葉二枚で挟んだものである。餅には上新粉が使われる場合もある。

 椿餅は紫式部の『源氏物語』や『うつほ物語』(作者不明)に登場し、千年以上前に平安貴族の食べている様子が記述されている。『源氏物語』では殿上人が蹴鞠(けまり)の後の宴会で、梨や柑橘類などとともに食す場面として描かれている。当時は「つばいもちひ」と称し、生地にツタの汁を煮詰めてとった甘葛(あまづら)という、ほの甘い汁を練り込んだ餅菓子であった。江戸中期にまとめられた『類聚(るいじゅ)名物考』には、「干飯(ほしいひ)を粉にして丁子(ちょうじ)を粉にして、少し加えて甘葛(あまづら)にて固めて、椿の葉二枚を合せて包みて、上をうすやうの紙を、ほそき壱分(いちぶ)ばかりに切りたるにて、帯にして結びてたるる也(なり)」(『日本大百科全書』「椿餅」の項より)とある。

 平安時代にはまだ小豆の餡がなかったので、椿の葉を用いた餅菓子の姿は似ていたかもしれないけれど、味のほうは、現代のものとはずいぶん違う感じであったろう。日本にもっとも古くからある餅菓子といわれており、現代の桜餅や柏餅の原型にもなっている。

 

   

京都の暮らしことば / 池仁太   



 広島で被爆2世として生まれた全聾(ぜんろう)の作曲家(自称)。50歳。2011年に発表した80分を超える『交響曲第一番HIROSHIMA』(演奏、東京交響楽団、日本コロムビア)は、クラシック界では異例の約18万枚のセールスを記録し、米『TIME』誌も「現代のベートーヴェン」と評した。

 2013年3月31日に放送されたNHKスペシャル『魂の旋律~音を失った作曲家』では、東日本大震災の被災地の石巻、女川(おながわ)を訪ねながら創作する過程が紹介され、それが元で生まれた『鎮魂のソナタ』(演奏ソン・ヨルム、日本コロムビア)は、番組の反響もあって10万枚の売り上げを記録したそうだ。

 ソチ五輪の男子フィギュアのショートプログラムで、高橋大輔選手が彼の作曲した『ヴァイオリンのためのソナチネ』で滑ることも話題になっていた。

 ところが『週刊文春』(2/13号、以下『文春』)が「全聾の作曲家佐村河内守はペテン師だった!」と報じ、長年にわたって佐村河内氏のゴーストライターをやってきた新垣(にいがき)隆氏(43・桐朋学園大学作曲専攻講師)が次のように懺悔告白したのである。

 「私は十八年間、佐村河内守のゴーストライターをしてきました。最初は、ごく軽い気持ちで引き受けていましたが、彼がどんどん有名になっていくにつれ、いつかこの関係が世間にばれてしまうのではないかと、不安を抱き続けてきました。
 私は何度も彼に、『もう止めよう』と言ってきました。ですが、彼は『曲を作り続けてほしい』と執拗に懇願し続け、私が何と言おうと納得しませんでした。
 昨年暮れには、私が曲を作らなければ、妻と一緒に自殺するというメールまで来ました。早くこの事実を公表しなければ、取り返しのつかないことになるのではないか。私は信頼できる方々に相談し、何らかの形で真実を公表しなければならない責務があるのではないかと思い始めたのです」

 2人が出会ったのは1996年の夏のことだという。年上の佐村河内氏は、新垣氏にこう切り出したという。

 「このテープにはとある映画音楽用の短いテーマ曲が入っている。これをあなたにオーケストラ用の楽曲として仕上げてほしい。私は楽譜に強くないので」

 新垣氏はこの申し出をあっさり受け入れた。佐村河内氏が提示した報酬は数万円。それがいびつな二人三脚の始まりとなったと『文春』は報じている。

 新垣氏がこう話す。

 「クラシック界では、大家の下でアシスタントが譜面を書いたりオーケストラのパート譜を書いたりすることはままあることです。ところがその後わかったのですが、佐村河内は楽譜に弱いのではなく、楽譜が全く書けない。正式なクラシックの勉強をした形跡もない。ピアノだって、私たちの常識では『弾けない』レベルです」

 新垣氏はお金とか名声がほしくて引き受けたのではなく、自分が作曲した音楽を多くの人に聴いてもらえることが嬉しかったからだと“動機”を語っている。

 楽譜の書けない佐村河内氏は、細かい「構成図」を書いて新垣氏に渡したという。『文春』によればこうだ。

 「『中世宗教音楽的な抽象美の追求』『上昇してゆく音楽』『不協和音と機能調性の音楽的調和』『4つの主題、祈り、啓示、受難、混沌』等々 、佐村河内は、ひたすら言葉と図で一時間を越える作品の曲想(コンセプト)を書いている。このコンセプトに沿って新垣は、一音一音メロディを紡ぎだし、オーケストラ用のパート譜を書き起こしていく。つまり佐村河内はセルフプロデュースと楽曲のコンセプトワーク(ゼロを一にする能力)に長け、新垣は、それを実際の楽曲に展開する力(一を百にする能力)に長けている」

 だが、月刊誌で佐村河内氏の曲に対する疑惑が書かれ、新垣氏は関係を断ち切ろうと佐村河内氏に言ったが、受け入れなかったという。

 思いあぐねた新垣氏は、自分の教え子でもあり佐村河内氏が曲を献呈していた義手のヴァイオリニストの少女の家族の前で、これまでの真相を話し、謝罪したというのである。

 こうして砂上の楼閣は崩れ去った。

 佐村河内氏の「全聾」というのもウソだと新垣氏は言っている。

 「実際、打ち合せをしても、最初は手話や読唇術を使ったふりをしていても、熱がこもってくると、普通の会話になる。彼自身も全聾のふりをするのに、ずっと苦労したんだと思います。最近では、自宅で私と会う時は最初から普通の会話です」

 それをうけて、佐村河内氏はようやく2月12日未明、各報道機関宛てに「お詫び」と題した直筆の文書を公表。3年くらい前から耳が少し聞こえるようになったと書いている。

 この報道が出てから、各メディアは私たちも騙されていたと大騒ぎになったが、私には違和感がある。もちろん、全聾の作曲家だと偽っていた佐村河内氏に非はあるが、それを増幅して感動物語に仕立て上げ、視聴率を稼ぎ、本やCDを売りまくった側に何の反省もないのはおかしいのではないか。

 それとも、われわれはあいつに騙された被害者だとでもいうつもりなのか。なかでもメディアはペテンの片棒を担いだ立派な加害者である。

 メディアは何度も過ちを犯すものだ。だから自分たちが間違ったとわかったときは、視聴者や読者、CDを買った人たちに、佐村河内氏と同席して謝るのがスジではないか。そう私は考える。


元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3

 予想通り盛り上がりに欠けるソチ五輪だが、19日、20日に行なわれるフィギュア女子シングルだけは別だろう。
 浅田真央とキム・ヨナの16度目の対決はどうなるのか。週刊誌から探ってみた。

第3位 「『浅田真央とキム・ヨナ』死闘10年の裏真実」(『週刊アサヒ芸能』2/13号)
 短期連載の第2回目だが、浅田真央・舞姉妹とキム・ヨナ、エラ姉妹の境遇の違いや姉が妹のために尽くす共通項、キムの母親の針金ギブスという巨人の星の大リーグ養成ギブスを思わせるスパルタ教育などのエピソードはおもしろい。

第2位 「浅田真央は金メダルを獲れるか?」(『週刊文春』2/13号)
 浅田のトリプルアクセルが決まっても、キム・ヨナの演技構成点が優ると見るスポーツ紙デスクもいれば、練習から遠ざかっていたキムはスタミナに不安があり、後半にミスが出る可能性ありと読むスポーツライターもいる。伏兵はロシアの新星、ユリア・リプニツカヤか鈴木明子と見る向きもある。

第1位「浅田真央はキム・ヨナに勝てない」(『週刊現代』2/22号)
 ずばりキム・ヨナの勝ちと断言するのは『現代』だ。
 スポーツライター野口美恵氏はヨナの凄さをこう語る。
 「ヨナは音楽の曲想をとらえるのがうまい。単に音とタイミングが合うのではなく、メロディだったり、ベース音だったり、楽曲全体が醸し出すニュアンスを演技に反映させることができる」

 安藤美姫と高橋大輔をコーチしたニコライ・モロゾフ氏もやはり、そこがヨナのストロングポイントだという。
 「フィギュアスケートは、他のスポーツと違って、観客を魅了しなければならない。そのためには女性としてのmaturity(成熟度)とか魅力が非常に重要になる。ヨナは女性としての魅力を最大限に出している。真央はどんなにきれいに滑っても、子供が滑っているように見えてしまう」

 しかし浅田も秘策を練っているようだ。トリプルアクセルを1回減らしたというのである。
 「昨年末の全日本選手権後、浅田は一度も練習を公開しなかった。よほどトリプルアクセルの精度が悪いのか、と現場で噂になっていた矢先の発表でした。今季、ここまでトリプルアクセルは一度も成功していません。勝てるスケートに徹するのは嫌だが、このままではヨナに勝てないのも事実。おそらく佐藤信夫コーチとぎりぎりまで話し合いを重ねたうえで、金メダルを獲るために、『究極の選択』をしたのでしょう」(スポーツライター藤本大和氏)

 だが、連盟関係者は、浅田の金はなかなか難しいと話す。
 「トリプルアクセルを成功させ、かつフリーの後半に2つ入れた連続ジャンプをノーミスでクリアすることが絶対条件。そのうえでヨナがミスをすれば、初めて金メダルが見えてくる」

 どちらにしても「その瞬間」をテレビの前でじっくり楽しみたいものである。

   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   



 ぽっちゃり系の女性に対する呼称として、「マシュマロ女子」が普及しつつある。ふくよかなシルエットだけでなく、色白なところや肌のなめらかさなども含めたニュアンスが入っている。

 この新語が指すものは、具体的には2パターンあるように思える。一つは、モデルのような「やせ型」ではない女性タレントを、積極的に肯定するような感覚。篠崎愛など人気のグラビアアイドルに多く、一昔前の言葉で言うなら「グラマー」なAKB48の小嶋陽菜(こじま・はるな)もこれに連なるという。 もう一つは、はっきり言えば太っているのだが、そこに魅力がある、ぽっちゃりが可愛らしさのファクターになっている女性たちのことだ。こういったマシュマロ女子を対象にしたファッション誌『la farfa(ラ・ファーファ)』(ぶんか社)も現れ、専属モデルを務める後藤聖菜(ごとう・せいな)が人気を集めている。

 性別に限らず、合うサイズが少ない体型はファッションに苦労するものだが、だからこそ「工夫」することでセンスが磨かれる面もある。おしゃれなマシュマロ女子は確固として存在する。あとは業界が市場をうまく捉えられるかであろう。

   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   



 シェアハウスは、家族ではない複数の人たちが一つの家を共有して暮らすというもの。自分だけの個室はあるものの、台所やリビング、風呂場、洗濯場、トイレなどは共有で使用する居住スタイル。ゲストハウスと呼ばれることもある。

 たとえば、3LDKで家賃15万円の賃貸マンションでも、3人で借りれば、一人あたり5万円の出費で済む。一般的な賃貸住宅を一人で借りるよりも負担を抑えられるので、若年層の間でシェアハウスの利用を希望する人が増えている。

 ここ数年、売却された社員寮などをリフォームして、シェアハウスとして貸し出す専門業者も出ており、その場合は個室にベッドなどの家具類、冷蔵庫などが備わっていることもある。敷金や礼金、保証人などが不要で、短期滞在でも利用しやすい。

 だが、シェアハウスも玉石混交で、いわゆる「脱法ハウス」と呼ばれるものもある。ビルやマンションの一室を細かく仕切って2~3畳程度の個室に仕立て、月3万円程度の安い家賃で貸し出しているものが見つかり、2013年9月に国土交通省が規制に乗り出している。この規制は、シェアハウスに建築基準法の「寄宿舎」の基準を適用するように指導したものだが、脱法ハウスに留まらず、一戸建てをシェアしている場合なども規制対象となるため、困惑の声も上がっている。

 建築基準法にふれるような脱法ハウスがはびこる背景にあるのは、若年層に広がる相対的貧困だ。今や、全労働者の4割が非正規雇用で、彼らの年収は168万円だ(国税庁「平成24年分民間給与実態統計調査結果について」)。月収になおせば14万円。これで6万円も7万円も家賃を支払ったら、生活できなくなるのは想像に難くない。

 住む場所が決まっていなければ、履歴書に記載できる住所もない。事業者も家のない人は雇いたくないので、働いて安定的な収入を得るためには、まず家が必要だ。そのため、低所得の人々が、2万~3万円という安い家賃で住める場所として、脱法ハウスが貧困ビジネスとして成り立っているのだ。

 脱法ハウス問題を根本的に解決するには、貧困層が安心して暮らせる公営住宅を増やす必要がある。ところが、反対に公営住宅はこの10年で半減しており、ニーズに逆行する形となっている。単に規制を強めるだけでは、脱法ハウスからはじき出された人が路上にあふれることになる。規制よりもまず、労働政策と住宅政策の見直しが先決だろう。

   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   



 出版社を通さずに作った雑誌、というと「同人誌」や「ミニコミ」が有名だが、最近は「リトルプレス」と呼ばれている。よく唱えられる利点は、広告の出稿元におもねることなく、自由で豊かな表現ができるということ。ただ、言うほど「企業の外圧」は本作りに影響するものではない。筆者はかつて出版社にいたのだが、売れ線でない企画が通らなかったり、ごく一般人のクレームの怖さに負けて記事を自主規制する、といった「内圧」は日常茶飯事だ。本当は、そうした組織のしがらみのないことがいちばんのメリットという気はする。

 カフェ、雑貨屋などでも扱われるリトルプレスは、これまでのミニコミよりも製本などにこだわり、商業出版よりよほど出来ばえに優れている場合がある。プロがデザインを請け負うだけでなく、自分のパソコンで文字組みから写真のレイアウトまですべてこなす猛者も多い。個人でも少し奮発すればプロ仕様のソフトを購入できる時代ならでは。利益を得るよりも、ものづくりの衝動から作られるリトルプレスには、本が本来持つ作り手の個性が表出している。

 なお、同様の表現に「zine」がある。「magazine」から来ており、本よりも小冊子に近いもの。印刷はコピー、綴じはホッチキスという体裁も多いが、センスのある人が作ると十二分にアート性があるのがおもしろいところ。

   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   



 1月、中国・ハルビン駅内に「安重根(アンジュングン)記念館」が開館した。

 記念館といっても、駅構内の貴賓室に作られた約100平方メートル程度のものだが、日本政府にとっては看過できないものだ。歴史問題で国際社会で対日姿勢を強める「中韓共闘」の象徴と位置づけらているからだ。

 安重根は、1909年に明治の元勲、伊藤博文(初代韓国統監)を射殺した人物で、翌年処刑された。安は韓国では抗日独立運動の英雄とあがめられている。同館には安の写真や伊藤が暗殺された当時の様子などの資料がパネル展示されている。

 しかし、である。韓国にとっては、英雄かもしれないが、日本国民の感情からすれば、受け入れられない話だ。当然、日本政府は開館に際して「わが国の初代総理大臣を殺害し、死刑判決を受けたテロリストだ」(菅義偉官房長官)と指摘し、抗議した。また安倍内閣は「記念館が建設されたことは遺憾」などとする国会答弁書を閣議決定した。

 韓国は、安重根記念館以外でも、国際社会において歴史認識を巡って一方的な主張を重ねている。ユネスコの世界記憶遺産に、いわゆる元従軍慰安婦らの証言記録を登録するための準備を始めているという。

 中国も韓国と同様、このところ反日プロパガンダで攻勢をかけている。

 日本としては、韓国、中国のゆがんだ外交工作に対抗する必要がある。そのためには、正確な事実を冷静に世界に説明すべきだ。対応を怠ると、ナチス・ドイツのようなレッテルをはられかねない。

   

   

マンデー政経塾 / 板津久作   



 若者男性向けのヘアスタイル&ファッション雑誌『CHOKi CHOKi(チョキチョキ)』(内外出版社刊)の読モ(=読者モデル)として、裏原宿や表参道あたりでスカウトされてしまいがちな、容姿・骨格が女性的に整った重度の草食系男子のこと。

 語源は、上記のような男子たちが店員として複数働いていて、その姿を一目愛でたい女子客が行列をなすらしい、原宿にある『ミルクカフェ』から、という説がもっとも有力。……だが、「お肌に悪い」といった理由で(エグ)ザイル的なガングロ日焼けを極度に嫌い、ミルク並みの白い肌をキープすることに並々ならぬ執着を示すところから、こう命名されたと分析する向きもある。

 女性以上の化粧水や乳液に関する知識を持ち、彼らにとっての最大のタブーとされるヒゲ・腕毛・胸毛・スネ毛・尻毛……などの髪の毛と脇毛以外の体毛を完全駆逐するために、高額な脱毛治療をも厭わない。得てして小食家である場合が多く、女子でもキツキツなスキニージーンズを事もなくはきこなす。

[反意語]悪羅悪羅系・ザイル系・Jリーガー

   

   

ゴメスの日曜俗語館 / 山田ゴメス   


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