西日本と東日本の食べものの違いについて、かねてからいろいろ触れているが、「おにぎり」一つにこれほど違いがあるとは思いもしなかった。

 まず第一に、形が違う。東日本は三角か丸型が標準の形だと思うが、京都は俵型が基本形である。さらに、お葬式や法事などの特別なときに使うものや食べるものは、日常のものと異なる形にするという風習があり、京都では「おにぎり」を三角形にすることが多い。さらに、三角形の「おにぎり」は、災害時の炊き出しや火事場のお見舞いなどとして用いるものともされている。気の急いているときにどこからでも食べやすいからだという。コンビニエンスストアの「おにぎり」が日常食化している昨今、このような風習は徐々に薄れているものの、肝心なときに問われる大切な常識といえるだろう。京都には神社やお寺が多く、古い行事や祭が頻繁に行なわれるためかもしれない。

 一方、「おにぎり」の中身は、海苔や昆布の佃煮、おかか、明太子、たらこ、焼いた塩ざけなどが定番だ。これに東西の違いはないものの、京都で初めて「おにぎり」をいただいたとき、かぶりついて思わず口から出しそうになったことが思い出される。なぜかといえば、海苔を巻いた「おにぎり」のそれが、味付け海苔を使っていたからだ。それまで味付け海苔は、旅館の朝食ぐらいでしか食べる機会がなかったのでずいぶん驚いた。京都では、子どもにも、大人にも、一番食べ慣れた「おにぎり」だと教えられた。

 

   

京都の暮らしことば / 池仁太   



 山本七平の『「空気」の研究』は名著である。彼は日本がなぜ無謀だとわかっていた第二次大戦にのめり込んでいったのかをいろいろな例を引き、それに異を唱えることができなくなる「空気」の存在を指摘してみせた。

 「この『空気』とは一体何なのであろう。それは教育も議論もデータも、そしておそらく科学的解明も歯が立たない“何か”である」

 この空気は日本独特のもので、それは今もこの国を“支配”し続けている。この摩訶不思議な空気という言葉が人口に膾炙(かいしゃ)し、時代を経て「ムード」「KY(空気の読めない人)」、最近流行りの「忖度」などもその流れから出てきているのだろう。

 空気が読めない、忖度できない奴は、日本社会では「異端児」扱いされるならまだしも、「変人」「奇人」呼ばわりされて、ムラ社会からつま弾きになってしまうのである。

 私は詳しくはないが、戦後に限ってみても「空気を支配」してきた人物がどの分野でも成功者になっているのではないか。または、リーダーになっても「空気を支配」できなかった人間は、成功者とみなされず、リーダーシップがない、リーダーの器にあらずなどといわれ、表舞台から消えていった。

 前置きが長くなったが、安倍晋三という男が一強といわれ、憲法を蔑ろにしても支持率が下がらず、長期政権を続けているのも、この「空気」を巧みに支配しているからではないかと、『週刊ポスト』(6/16号、以下『ポスト』)が特集を組んでいる。

 安倍政権では大臣たちの失言が続出している。明らかに大臣としてではなく人間として備えておくべき理性も知性も欠如していると思われる“デージン”が多すぎる。

 安倍自身も“お友だち”の森友学園理事長や加計(かけ)学園理事長への便宜供与疑惑や妻・昭恵の関与が疑われ、追及されているにもかかわらず、なぜか内閣の支持率はある程度のところから下がらない

 平成の七不思議であるが、『ポスト』によると、「空気という妖怪」を手なづける術を身につけているらしいというのである。

 だが安倍は、昔からそうだったわけではない。「KY」という言葉が最初に流行したのは2007年だったらしいが、これは第一次安倍政権の末期だった。

 当時の朝日新聞はこう書いている。

 「最近、中高校生の間では、『KY』という言葉がはやっているらしい。(中略)この若者言葉が安倍首相を評する時にも使われている

 その後、安倍は突然辞任し、安倍の政治家生命は終わったとみんなが思っていたのだ。

 そして、野党に転落した自民党が立て直しのために取り組んだのが「情報分析会議」だったという。メンバーは茂木敏允(もてぎ・としみつ)現政調会長、世耕弘成(せこう・ひろなり)現経済産業相、平井卓也現IT戦略特命委員長、加藤勝信現一億総活躍相など、現在の安倍内閣で中枢を担っている面々である。

 この取り組みを内部から見ていた自民党情報戦略のブレーン・小口日出彦がこう話している。

 野党になると新聞もテレビも取り上げてくれないから仕方なくネットを使った

 「そこで自民に好意的な情報からネガティブな情報まで丹念に集めて直視してもらうところからスタートした。(中略)徹底的に議論して情報を分析し、表現方法なども研究した」

 12年に政権に復帰した安倍は、13年にネット選挙が解禁されると、特に重視したのが不利な情報やネガティブ情報への反撃作戦だったという。

 小口はこれを「毒矢を消す」と呼んでいる。ネット戦略の実働部隊として小池百合子を自民党広報部長に、その下に議員、選挙スタッフ、ネット企業の専門家、弁護士からなる「Truth Team」を発足させ、24時間体制でネットを常時監視し、ブログやSNS、2ちゃんねるなどに候補者への誹謗中傷などの書き込みがあれば、直ちに削除要請する仕組みを作り上げた。

 それらが功を奏して、13年の参院選で31議席増という結果を出したというのである。

 小口は、メディアでは、政治で取り上げられるのはカネをめぐる疑惑や男女関係のスキャンダル、失言・暴言、ヤジが飛び交う議場などばかりで、そういう情報に基づいて政治の印象が固まり、「本当に重要な情報がこぼれ落ちていく」と言っている。果たしてそうであろうか。これへの反論はまた後述するとして、「毒矢を消す」手法は森友・加計問題でも使われた

 安倍首相は国会で「私や妻が関係していたら総理も国会議員も辞める」と全否定し、都合が悪い文書が公表されると菅官房長官が「怪文書みたいなもの」と頭ごなしに否定してみせたことがそれに当たるそうだ。

 さらに安倍は「空気」を支配することを考え出したという。森友学園問題では籠池泰典(かごいけ・やすのり)前理事長の補助金不正受給疑惑で検察が捜査に乗り出し、加計学園問題では、前川喜平(きへい)前事務次官が出会い系バーへ通っていたと読売新聞に書かせたことがそうだというのである。

 政権が吹っ飛ぶような内容でも、そうした風評を流すことで、国民に「どっちもどっち」という印象を与え、ダメージを打ち消してしまう

 トランプ米大統領のように、都合の悪い情報がネットに出ても、「それはフェイクニュースだ」と平気で言い張る。厚顔無恥と紙一重だと、私は思うが。

 それに安倍の常套手段は、森友学園問題では、民進党が民主党時代の偽メールを引き合いに出し、加計学園問題では、鳩山内閣も動いたと言い出す。批判を受けると「お前の時もやっていた」と言うのは禁じ手である。なぜなら、民進党からいえば、それは自民党時代からやっていたではないかと言いたくなる。それでは泥仕合になるだけだが、それが安倍のやり方で、相討ちになればオレのほうが有利だという計算があるからだろう。

 その上、メディアを支配する。時事通信の田崎史郎をはじめ、準強姦罪疑惑で名を上げた(?)山口敬之(のりゆき)元TBS記者など、安倍のポチ記者をコメンテーターに起用させ、反安倍のコメンテーターをテレビから排除していった。

 ジャーナリズム論の上智大学水島宏明教授は、こうした安倍のやりたい放題にも、安倍を支持する率がさほど落ちないのは、視聴者、特に若い層の視聴者が変わってきたからだという。

 「昔は、メディアには権力監視の役割があり、政権に批判的な報道は当然という考え方が常識としてあった。今ではそれが崩れている。特に若い世代は、安倍さんを攻撃しているように見える報道には嫌悪感を感じる傾向があります。政権に批判的な従来型のジャーナリズムのスタイルでやってきたコメンテーターは、実際には官邸の圧力などに関係なく次第に姿を消している

 今、都知事として日の出の勢いに見える小池都知事も、安倍の「空気の支配力」をよく知っているため、安倍に弓を引いたことはない。都知事選の公約も「アベノミクスを東京から」だった。

 また、政治ジャーナリストの藤本順一は、安倍のうまさを、対中強硬姿勢、アベノミクス、対ロ交渉、憲法改正など多くのテーマを次々に掲げるから、一つがうまくいかなくても目先を変えられ、大きく支持が下がらないと分析する。

 それに国論を二分する沖縄の基地移転、原発再稼働などは、反対派の反感を買っても半数の支持は得られるポチ・メディアと反安倍メディアを分断することによって、メディアが挙(こぞ)って安倍批判をすることはない。

 説得力があるのは、安倍第二次政権は元々期待されていなかった、期待値が低いから、それにしては「よくやっているんじゃない」と“好意的”に受け取られているのではないかという見方である。

 先の小口が言うスキャンダルや議員たちの怒声などで「本当に重要な情報がこぼれ落ちていく」などと言えるものは、安倍内閣には何もないということだ。

 ここはトランプ政権と酷似している。自分に都合の悪いことには知らぬ存ぜぬを決め込み、ポチ・メディアを使って批判する人間のスキャンダルや逆の情報を流させ、世論を操作する。

 文科省の人間が、官邸の意向という文言がある文書を出せば、国家公務員法違反(守秘義務違反)で処罰すると恫喝(どうかつ)する。

 これでは北朝鮮と同じではないか。こんな無茶苦茶なリーダー一人、首をすげ替えられない日本人って、欧米の常識人から見たら、どこか狂っていると見えるのではないだろうか。

 山本七平は本の中で、空気という妖怪を打ち破るには「水を差す」国民が現実に立ち返ることだとしている。

 そのうえで戦争が始まる前、誰かが石油という「先立つものがない」と水を差していれば、B29の爆撃機を「竹やりでは落とせない」と水を差せば、あれほどの惨禍を免れたかもしれないと論じている。

 今の時代、水を差す役割はメディアにあるはずだ。だが、世界一の部数だけを誇る読売新聞が「安倍御用新聞」になり果て、テレビはポチたちが勢ぞろいして安倍にすり寄っている現状では、期待するだけ無駄ということかもしれない。

 最後を、本の中にある山本の言葉で結んでおきたい。

 「これまで記してきたことは、一言でいえば日本における拘束の原理の解明である。ある状態で、人は何に拘束されて自由を失うのか? なぜ自由な思考とそれに基づく自由な発言ができないのか。そしてその状態にありながら、なぜ『現在の日本には自由が多すぎる』といえるのか。なぜ『譲れる自由』と『譲れない自由』といったおそらく世界の『自由』という概念に類例のない、まことに不自由な分類が出てくるのか。それはおそらくわれわれが、『空気拘束的通常性』の中の、どこに『自由』という概念を置いてよいかわからないからであろう。確かに、こういう状態で『自由』という言葉を口にすれば、正直な人は笑い出すだけである」

元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3
 タレントのスキャンダルが暴露されるケースは、女性側が男の不実に我慢できない、自分が相手の知名度を利用して有名になりたい、売り込んでカネにしたいという場合が多いようだ。小出恵介というアホタレが、17歳とわかっていた女とSEXをして、彼女が『フライデー』に垂れ込んだ。雑誌に売り込む前に小出側にかなりの金銭要求があったという報道もある。質の悪い女に引っかかったということかもしれないが、未成年と性交渉では弁解の余地はない。33歳にもなって「知りませんでした」では済まされまい。無期限活動停止を同情する気にはなれない。

第1位 「小出恵介『17歳女子高生と飲酒&SEX』狩野英孝に続き……人気俳優の許されざる淫行を告発する!」(『フライデー』6/23号)
第2位 「食べログ“カリスマレビュアー”が『高評価飲食店』から過剰接待」(『週刊文春』6/15号)
第3位 「巨人軍崩壊『ああ、無策!』由伸監督を解任せよ」(『週刊ポスト』6/23号)

 第3位。無策のまま42年ぶりに球団史上ワーストを更新した巨人軍。長嶋の監督1年目でも11連敗だった。
 それもこの年は、球はものすごく速いがノーコンだった新浦(にうら)というピッチャーを根気よく使い続けたための最下位だった。
 その新浦は翌年、見事にエースに育ち、巨人を優勝させた。
 だが今の高橋由伸(よしのぶ)には何もない。由伸の名言が『ポスト』に載っている。

 「相手があることなので、なかなかうまくいかない」

 11連敗後のコメントのようだ。その通りである。相手があるから、それに対処するのが監督なのだが、由伸にはそれがわからないのだ。
 2年目の今季は、30億円もの大型補強をしたのに、その選手が一人として活躍していない。これも見事というしかない。
 これは監督だけの問題ではなく、フロント、それに口を出し過ぎるナベツネこと渡辺恒雄主筆の責任が問われなくてはいけない。
 昔、氏家齊一郎(うじいえ・せいいちろう)日本テレビ社長からこんな話を聞いた。務台(むたい)光雄読売新聞社長時代のこと。テレビで野球中継を見ていた務台が、「こんなピッチャーを使うからいけないんだ」と怒り出し、近くにいた人間に巨人のベンチに電話を掛けろと命じた。
 早速、電話をすると、次の回、監督が出てきてピッチャー交代を告げた。こんなことがよくあったという。
 これではいくら優秀な監督でも嫌気がさす。今もこのようなことが行なわれているのかもしれない。由伸よ、早く辞任したほうがいい。今の戦力では立教大学にも負ける。
 私にいい案がある。長嶋を監督に復帰させるのだ。長嶋はベンチで座っていればいい。選手たちが自分たちで考え、動いてくれる。そうすれば、必ずいいほうへ動くし、長嶋で負けても、ファンは長嶋を見に来ているのだから怒りはしない。いいと思うのだが。

 第2位。食べログというのがある。私も時々利用するが、場所や営業時間の確認をするためで星の数など気にはしない。
 だが、『文春』によれば、星の影響力は絶大で、「激戦区では星が三・五以上か未満かで月間売り上げが数千万円違う場合もある」(都内飲食店経営者)という。
 その食べログでカリスマレビュアーといわれる「うどんが主食」というのがいるそうだ。四国出身の50代男性で、小さなビルメンテナンスの会社の社長だ。
 これまで2000件近いレビューを食べログに投稿してきたという。だが、彼が高評価したステーキ店『ウェスタ』のオーナーや、『うしごろ』という焼き肉店の社長、EXILEが所属するLDHが経営する焼き鳥屋『鳥佳』と親しく付き合い、接待を受けていると『文春』が報じている。
 それだけではない。気に入らない店は罵倒したり、中韓や東南アジアをさげすんだ差別発言を書き込むことも多いというのだ。
 もちろん食べログにも「口コミガイドライン」があり、もし無料接待を受けて飲食した場合は「通常利用外口コミ」にチェックをして投稿しなければならないという。
 だがこの御仁、そんなことはしていない。食べログにはこの頃、評価の仕方やネット予約を使わないと評価を落とすといったなど、いろいろな疑問が報じられている。
 このままでは所詮ネットだからとユーザーからそっぽを向かれてしまうと思う。最近、店を探すと食べログが上位に上がってこないことが多くなっている気がする。信用回復策を講じなければ、これまでのようなおいしいことはできなくなる。

 第1位。今週の第1位は『フライデー』。俳優の小出恵介(33)が17歳の女子高生(編集部注:その後の報道では少女となっている)と飲酒&SEXをしたと報じたことで、ワイドショーが大騒ぎである。『フライデー』はこう書いている。

 「17歳のA子さんが“その日”を振り返る。
 『9日の夜11時ごろ、知り合いに「小出恵介と飲んでるからおいで」と、ミナミのバーに呼ばれたんです』(中略)
 『私が17歳ということは、小出さんは間違いなくわかっていました。私が到着した時、みんなが「この子17歳やで」と、小出さんに紹介してましたから』」

 このバーで1~2時間ほど飲んだ後、小出から「2人で飲みに行こう」と誘われたA子さんは、戎橋(えびすばし、通称「ひっかけ橋」)近くにあるバーへと案内された。

 「『ヤバいかも、と思ったのは、深夜3時ごろに2軒目を2人で出た後でした。ひっかけ橋の上で、キスしながら欄干に押し付けられたんです。私はワンピースだったんですけど、裾をめくり上げて服を脱がそうとしてきたので、「アカンよ!」と必死に止めました』」

 「『小出恵介に会える』と、ミーハー気分で飲み会に参加したことを後悔したA子さんは、帰宅しようとタクシーを止めた。しかし乗り込んできた小出に、宿泊先である帝国ホテルへ有無を言わさず連れて行かれた。
 『そこからは本当に最悪でした……。部屋に入った途端に迫ってきて(中略)』」

 6時間以上にわたって「17歳の身体」を弄んだ小出。一晩で5回。そのうち中出し2回とA子さんが赤裸々に語っている。
 事務所と小出は、お詫びと無期限の俳優活動停止を発表した。彼女はインスタグラムに、自分が『フライデー』に売り込んだのではない、謝礼も受け取っていないと書き込んでいる。
 たとえ、彼女が売り込んだのだとしても、小出には非難する資格はないが。
   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   



 宗教によって食のタブーがあることを耳にしたことはないだろうか。ユダヤ教にも「カシュルート」と呼ばれる食事のルールがある。これは『タナハ(キリスト教における『旧約聖書』)』にもとづく厳格なもの。食肉に関しては「ひづめが分かれ、反すうを行なう動物」だけが認められる。これにのっとると、ウシやヒツジはOKだが、ブタはNGということになる。また、魚介類ではひれとウロコのある魚だけがOKで、タコ・エビ・ウナギ(実際にはウロコはあるが皮下に埋まっている)などはNGだ。

 聖職者「ラビ」の立ち会いのもと、こうした条件をクリアした食品だけが、「適正」といった意味の「コーシャ」と呼ばれる。「清浄食品」と呼ぶこともあるようだ。その認証のマークは、日本ではコストコなどの商品で見かける。宗教的に自由な日本では、縁遠い話に感じられるかもしれないが、いま、このコーシャがヘルシーフードとして注目されつつあるという。

 コーシャ食品は、かつてユダヤ人たちが住んだ過酷な環境を生き抜く知恵だったという説がある。「食べられない肉」の面ばかり注目されるが、「口に入れて害の無いものか否か」という視点があるのだ。だから、食品添加物のたぐいは含まれていない。食の安全は保たれるわけだ。もとより野菜中心の食生活を送っている人が、宗教とは関係なくコーシャ食品を選ぶことも増えているという。

 もう一点重要なのは、世界に向けて和食をアピールする際に、これからはコーシャ認証が追い風になるのではという可能性だ。米、野菜、魚を中心とする我が国古来の食事は、コーシャとの親和性が高いと考えられる。
   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   



 「卒婚」とは、2004年に出版された『卒婚のススメ』((静山社文庫)で、フリーライターの杉山由美子氏が使ったもの。「結婚生活を卒業する」という意味の造語で、芸能界でもタレントの清水アキラや俳優の加山雄三らがが発表&実践していることで話題に。一般にも広まってきているそうだ。

 夫婦が別々の道を歩むために婚姻関係を解消する「離婚」に対して、「卒婚」は一定期間、連れ添った夫婦が婚姻関係を維持しながら、互いに干渉しないで、それぞれの人生を自由に歩む新しい結婚の形。

 卒婚後の住居形態はさまざまで、必ずしも別居するわけではない。同居しながら互いの行動を干渉しないで、食事や生活もそれぞれのペースで行なう夫婦もある。卒婚のタイミングは、子どもが学校を卒業して自立したり、夫が定年退職したりした中年期以降が多い。「夫は仕事、妻は家事」という旧来の役割にとらわれず、互いが自立することで自由な時間を持ち、困ったときは助け合う前向きな関係を目指すものだという。

 たとえば、「田舎暮らしを希望する夫と卒婚、妻は都市部で暮らす」「一緒に暮らしていても、夫婦それぞれが自分で食事を作り洗濯をして、自由に時間を過ごす」といったイメージだ。

 ポジティブなイメージがあるが、夫婦ともに自立していなければ卒婚は難しい。別居するなら、住居費や生活費はそれまでよりも増える。専業主婦で、収入のすべてを夫に頼っていた女性は、自分も働いて収入を得なければ生活もままならなくなる。また、家事の一切を妻が行なっていた家庭で、卒婚後は互いの暮らしを干渉しないなら、夫は食事作りや洗濯などに頭を悩ませることになる可能性もある。

 「子育てが一段落したら卒婚したい」と思っているなら、夫婦ともに経済的にも、生活的にも、自立しておくことが条件になるだろう。

 卒婚はあくまでも婚姻関係は続けるもので、離婚を前提にはしていないが、法律上は別の解釈がある。民法第752条では「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない」と定めており、長期間の別居は離婚原因としても認められている。卒婚期間中にどちらかが離婚を言い出せば、不本意にも離婚を認めざるを得なくなる可能性もある。

 また民法第770条では、婚姻期間中の不貞行為は離婚原因として認められており、慰謝料請求の対象にもなる。

 夫婦が互いに干渉しない人生を歩むのが目的とはいえ、長年連れ添った夫婦が別々の道を歩むためには、法律面や経済面では、想像を超える問題が出る可能性もある。トラブルなく卒婚をするためには、「万一、どちらかが病気になったら」「途中で気持ちが変わったら」など不測の事態を想定しながら、夫婦でよく話し合っておくことが重要だろう。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   



 SNSなどで目にする、女性がひとりで楽しむ気ままな旅を称した「ひとりっぷ」という言葉。もともとは女性ファッション誌『SPUR(シュプール)』(集英社)で連載された旅行コラム「今月も世界のどこかでひとりっぷ」から来ている。このコラムは、「編集P」こと同誌の元編集長・福井由美子氏が手掛けたもので、ディープな旅好きならではのセンスが人気を集めた。その「独断と偏見」の熱さは、旅の世界へと悪魔的に誘惑してくるのだ。

 好評を受け、「ひとりっP」の名義で書籍『今日も世界のどこかでひとりっぷ』(集英社ムック)が上梓された。オススメの旅行先を10都市にわたって紹介した本書は、「女性の一人旅バイブル」として、各メディアで盛んに取り上げられている。基本的にガイドブックのたぐいは、「客観的」であるがゆえに読み物としてはつまらない。また、無意識のうちに男性向けに特化しており、女性視点の記述は皆無に等しい。行動的な女性の多い時代。海外旅行の回数が350回を超えるという福井氏の言葉は、「ひとりっぱー」たる女性たちのよき水先案内となろう。
   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   



 地方自治は「民主主義の学校」と言われる。その地方自治の根本とも言える地方議会が、存亡の危機に追い込まれているという。

 高知県大川村が村議会を廃止し、「町村総会」の設置を検討している。

 町村総会は、有権者が一堂に会し、予算案などを審議するものだ。古代のアテネやローマで行なわれた「直接民主制」を地で行く形だが、人口減少による地方の衰亡を象徴する話ではないか。

 大川村は、高知県の北部に位置する山村である。人口減少や高齢化が進んで人口は406人(2016年10月末現在)まで落ち込んだ。高齢化率(65歳以上が占める割合)も43%に達している。村議会の定数はたったの6人。これでは十分な審議もままならない。議員のなり手不足も深刻という。これまで大川村は周辺自治体との合併を検討したが、まとまらなかったという。

 そうした自治体のために、地方自治法は、「町村は、議会を置かず、選挙権を有する者の総会を設けることができる」などと定めている。ただ、地方自治法下の設置例は1950年代に東京都の旧宇津木村(現、八丈町)があるに過ぎない。

 人口減少と高齢化の進展は何も大川村だけの話ではない。今後、同じように町村総会を選択する自治体も増えるに違いない。

 ただ、一般の町村民による総会で果たして十分に行政をチェックできるだろうか。議員という「プロの目」で監視することが肝要ではないか。町村総会はあくまで窮余の一策であり、何か別の手立てが必要だ。そうでないと、町村長の鶴の一声で何事も決まる「独裁政治」がはびこる可能性がある。
   

   

マンデー政経塾 / 板津久作   



 大手製菓会社『明治』が、スナック菓子『カール』について、8月生産分をもって全国販売を中止し、販売地域を関西地域(滋賀・京都・奈良・和歌山)以西の西日本地域に限定すると5月25日に発表。それを受けた中部地域(福井・岐阜・三重)以東の、東日本に根強く生息するカールファンのあいだで、只今蔓延しつつある“ロス状態”のことをいう。カルロス・トシキのことではない。

 ポテト系の全盛によって、とうもろこし系の売り上げが長期的に低迷してしまっているスナック菓子市場の実状を踏まえた苦渋の決断であり、『明治』の公式発表によると「(今後は)生産拠点を四国にある子会社『四国明治』の1か所に集約するかたちとなるため、生産・物流等を考えると、西日本限定とせざるを得なかった」のだそう。

 もちろん、関西出身者である筆者もカールが大好きで、「東京でもうカールが買えなくなる」といったニュースには軽く衝撃を受けたクチだが、ひとかけらのなかにあらゆる最新技術を駆使して目一杯の旨味を詰め込む、いわゆる「凝縮系」のスナック菓子が主流となりつつある昨今、“空気”を隠し味とする「膨張系」が、時代から取り残されてしまうのも致し方なし……なのかもしれない。

 あと、「食べるとき手が汚れる」のも衰退の理由だと指摘するむきもあるが、たしかにカールを食べながらテレビのリモコンなどをいじったりするのは……異様にテカテカしちゃうので、「のり味のポテトチップス」同様、ちょっとつらかったりする……。
   

   

ゴメスの日曜俗語館 / 山田ゴメス   


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