「きれい(綺麗)さび」とは、江戸初期の武家で、遠州流茶道の開祖である小堀遠州が形づくった、美的概念を示すことばである。小堀遠州は、日本の茶道の大成者である千利休の死後、利休の弟子として名人になった古田織部(おりべ)に師事した。そして、利休と織部のそれぞれの流儀を取捨選択しながら、自分らしい「遠州ごのみ=きれいさび」をつくりだしていった。今日において「きれいさび」は、遠州流茶道の神髄を表す名称になっている。

 では、「きれいさび」とはどのような美なのだろう。『原色茶道大辞典』(淡交社刊)では、「華やかなうちにも寂びのある風情。また寂びの理念の華麗な局面をいう」としている。『建築大辞典』(彰国社刊)を紐解いてみると、もう少し具体的でわかりやすい。「きれいさび」と「ひめさび」という用語を関連づけたうえで、その意味を、「茶道において尊重された美しさの一。普通の寂びと異なり、古色を帯びて趣はあるけれど、それよりも幾らか綺麗で華やかな美しさ」と説明している。

 「さび」ということばは「わび(侘び)」とともに、日本で生まれた和語である。「寂しい」の意味に象徴されるように、本来は、なにかが足りないという意味を含んでいる。それが日本の古い文学の世界において、不完全な状態に価値を見いだそうとする美意識へと変化した。そして、このことばは茶の湯というかたちをとり、「わび茶」として完成されたのである。小堀遠州の求めた「きれいさび」の世界は、織部の「わび」よりも、明るく研ぎ澄まされた感じのする、落ち着いた美しさであり、現代人にとっても理解しやすいものではないだろうか。

 このことば、驚くことに大正期以降に「遠州ごのみ」の代わりとして使われるようになった、比較的新しいことばである。一般に知られるようになるには、大正から昭和にかけたモダニズム全盛期に活躍した、そうそうたる顔ぶれの芸術家が筆をふるったという。茶室設計の第一人者・江守奈比古(えもり・なひこ)や茶道・華道研究家の西堀一三(いちぞう)、建築史家の藤島亥治郎(がいじろう)、作庭家の重森三玲(しげもり・みれい)などが尽力し、小堀遠州の世界を表すことばとなったのである。


作庭家・重森三玲が晩年(1969年)に建てた自作の茶室・好刻庵。大胆なデザインの襖は自身のデザインによるものである。


   

京都の暮らしことば / 池仁太   



 9月28日から始まったNHK朝の連続テレビ小説。93作目にして初めて幕末からドラマが始まったが、4週連続で20%を超す高視聴率を得ている。

   幕末に京都で呉服屋と両替屋を営む豪商の家に生まれたおてんば娘・あさ(波瑠(はる))が大阪の両替商に嫁ぎ波瀾万丈の人生を辿るというストーリーである。

 あさにはモデルがいる。“明治の女傑”といわれた広岡浅子(1849(嘉永2)年~1919(大正8)年)で、彼女は大同生命を立ち上げるなど女性実業家として激動の時代を切り拓き、日本初の女子大学「日本女子大学」を創設する。

 ドラマの魅力は、天真爛漫で男顔負けの度胸も持つあさを演じる波瑠と、その姉で、あさとは対照的な人生に翻弄されるはつ役の宮﨑あおいに負うところが大きいが、脇役陣もNHKならではの豪華さである。

 なかでもあさの嫁ぎ先、加野屋の次男坊、白岡新次郎を演じる玉木宏がいい。家業を嫌い遊び歩く優男だが、今どき珍しい落語に出てくる放蕩の限りを尽くす若旦那の雰囲気を漂わせ、惚れ惚れさせる。

 波瑠は夏目雅子を髣髴とさせる目力の強さと愛くるしさを持った女優で好感度は抜群。正反対の性格だと私などは思うが、はつ役、宮﨑あおいの健気な演技が心憎いほどうまい。

 ドラマは史実とフィクションをない交ぜにして進んでいくようだ。『週刊ポスト』(11/13号、以下『ポスト』)は今後、こう展開すると読んでいる。

 あさは嫁ぎ先の両替商「加野屋」の借金返済のために買った九州の炭坑へ一人で行くのだが、女が乗り込んだことで炭坑夫たちは猛反発する。だが、持ち前の負けん気でなんとか乗り切る。だが今度は炭鉱で落盤事故が起こり、再び窮地に追い込まれる。

 その後、あさは東京へ出て渋沢栄一や大隈重信、井上馨など明治の政財界の大物たちと出会って、実業家への道を歩み始める。

 一方のはつは、大阪一の老舗両替商「山王寺屋」に嫁いだものの、維新後、両替商は没落してしまう。

 流転の末、はつは実家の母から譲り受けた和歌山の家で暮らすことになるという。

 史実では広岡浅子の姉はこの時期に27歳で亡くなっているというが、『ポスト』でライターの田幸和歌子氏は、姉妹の絆が重要なテーマなので史実とは違うストーリーにするのではないかと推測している。

 今後の展開を楽しみにしてもらうとして、このドラマのもう一つの主役は商都・大阪である。船場商法ともいわれ、一時期は東京を凌ぐ経済の中心であった。

 松下電器産業(現・パナソニック)や住友金属工業(現・新日鉄住金)、川崎製鉄(現・JFEスチール)をはじめ伊藤忠商事、丸紅、住友商事、日商岩井 (現・双日)、トーメン(豊田通商と合併)、日綿実業(現・双日)はいずれも大阪の企業であり、ダイエーやサントリー、朝日新聞も大阪から生まれている。

 ドラマであさの師として描かれ、ただ一人実名で登場する五代友厚(ディーン・フジオカ)は「大阪経済の父」「日本の財界をつくった男」といわれた。

 『週刊現代』(11/14号)で鹿児島県立図書館館長の原口泉氏がこう語る。

 「彼は、まだ鎖国時代の少年期に地球儀を作るほど世界に目を向けており、長じてからは欧州を回って産業革命で沸く英国のマンチェスターやコーンウオールの製鉄所を目のあたりにした。幕末の最終局面では、薩長は英国を、幕府はフランスを後ろ盾にしていましたが、五代は日本が近代化して列強に伍していくためには、外国資本に頼らず日本の民間企業が株式会社を作って産業を興すべきだと考えたのです」

 五代は鉱工業などを手掛けるとともに、大阪株式取引所や大阪商法会議所(大阪商工会議所)の創設を推進して、明治初期の大阪商人の間でリーダー的存在になっていった。

 こう見てくると、名古屋に迫られ、地盤沈下が激しい大阪経済にカツを入れ、かつての栄光を取り戻せと励ますドラマだと見ることもできるようだ。

 東京にあさが出ていくとき一緒に上京した相手は五代だそうだから、あさの口癖である「びっくりぽん」な展開で、朝ドラには珍しい「不倫」が描かれるかも知れない。

 そうなれば朝ドラ史上最高視聴率は間違いないと思うのだが、ご清潔なNHKでは無理だろうか。

元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3
 早いもので高倉健が亡くなって1年になる。11月21日は立川談志師匠の命日だが、もう4年が経つ。去る者は日々に疎しとよくいわれるが、私は嘘だと思う。ノンフィクション・ライターの本田靖春(やすはる)さんは12月4日で亡くなってから11年になるが、私のなかでは毎年存在感が大きくなっている。
 私が亡くなったら、わずかでも自分のことを覚えている人がいてくれたらと、チョッピリそんなことを思う今日この頃である。

第1位 「没後1年で語られ始めた『高倉健』密葬の光景」(『週刊新潮』11/19号)
第2位 「『クローズアップ現代』やらせの隠蔽 NHK籾井会長『あいつは敵だ』支配」(『週刊文春』11/19号)
第3位 「松重豊『孤独のグルメ』撮影現場インタビュー」(『週刊文春』11/19号)

 第3位。私もよく見ている『孤独のグルメ』(テレビ東京系)についての『文春』の記事。この番組で困るのは、ここで紹介された店には客が殺到して、常連客が入れなくなることだ。
 よく使っていた青山の鉄板中華『シャンウェイ』は、電話をかけたら1か月待ちだといわれた。この番組は松重豊(まつしげゆたか、52)がただひたすら食べるだけだが、松重の食べっぷりがいいのが魅力である。
 松重が演じる五郎は下戸という設定だが、本人は『文春』のインタビューで、「毎日三、四皿のつまみを肴に、ビールと日本酒一合で晩酌をします」と答えている。この番組の制作スタッフたちは下見を200軒、店が決まれば出演交渉やロケハンなどで一店舗に5、6回は行くからどんどん太るそうだ。
 だが、松重はあれほどうまそうにすべてを毎回完食するのに太らない。その訳をこう話している。

 「実は、それなりに苦労はあるんですよ。(中略)
 だから毎朝犬の散歩で六キロ歩いています。それから、家に帰って朝六時半からやっているお年寄り向けのテレビ体操を十分間やって、その後、腹筋ローラーを三十往復。そうするとね、ジムに行かなくても有酸素運動と筋トレができますから。それでキープできているんだと思います」

 私もオフィスで毎日、ラジオ体操と簡単なストレッチをやっているが、腹筋ローラーってのを買ってみようかな。

 第2位。同じ『文春』が巻頭でNHK『クローズアップ現代』のやらせ問題について、BPO(放送倫理・番組向上機構)が「重大な放送倫理違反があった」と断罪したことを報じている。
 昨年5月14日放送の「追跡“出家詐欺”~狙われる宗教法人~」でやらせがあったという。N記者がインタビューしたブローカーはN記者の友人で、ブローカーではなかったのだ。
 BPOの判断は当然であり、こうした不祥事だけではなく、さまざまな問題が起きる背景には籾井(もみい)会長の「恐怖政治」があることも事実だが、もっと問題なのはBPOが指摘している「政治介入」である。
 BPOは、この問題をめぐって放送に介入する政府・与党の動きが見られたことに対し、これは「放送の自由と自律に対する圧力そのもの」と厳しく批判したが、菅官房長官や谷垣幹事長らは猛烈に反発している。
 BPOはNHKと民放連によって自主的に設置された第三者機関である。こうした問題に政治家が口を挟んでくるのは口幅ったくいえば憲法違反である。
 そこへ言及しなかった『文春』の報道には、やや不満が残った。「春画事件」で編集長が3か月の休養を命じられ、次期社長候補といわれる木俣氏が編集長を務めてから、失礼だがやや誌面が精彩を欠いていると思うのは、私だけだろうか。
 この件を月刊誌『創』12月号が詳しく報じているので要点を紹介しよう。
 10月8日、文藝春秋本社の2階にある『週刊文春』の編集部に松井社長と木俣常務、鈴木洋嗣局長が出向き、編集長の休養を編集部員に告げた。
 理由は春画を掲載したことが『文春』のクレディビリティ(信頼性)を損なったためだという。松井社長の次の言い分に、私は違和感を感じた。

 「『週刊文春』は代々、ヘアヌードはやらないという方針でやってきました。振り返れば辛い時代もありました。『週刊現代』、『週刊ポスト』をどうしても追い抜けない時代があった。理由は『週刊文春』にはヘアヌードが載っていなかったからです」

 家に持って帰れる週刊誌だからやせ我慢してヘアヌードを載せなかった。その信頼を今回は裏切ったというのである。
 この「歴史認識」は間違いである。創刊してしばらくはともかく、『週刊現代』は出版社系週刊誌のトップを走り続け、『週刊ポスト』が創刊されてからは『現代』と『ポスト』が首位争いを繰り広げてきたのである。
 たしかに私が『現代』編集長になる数年前から『文春』が『現代』を追い抜いたことはあったが、それは『現代』が大きく部数を落としたからであった。
 たしかに『現代』、『ポスト』はヘア・ヌード(正しくはこう書く)で部数を伸ばしたが、それだけが理由ではない。読者に受け入れられる誌面づくりに力を入れた結果で、企業努力をしなかった週刊誌が悔し紛れに、ヘア・ヌードの御利益ばかりを言い募っただけである。
 毎週『文春』は新聞広告で、何十週ナンバー1などと謳っているが、ほかの週刊誌の部数が大きく落ちたので、落ち幅が少ない『文春』が上にいるだけではないのか。
 まあ、それは置いとくとして、社長のやり方は編集権の介入ではないか、春画は芸術である、編集長は更迭かなど、編集部から疑問の声が上がったという。当然である。
 春画を猥褻とする考えは、私も理解しがたいが、編集長休養の背景には、AKB48などの芸能ものに力を入れる、編集長の「軽薄路線」が首脳部をイラつかせていたこともあるようだ。
 あと2か月経って新谷編集長が復帰してきたら、どういう誌面をつくるのだろう。注目したい。

 第1位。11月11日は高倉健が亡くなって1年になる。BSを中心に健さんの映画を何本も流していた。
 健さんの映画の中で個人的に好きなのは、結末がイマイチだが『駅 STATION』がいい。北海道の雪深い町のどん詰まりにあるうら寂しい赤提灯で、女将の倍賞千恵子と健さんが、紅白歌合戦で八代亜紀が唄う「舟歌」を聞きながら、何気ない会話を交わすシーンが好きだ。
 一夜を上にある彼女の寝間で過ごした健さんが、朝、歯を磨きながら、倍賞から「私の声大きくなかった?」と聞かれ、「すごかったな」と一人呟くのが微笑ましかった。
 『新潮』は、健さんが死ぬ前に養子縁組をして、唯一の子供として彼の遺産を引き継いだ養女(51)について、あまり芳しくない噂があるとレポートしている。
 健さんは4人きょうだいの二番目。兄と上の妹は物故しているが、下の妹の敏子さん(80)は九州で健在だという。きょうだいたちにはそれぞれ子どもがいるが、健さんの死は事務所が公表するまで知らされなかったし、密葬にも呼ばれていない。
 驚くのは、健さんは江利チエミとの間にできた「水子」が眠っている鎌倉霊園に墓地をもっていたが、健さんと親しかった「チーム高倉」たちが、供養塔をそこにつくれないかと霊園側に持ちかけたところ、霊園側から「管理費が滞納されている」ことを告げられたというのである。
 養女が忘れていたのかもしれないが、礼を失しないことを大切にしてきた健さんが生きていたら、いちばん嫌がることではないだろうか
 養女は過去に2度離婚経験があるそうだ。その後19年ほど前に健さんが「家の仕事をしてくれる人を探している」と親しくしていた寿司屋の大将に話し、彼女が敷地内の別の建物に住むようになった。
 そしてしばらくすると二つの建物をつなげ自由に行き来できるように改築したという。
 養女の実父は東京・板橋区の古い住宅供給公社の団地に住む。壁は塗装がだいぶ剥げ落ちていると『新潮』が書いている。父の久夫さん(80)は、妻とは30年くらい前に別れているという。

 「去年パジェロに乗ってやってきたけど、わたしの吸うタバコの煙を嫌がって、“もう来ない”とすぐに帰ってしまいました。珈琲セットとか果物を贈ってきたり、年賀状のやりとりはあったけど、最近はなくなりました。で、高倉健ですか。養子になったというのは聞いてなかったです。そう言えば2年くらい前に来たときは、30万円が入った封筒を置いて行きました」

 彼女は千代田学園に通う18歳のときスカウトされて芸能界入りし、20歳でデビューした。はじめは民謡歌手のアシスタントなどをしていたが、橋田壽賀子や山田太一のドラマに出るようになったそうだ。
 名優・笠智衆に可愛がられたと父親が話している。しかし芸能界の仕事から次第に離れていったという。健さんが愛した最後の女性は健さんにふさわしい人であってほしい。そんなファンの思いに彼女がかなり重圧を感じていることは想像できる。ぜひ、表に出てきて素顔の健さんの思い出を語ってほしいものである。
   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   



 地域グルメのファンにとって、毎年10月の「とっとりバーガーフェスタ」内で行なわれる「全国ご当地バーガーグランプリ」は注目度の高い存在。2015年、栄えある1位に輝いたのは、和歌山県・湯浅町のパン工房カワが出品した「まるごと!?紀州梅バーガー」だった。前年に引き続いての二連覇ということになる。これは、かつて「B-1グランプリ」で第1回・2回と富士宮(ふじのみや)やきそばが連覇し、B級グルメ界が一気に白熱していった状況を彷彿とさせる。

 紀州梅バーガーの定義は、「和歌山県産の梅を使用していること」「梅の健康イメージをアピール出来ること」「和歌山県産の梅であることを表示すること」の3点。パン工房カワのものは、はちみつ南高梅(なんこううめ)と、「紀州うめどり」のチキンカツとのマッチングが見事だ。このほか、県内では肉のまる彦本店、サンドウィッチカフェのサントピアなどでそれぞれ独自に開発したバージョンが食べられる。最近、雑誌などで取り上げられる機会も多くなった紀州梅バーガーだが、ご当地バーガーというもの自体のムーブメントも牽引できるかが人気の定着のカギとなるだろう。今後の展開も楽しみである。
   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   



 毎年、冬から春にかけて流行するインフルエンザ。体力の弱い小児や高齢者などがかかると肺炎を併発するなど重症化することもあるためやっかいだ。流行前にワクチンを接種して予防することが推奨されているが、今年はワクチン価格の値上がりが懸念されていた。

 日本で使用されるインフルエンザのワクチンは、国内の流行状況、WHO世界インフルエンザ監視対策システムなどを介した世界各地の情報などから、次のシーズンの流行を予測し、厚生労働省が製造するワクチン株を決定している。

 昨シーズンまでは、インフルエンザウイルスのA型2種類、B型1種類に対して免疫をつけるものが作られていたが、最近はB型2種類の混合流行が続いており、予測が難しくなってきていた。そのため、2015年度からはA型2種類、B型2種類の合計4種類のウイルス株に対応可能な「4価インフルエンザワクチン」が導入されることになった(下記※参照)。

 ウイルス株が3種類から4種類に変更されたことで製造コストが増加し、医療機関の購入価格は昨年の1.5倍程度に上昇。それに伴い、個人の負担も重くなるため、そのことによる影響が懸念されていた。

 インフルエンザワクチンの予防接種は保険が適用されず、全額個人負担となる。一部公費負担(定期予防接種)で受けられるのは、原則的に65歳以上の高齢者のみなので、経済的な理由でインフルエンザワクチンの接種を見送る人が増える可能性もある。

 そのため、高齢者の定期接種の負担をする市区町村や医療者団体から、厚生労働省に対してワクチン接種の負担を抑える特別な対策をとってほしいという意見が届けられるようになった。

 これを受けた厚生労働省健康局結核感染症課は、「インフルエンザHAワクチン予防接種の円滑な実施への協力について(依頼)」を通知。日本医薬品卸売業連合会のほかワクチン製造メーカーに対して、「ワクチン価格につきまして、特段のご配慮をいただきたくお願い申し上げます」という異例の依頼が行なわれたのだ。

 その後、製造メーカーからは「検討する」という前向きな回答が出されており、ワクチン価格の上昇はわずかながら緩和された。ただし、接種料金は昨年に比べて500~1000円程度上昇しており、個人負担は増えそうだ。

 インフルエンザをはじめとする感染症を防ぐためには、ワクチンは集団で接種しなければ、その意味が半減してしまう。大流行した場合は、子どもや高齢者、病気で免疫力が低下している人など体力の弱い人が重症化し、命の危険にさらされやすくなる。

 予防接種率がワクチンの価格によって大きく左右されると、医療体制や国民医療費にも影響を及ぼす。病気を防ぐためのワクチンは、誰がその費用を負担するべきなのか。4価インフルエンザワクチンによって起こった騒動を、今後の公衆衛生を考える契機にしてほしい。

※2015年度インフルエンザワクチン製造株
A型株
・A/カリフォルニア/7/2009(X-179A)(H1N1)pdm09
・A/スイス/9715293/2003(NIB-88)(H3N2)
B型株
・B/プーケット/3073/2013(山形系統)
・B/テキサス/2/2013(ビクトリア系統)
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   



 「ぬいぐるみのよう」とも形容される、かわいらしいイヌが「シバラニアン」。といっても、犬種ではない。ポメラニアンの毛を柴犬のようにカットしたものを指す。あくまで俗称である。

 ポメラニアンといえば、欧州の厳しい寒さに対応するよう改良された種であるため、豊かな毛が特徴だ。ゆえに、基本的には日本の蒸し暑い夏が苦手で、サマーカットを行なう飼い主が多い。だが「もふもふは苦しかろう」と考えるのはいささか早計だ。毛には熱をさえぎって体温を一定に保つなど、プラス面も多い。愛犬家のあいだでは、むやみに切ることについて異論がある。また毛の質がデリケートで、切ったはいいがなかなか生えてこない場合もあるという。

 だが、飼い主の愛情の注ぎ方というものは人それぞれ。いたずらにリスクばかりを指摘するのも野暮というものだ。ネット上に散見されるシバラニアンの画像は、いわゆる「豆柴」、小型の柴犬の雰囲気が出ていて、人気が出るのもうなずける。愛犬の体調とも相談しながら、すこやかな関係性を築いてほしいものだ。
   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   



 中国が35年あまり続けてきた「一人っ子政策」を廃止することを決めた。

 「一人っ子政策」は計画出産による人口抑制策だ。始まったのは1979年。夫婦1組に対し、原則として子どもを1人に制限し、違反者には罰則が科される。中国は2013年に夫婦のどちらかが一人っ子の夫婦に第2子を認めるなどこれまで緩和策を行なってきたが、今後は、原則としてすべての夫婦が2人まで子どもを持てるようになる。

 それにしてもなぜ廃止に踏み切ったのか。背景にあるのは、急速に進む少子高齢化だ。中国の合計特殊出生率(1人の女性が一生に産む子どもの人数の推計値)については1.18(2010年)という数字が知れわたっている。ちなみに日本のそれは1.42(2014年)。中国の少子化の深刻さがわかる。

 少子高齢化は経済成長の阻害要因となる。労働力人口(15歳以上65歳未満の人口)や生産年齢人口(15歳以上の人口のうち、就業者と完全失業者の合計)の減少をもたらす。財政面でも社会保障費の負担増が大きくのしかかる。中国の労働力人口は2012年から減少に転じており、13億人以上を誇る人口も10年後には減少に転じると推計されている。

 圧倒的な労働力人口を誇り、「世界の工場」の役割を担ってきた中国だが、その将来に少子高齢化が大きな影を落としているわけだ。

 習近平国家主席は「出産の潜在力を更に解放することで高齢化への圧力を緩和する。労働力の供給を増加させ、人口のバランスと発展を促進する」などと一人っ子政策の廃止について説明している。ただ、その効果が思惑通りにあらわれるかは不透明だ。
   

   

マンデー政経塾 / 板津久作   



 直訳すれば「努力を要しない、軽々とやってのける」などの意味。ただし昨今は、世界45か国で刊行されている女性ファッション誌『ELLE』が発信したトレンドワード(正式には「Effortless Chic=エフォートレス・シック」)で、「肩の力を抜き、ほどよく崩した大人のカジュアルスタイル」というファッション用語として、おもに使用されている。

 とはいえ、筆者がたとえば近所の喫茶店へ原稿を書きに行くときの「短パン+友人の台湾みやげにもらったガラの悪い偽ドラ○もんのTシャツ+スリッパ(※12月〜3月は友人が家に忘れていったスウェット+我が草野球チームの公式ジャンパー+スリッパ)」みたいなファッションスタイルとは微妙に違っていたりする。あくまで「ほどよく崩す」の「ほどよく」が重要なわけであって、「崩しすぎ」「肩の力の抜きすぎ」は単なる「だらしないおっさん」としかカテゴライズされないのがむずかしいところだ。

 そういった「自然な着こなしができる人こそが真のオシャレさん」なる理屈はわからなくもないが、「努力を要しないように努力する」「肩の力を抜くように頑張る」というお題目は、もはや禅問答の域で、その境地に達するためには、なんらかの宗教的な修行に相当な時間を費やす必要があると思われる。おそらく現時点でエフォートレスや、以前取り上げた「ノームコア」を完璧に実践できている“真のオシャレさん”は、全先進国人口の数パーセントにも満たないのではなかろうか?
   

   

ゴメスの日曜俗語館 / 山田ゴメス   


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