餅花は、柳、水木(みずき)、榎(えのき)などの枝に、紅白の小さな餅をつけ、神棚や玄関の近く、座敷などの柱に飾り付ける正月飾りである。花をつけた枝が華やかに揺れる様子は、早春の梅を思わせるが、揺れて定まらない華やかさは、新春らしい風情を醸し出す。早春の梅の蕾を思わせるが、本来の意味は、餅や団子を丸めて稲穂に似せ、豊作を祈るための飾りものである。養蚕の予祝行事である繭玉や、五穀豊穣を祈る花餅の行事といった小正月の風習として、日本各地に似た様式の飾りものが伝承されている。京都で餅花に直接関係のある特別な行事は催されていないはずで、正月飾りや生け花などとして、花餅、花飾、餅の花などと呼ばれながら定着している。
京都の生花店では年の暮れが近づくと、身の丈よりも長い枝に、搗いた餅を、指先でひねりながらつける様子が見られる。餅の形もいろいろで、大小さまざまな丸い形や四角いものなど個性も豊か。餅の花を咲かせた長い枝が数十本も束になって、所狭しとばかりに置いてある。
昨今の老舗料亭やお茶屋などの正月飾りには、見事な枝振りの餅花が浸透しており、古くから伝わっている風習なのだろうと、改めて疑ったことさえなかった。けれども、村松友視(ともみ)氏の著書『俵屋の不思議』(世界文化社刊、1999年)を読んだときには驚いた。京都随一の老舗旅館の女将が、二十数年前に東北地方の正月飾りに刺激されて創作したものである、というようなことが書かれてあった。昔からの習慣を守る旧家の多い京都の正月に、新たな装飾がこれだけ定着しているということには、ちょっとした感動を覚えるものである。