「おしょらいさん」があの世へかえられる8月16日の朝、お盆にお供えする最後のお膳には、あらめとお揚げ(油揚げ)か、揚げ豆腐をたいたものを供えるというきまりがある。このときのゆで汁を捨てずに、家の門口にまくと、「おしょらいさん」はこの世に未練を残すことなく、冥途へかえっていかれるという。これが「追い出しあらめ」と呼ばれている理由である。

 昆布科の褐藻(かっそう)を細かく刻んで乾燥させた「あらめ」は、京都人に欠かせないおばんざいの材料である。京都の商家などで「あらめとお揚げのたいたん」は、毎月三度の「八」がつく日に食べるおばんざいであった。これは、あらめのゆで汁を走り(流し)の下にまけば病気にならない、という言い伝えと、めでたい末広がりの「八」のつく日に、商いの「芽」が出るようにという願いを、掛け合わせたからといわれている。

 「追い出しあらめ」の味付けは至って簡素である。まず、あらめを十分に水に浸けて柔らかく戻してからよく洗い、細かく切ったら、昆布のだしで炊く。砂糖、淡口と濃口の醤油を使って味をつけ、刻んだお揚げを入れて煮れば完成。精進料理のときでなければ、お揚げを入れるときに鰹節を一緒に入れれば、ダシにコクが加わり、一層おいしくなる。

 お盆の間の各家では、生臭なものは鰹節のだしさえ使わないお膳や間水(けんずい=おやつ)が仏壇に供えられる。お供え物には七種(なないろ)という、蓮の葉に七種類の野菜や果物を載せたものを用いるのが決まりの一つ。個々の内容に特別な決まりはないようであるが、ホオズキは必ず入っており、このほか、瓜、ささげ、枝豆、インゲン豆、茄子、サツマイモなどをお供えするのが一般的である。


あらめとお揚げのたいたん。酒の肴にも抜群であるが、最近はできあいのものが入手しにくくなってきた。人気がないのか、とても残念である。


   

京都の暮らしことば / 池仁太   



 理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(CDB、神戸市)副センター長。8月5日に自殺。享年52。

 2014年はSTAP細胞騒動の年として記憶されるかもしれない。1月28日に報道発表されるや、生命科学の常識を覆す大発見、ノーベル賞ものだとメディアが大騒ぎし、割烹着姿で顕微鏡を覗く小保方晴子氏(30)の可愛い横顔が日本中に溢れた。

 だが、英科学誌『ネイチャー』に小保方氏の論文が掲載されると、すぐにネットの力が発揮される。STAP細胞の再現ができないことや画像の改ざんなどが世界中から指摘されたのだ。共著者である若山照彦山梨大学教授もその存在を否定するに至って、STAP細胞は小保方氏が人為的に作り出した“捏造”ではないかという疑惑が噴出した。

 小保方氏は記者会見し「STAP細胞はあります」と抗弁したが、理研側は調査委員会を設置して「不正あり」という結論を下した。

 四面楚歌の中、小保方氏を支え続けてきたのが上司の笹井氏であった。そのため週刊誌では小保方氏と笹井氏が男女の仲ではないかと疑う報道が相次ぎ、笹井氏が周囲に「映画『ボディガード』のケビン・コスナーのように彼女を守り抜く」といったなどとも報じられた。

 笹井氏自身も4月に会見を開きSTAP細胞の可能性を強調していたが、その後は心身ともに疲労していったようだ。

 笹井氏は兵庫県出身。幼い頃名古屋市内に転居し、県立旭丘高校から京大医学部に進学。卒業後、米国留学を経て36歳という若さで京大教授に就任し、2000年から理研CDBに在籍していた。ES細胞から脳の一部や網膜を作製する実験に成功し、iPS細胞でノーベル賞を受賞した山中伸弥氏とともに再生医療分野のトップランナーとして活躍してきた。
 輝かしい経歴を見る限り、これまでの人生で大きな挫折は味わっていないようだ。そのためSTAP細胞論文問題に巻き込まれ、初めて味わう蹉跌を乗り切る術がわからず、懊悩するうちに発作的に死を選んでしまったのではないだろうか。

『週刊朝日』(8/22号、以下『朝日』)で、大阪府内に住む笹井氏の母親と話した知人女性がこう明かしている。

「芳樹君が亡くなる3日前、お母様と電話でお話ししました。その時、『芳樹がどこにいるか、居場所がわからなくなっていて、家族で捜し回っていた』と困惑されていました。 大丈夫ですか、と尋ねると、お母様は『(医師の)兄さんが“無事か”と出したメールに芳樹から“元気ではないけど、生きています”という返事がとりあえず来たので安心した』と。(中略)
 あの子は、週刊誌などに書かれた小保方さんとの仲などについて、『あんなことは絶対ないから信じてほしい』と言っていた。理研について、『クビにするならしてくれればいいのに。アメリカで研究したいのに、なかなか切ってくれない』と愚痴をこぼしていた」

 また、笹井氏の遺書の内容について理研関係者がこう語る。

「『小保方さん』と手書きされた封筒入りで、パソコンで作成された文書でした。『1人闘っている小保方さんを置いて、先立つのは、私の弱さと甘さのせいです。あなたのせいではありません。自分のことを責めないでください。絶対、STAP細胞を再現してください。それが済んだら新しい人生を一歩ずつ歩みなおしてください』などと、彼女を気遣うような内容でした」

 笹井氏は最後までSTAP細胞の存在を信じていたのか、それとも小保方氏への思いやりからだったのだろうか。

『朝日』によれば、笹井氏を最後に追い詰めたのは、7月27日に放送されたNHKスペシャル「調査報告 STAP細胞 不正の深層」だったという指摘もあるようだ。
 そのなかで2人のメールが読み上げられている。

「小保方さん 本日なのですが、東京は雪で、寒々しております。そんなこんなで、残念ん(ママ)ながら、早くラボに帰るのが難しい可能性があり、直帰になるかもしれません。(中略)2回目の樹立のライブイメージングは、ムービーにしてみたら、どんな感じでしたでしょうか? では、また明日にでも見せてくださいね。小保方さんとこうして論文準備が出来るのをとてもうれしく、楽しく思っており、感謝しています。 笹井」

「笹井先生 いつも大変お世話になっております。寒い日が続いておりますが、お体いかがでしょうか? 小保方」(『週刊新潮』8/14・21号)

 このメールは理研が調査のために集めた資料の中にあったもので、それをNHKが入手して放送したのだそうだ。私信まで公表して2人の親密さを暗示したかったのかもしれないが、事務連絡のメールにしては感情表現が豊かではある。

 理研内部からメディアにリークする人間が出たことも笹井氏にはショックだったのであろう。彼は放送後、かなり滅入っていたという。

『ネイチャー』や世界最高峰の学術雑誌『セル』は相次いで笹井氏の死を悼む声明を発表した。日本科学界の寵児の死が計り知れない損失を与えたことは間違いない。

元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3

 台風一過。やや秋の気配が忍び寄ってきている気もしますが、まだまだ油断してはいけません。今週は他のメディアが取り上げない、取り上げられないネタを3本集めてみました。楽しんでください。

第1位「村上春樹が酩酊した『ドイツ大麻パーティ』の一部始終」(『アサヒ芸能』8/14・21号)
第2位「氷川きよし“ホモセクハラ暴行”元マネジャーとの示談のお値段」(『週刊文春』8/14・21号)
第3位「安室奈美恵『これでは奴隷契約です』育ての親から独立へ」(『週刊文春』8/14・21号)

 第3位。波瀾万丈、ジェットコースターのような人生を歩んでいるのが歌手・安室奈美恵(36)である。

 ダンサーのSAMとのできちゃった婚。母親がひき殺されるという痛ましい事件。彼女を発掘して育ててくれたライジングプロが3年間で25億円の所得隠しをしていたことが発覚、平(たいら)社長は逮捕されて2年あまりの実刑。そしてSAMとの離婚。
 その安室が今度は所属しているライジングプロからの独立を発表し、平氏らとの間で揉めているというのである。

 この独立騒動の裏には男の影があると『文春』は書いているが、それはともかく、松田聖子もそうだが歌姫たちの人生は誰も順風満帆とはいかないようだ。

 第2位は、『フライデー』が報じ『文春』も報じた氷川きよしのホモ疑惑報道だが、この影響は大きかったようだと『文春』が書いている。
 10月に日本武道館で「デビュー十五周年記念コンサート」をやるそうだが、チケットの売り行きが芳しくないという。女性ファンの「理想の息子」がホモセクハラではね……。

 堂々の第1位はノーベル賞候補のず~っと昔のオイタのお話。

 世界的にマリファナを解禁せよという声が強くなっているようだ。そう思っていたら作家の村上春樹氏が『アサヒ芸能』(以下『アサ芸』)の「袋とじ」になっているではないか。表紙にはだいぶ若い村上氏がややトロンとした表情で写り、その下に「『ノルウェイの森』を生んだ『大麻パーティ』を発掘スクープ!」と書いてある。
『アサ芸』と村上春樹という取り合わせは珍しい。世界的に大麻解禁の流れにある中で、いまさら大麻疑惑でもないだろうとも思うが、紹介してみよう。

 ときは奇しくも『1Q84』ならぬ1984年。『BRUTUS』(マガジンハウス)の取材のために訪れたドイツ・ハンブルクでのことだそうである。
 撮影兼案内係を務めたのがドイツ人元フォト・ジャーナリストのペーター・シュナイダー氏で、取材は1か月ほどだったという。

 某日、村上氏たちはハンブルクの郊外にある廃駅を利用したクラブを取材することになった。現地のコーディネーターがアレンジしたもので当初はカメラマンだけが出向くという話だったが、村上氏も同行したいといい出した。
 しかし、現地へ行ってみると運悪くリニューアル中で休業。店内だけ見学させてもらい帰ろうとしたところ、クラブのオーナーであるドイツ人夫妻が、自分の家によっていかないかといってくれたので、よせてもらったという。
 最初はビールで乾杯し、当初はクラブ経営のことなどが話題に上っていたが、やがてオーナーがこう切り出した。

「よかったら一服やらないか?」

 この一服はタバコではなくマリファナのことである。当時ドイツでも大麻は違法だったが、クラブ経営者など業界人が自宅でマリファナやハッシシ(大麻を固めた合成樹脂)をプライベートに楽しむのは日常茶飯事だったという。
 通訳が村上氏に伝えると、村上氏は事もなげにこう答えた。

「ええ、大麻なら、僕は好きですよ」

そのときシュナイダー氏が撮影した何点かの写真が「袋とじ」の中にある。
 彼がフイルムを整理していたところ出てきたのだそうだ。それまで、その日本人がノーベル文学賞候補にまでなった村上春樹と同一人物だったとは気がつかなかったという。

 シュナイダー氏はなぜ今、このことを公表しようと思ったのか。

「別に彼を落としめようとか、批判しようとかという気持ちはない。彼の作品にはマリファナを扱う描写も出てくるし、本人もマリファナ好きを公言しているのはファンなら知っている。その彼が若い時にこのようにマリファナを楽しんだということを彼の“ファン”も知りたいと思ったからだ」

 たしかに、その経験は彼の作品に存分に生かされている。10年に発表された『1Q84』の中で、主人公・天吾は父の入院先である病院の看護師たちとパーティーをやった後、その中でいちばん若い女性である安達クミにマリファナを勧められる。その感覚をこう表現している。

「秘密のスイッチをオンにするようなかちんという音が耳元で聞こえ、それから天吾の頭の中でなにかがとろりと揺れた。まるで粥を入れたお椀を斜めに傾けたときのような感じだ。脳みそが揺れているんだ、と天吾は思った。それは天吾にとって初めての体験だった~脳みそをひとつの物質として感じること。その粘度を体感すること。フクロウの深い声が耳から入って、その粥の中に混じり、隙間なく溶け込んでいった」

 99年に発表されたエッセイ集『うずまき猫のみつけかた』の中でも村上氏はマリファナについてこう書いている。

「経験的に言って、マリファナというのは煙草なんかよりも遙かに害が少ない。煙草と違って中毒性もない。だからマリファナをちょっと吸ったくらいで、まるで犯罪者みたいに袋叩きにあうなんていう日本の社会的風潮は、まったく筋が通らないのではないか」

 これだけマリファナ擁護論を展開しているのに、『アサ芸』が村上春樹事務所に事実関係を確認すると、事務所から連絡を受けたという都築響一という編集者が出てきて、

「取材旅行中、僕は常に村上さんと一緒に行動していたので、こちらの知らない場所で大麻、というのは、写真も含めてありえないかと思います」

 と答えている。
 常にいたという都築氏の姿はシュナイダー氏の写真の中には発見できなかったと、『アサ芸』は書いている。

 われわれが若い時はマリファナやハッシシ、LSDなどは簡単に手に入り、新宿の喫茶「風月堂」はそうした連中の溜まり場であったし、罪悪感などなかった。
 だから大麻を解禁してもいいとは、私は思わないが、大作家になると、こうした過去の微笑ましい外国での経験でも、認めるわけにはいかないのだろうか。
   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   



 2014年7月14日から公募が始まった「異能vation」。総務省が進める「戦略的情報通信研究開発推進事業(SCOPE)」に新たに設けられた枠で、 「ICT」に挑戦する「異能」を求めるというプログラムだ。ICTとは「情報通信技術」を意味する「Information and Communication Technology」の略である。こうした分野に疎ければ、はて、このたぐいを表現した言葉に「IT企業」などの「IT」がなかったか?と思うのではないか。本来のITとは技術面に主眼を置いた用語で、その技術を活用して「何をするか」がICTと考えればいいだろう。ざっくり言えば、アップル社のスティーブ・ジョブスが世に問うた斬新なアイディアの数々は、まさにICTと呼べるものである。

 コンピュータの「使い方」を切り拓いた者たちは、時代の常識からすると「変な」発想を持っていた。「異能vation」も、まずは「独創的な人向け特別枠(通称:変な人)」の名称で告知されていたが、この「変」と言い切った表現がネット界隈でウケた。「お国の役所なのに変人を募集している!」というわけだ。もちろん、情報通信技術におけるアンビシャスな課題という文脈で理解できないと、「変な人」のイメージもおかしなことになるだろう。「常識にとらわれない、独創的な人への支援を行うことで、日本から革新的な技術と人材を創出することが目的」(公式ホームページ)のプログラムは、国の施策としてはいたって真っ当な企画だ。一年間で最大300万円の研究費が支給されるというから、「正しき変人」なら応募を一考してはいかがだろうか。
   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   



 7月1日、集団的自衛権の行使について新たな憲法解釈を示した「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」が閣議決定された。

 この閣議決定によって、憲法解釈が変更されこれまで日本が禁じてきた「集団的自衛権」の行使が認められたと、多くのメディアは報じている。そのため、賛成派、反対派にかかわらず、国民の間では集団的自衛権の行使容認は既成事実となった雰囲気も感じられる。

 だが、日本が戦争ができる国になったと判断するのは早計だ。作家の佐藤優氏のラジオ番組での解説によれば、今回の文書は公明党と内閣法制局が苦心の末に、これまでの個別的自衛権と重なる部分でしか集団的自衛権を行使できないようになっているという。閣議決定文書を丁寧に読み込むと、実質的に武力行使できる範囲は、これまでの個別的自衛権と変わるところはなく、今回の解釈変更をもってしても他国への侵略のための武力行使はできない内容になっているのがよくわかる。

 なぜなら、これが憲法解釈による武力行使容認の限界だからだ。日本国憲法のもとでは、自国(日本)の主権が侵されていないのに他国への武力行使はできず、自衛隊が出動できるのは専守防衛のみだ。この範疇を超えた段階で憲法違反となることは明白で、その点を法律家は熟知している。そのため、今回の閣議決定では、他国のための防衛出動をする場合も、それによって「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」といった文言を入れることで、実はこれまでの個別的自衛権の範疇を超えられないように縛りをかけているのだ。

 閣議決定は、こうした抑制の効いた文書になっているのに対して、決定を主導した自民党の議員たちがその内容を正しく理解しているのかは疑わしい。安倍晋三首相は、7月15日の参議院予算委員会で閣議決定の内容を逸脱するような答弁を行なったり、外遊先で海外に自衛隊を派遣するかのような発言をしたりしている。

 関連法案の提出は、来年(2015年)の通常国会となる見通しだが、自民党からは閣議決定の範囲を超えて、憲法に抵触するような集団的自衛権の行使を強行するような法案を提出してくる可能性は否めない。しかし、現状のまま集団的自衛権を行使するのは、あきらかな憲法違反で、平和を愛する国民はこの点を深く追及していく必要がある。

 違憲の対象となる条文は、戦争の永久放棄を謳った憲法9条はもちろんだが、内閣の業務内容を定めた憲法73条にも抵触するという見方もある。


第73条 内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行ふ。
一 法律を誠実に執行し、国務を総理すること。
二 外交関係を処理すること。
三 条約を締結すること。但し、事前に、時宜によつては事後に、国会の承認を経ることを必要とする。
四 法律の定める基準に従ひ、官吏に関する事務を掌理すること。
五 予算を作成して国会に提出すること。
六 この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること。但し、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。
七 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を決定すること。

 首都大学東京准教授で若き憲法学者の木村草太氏は、ニュース専門ネット番組の「ビデオニュース・ドットコム」で、憲法73条について、「内閣の業務は、国内の一般行政事務、外国の主権を尊重しながら外交を行なうことなどで、軍事権は含まれていない」と解説している。それなのに、内閣の権限で集団的自衛権を行使しようとするのは、憲法で定められた内閣の業務の範疇を超えており、この点でも憲法違反を問われることになるという。

 国民の間には、すでに集団的自衛権の行使容認で、日本が戦争に突き進むかのような雰囲気が漂っている。だが、今回の閣議決定でも、武力行使できるのは従来の個別的自衛権の範疇に収められた内容になっており、これまでの憲法解釈を大きく超えるものではない。

 日本を、再び他国を侵略する戦争をする国にしないためには、この閣議決定を生かして、その範囲内で関連法を作らせるような活動をしていくのが有効な手立てだ。そして、憲法9条だけではなく、憲法73条違反にも厳しい監視の目を強めていく必要があるのではないだろうか。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   



 海外への旅行も出張も、もはや珍しくない昨今。日本人出国者数はここ数年1700万人前後で推移している。羽田空港の国際化やLCCの新規就航で、世界はますます「近く」なるばかりだ。しかし、治安の良さに慣れすぎた日本人が、異国の地でトラブルに巻き込まれる事例は後を絶たない。

 外務省は2014年7月1日、海外旅行者向けのサービス「たびレジ」をスタートさせた。「レジ」とは「register(登録)」から来ており、外務省ホームページの専用サイトに旅行日程、滞在先などを「登録」するものだ。これによって現地の治安などの最新情報を入手でき、災害などに際しては、緊急連絡を受け取るツールとなる。

 背景には、2013年1月に起きたアルジェリア邦人に対するイスラム系武装集団のテロ事件がある。地元の信頼も厚い多くの企業戦士たちが犠牲となったが、このとき、日本政府は情報の入手が遅れた。3か月以上の渡航で必要な「在留届」が提出されていなかったため。だが、在留届は短期渡航者である一般の海外旅行者や出張のサラリーマンが提出するたぐいのものでなく、この結果、いざというときに安否の確認が難しくなるわけだ。在留届よりも簡便で気軽にできるシステムを狙った「たびレジ」、登録は任意ではあるが、政府では多くの渡航者の利用を勧めている。
https://www.ezairyu.mofa.go.jp/tabireg
   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   



 政府は7月25日、「まち・ひと・しごと創生本部」(本部長・安倍晋三首相)の準備室を設置した。同本部は政府が「地方創生本部」として検討を進めていた地域活性化の司令塔機関で、9月にも正式発足する。新たに置かれる「地方創生担当大臣」をはじめ全閣僚が参画する。

 同本部について安倍首相は「地方において、緊急かつ深刻な人口急減、超高齢化に対し、政府一丸となって本腰を入れて取り組む」と発言している。かなりの入れ込みようである。

 背景にあるのは「安倍首相が推進するアベノミクスの効果が地方に浸透していない」という事情がある。来春に地方統一選も控え、地方経済の底上げや地域活性化が、政権にとって重要課題となっている。

 地方は「人口減少」に直面しており、若者の雇用を、地方に生み出す施策が何よりも必要だ。同本部が手がける具体策として、企業の農業進出、就農や起業の促進など、これまでの地方活性化の枠を超えた施策の展開が大事だ。住宅サポート、就職情報の発信で、都市居住の若者の移住を促すのもいい。

 ただ、ここに来て自民党内に気になる動きがある。来春の統一地方選をにらみ、公共工事の増額などを中心とした旧来型の経済対策を求める声が出ているのだ。要はカネのばらまきだ。

 求められるのは、人口減少に歯止めをかける抜本的な、それこそ地方の地域社会を変えるような施策だ。カネのばらまきでは人口減少は止められない。
   

   

マンデー政経塾 / 板津久作   



 今年の夏あたりから「かき氷」がちょっとしたブームになっているらしい。

 六本木交差点近くでは年中無休のかき氷専門店がオープンし、都内の某一流シティホテルのレストランでは「石垣島天然マンゴー添え羽衣ミルクかき氷」なる2592円の高級かき氷がそれなりの人気を博しているという。

 すでにアイスクリームブームが一周してしまった昨今に「次はかき氷だ!」と逸る気持ちはわからなくもないが、筆者としては「あまりそそられない」というのが正直なところだ。

 まず、冬には絶対に食べたいとは思わないだろう。いくら暖房のきいた暖かい室内であろうが、その見た目の“雪”のような寒々しさは如何しようもない。(高級)アイスクリームの濃厚感と比べ、かき氷のアッサリ感は夏の乾いた喉を潤してくれそうだが、冬はそこまで切実に喉も乾かない……。極論、冬にかき氷を食べるヒトたちの気が知れない。

 あと、かき氷ブームを煽る代表的なコピーとして「ふわっふわの~」などがよく目に付くが、筆者の個人的好みで言えば、あまり目が細かすぎない、どちらかといえば「ジョリジョリ」の氷に、マンゴーだのツバメの巣だのといった余計な物はあえてのせず、カルピスだけをサッとかけたかき氷がいちばん美味しい、と主張したい。
   

   

ゴメスの日曜俗語館 / 山田ゴメス   


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