「娘さん、しっぽりしてきよったなぁ、最近。うちのキョロはほんま、なに考えてんのやら……はずかしいわぁ」。

 「しっぽり」は、大人びていたり、落ち着いていたりする様子を表す言葉である。もともとは、「しっとりと十分に濡れるさま」や「しめやかなさま」、あるいは「男女間の情愛のこまやかなさま、親密なさま」(『日本国語大辞典』)といった意味でも使われてきた。京都や奈良、和歌山などではニュアンスが若干変化した他の意味もあり、「熱心な」という意味で、「しっぽりきばってもろて、わるいなぁ」というような使い方もされていたそうである。なお、「キョロ」というのは、目をキョロキョロしているというところから「落ち着きのない人」という意味で、かわいらしさを加味しつつ使われることが多い。

 「しっぽり」の「大人びたしっかり感」がいきすぎて、厳しさが加わるほどになると、「しかつい」という形容になる。「おたく、この頃しかついこと言わはりますな」などという感じ。ちょっと皮肉交じりに注意を促すわけだ。また、「しっぽり」の対義として使われる言葉は、せかせかして落ち着かないという意味の「いらち」であろう。「ほんまにいらちやし、忘れもんせんといてな」という風に使う。標準語の「せっかち」と同じような使い方だろう。


峰床山(左京区)にて。


   

京都の暮らしことば / 池仁太   



 言わんこっちゃない。バカは隣の火事より怖いのだ。トランプ大統領は米中首脳会談の最中にシリアを空爆して、世界中に衝撃が走った。

 それだけではなかった。首脳会談が終わった後、今度は米原子力空母カールビンソンや空母航空団、誘導ミサイル駆逐艦などを朝鮮半島近海に集結させるよう指令を出し、北朝鮮の核施設や軍事基地への空爆も辞さないと、圧力を強めているのだ。

 朝鮮戦争以来最大の危機である。一つ間違えれば第二次朝鮮戦争勃発という最悪の事態も考えられる。なぜトランプは、プーチン大統領や習近平主席の顔に泥を塗るようなことを始めたのか。

 その謎を解き明かしてくれる報道は日本のメディアには皆無である。シリア空爆については、こういわれているそうだ。

 4月4日、シリアの反体制派支配地域で、神経ガスを使ったと見られる空爆があり、子どもを含む多くの市民が犠牲になった映像が世界中を駆け巡った。それを見たトランプが怒り狂って命令した。後先を考えない“衝動的”なものだそうだが、だとすれば、こんな怖いことはない。

 『ニューズウィーク日本版』(4/18号、以下『ニューズ』)は、トランプの攻撃を取り上げている。トランプは選挙中ISISを討伐するといってきた。それが突然、アサド政権を打倒しようとしているISIS側に回ったかのように、アサド側を空爆したのである。

 この空爆が持つ意味は深刻である。シリアのこの地域にはトランプが“尊敬”しているプーチンのロシア軍が、アサド政権を守るために1万人程度入り込んでいるといわれている。

 「攻撃直後のロシアは怒りの声明を発表。米ロ両軍の偶発的衝突を防ぐための連絡システムを停止した。直接の報復行動ではないが、これで米軍の軍事行動はリスクがかなり高くなる」(『ニューズ』)

 さらに同誌によれば、トランプはアメリカ国内で「プーチンの傀儡政権」といわれている風評を打ち消すために、このような強硬姿勢をとったのではないかという見方があるという。

 トランプがロシアの傀儡政権であったとしたら怖ろしいことではあるが、それを否定するためにシリアを空爆したのであればなおさら怖い話だ。この男には世界最大の核戦力を動かす力があるのだから。

 シリアへの空爆をしたことだけでは満足できないトランプは、米中首脳会談が終わると今度は、北朝鮮を標的にすると公言して、核開発を放棄しなければ攻撃すると空母や駆逐艦を差し向けたのである。

 おりしも北朝鮮は故金日成(キム・イルソン)国家主席の生誕105周年を祝うための行事が行なわれ、外国メディアも多数招待していた。

 どちらかが誤って発射した一発の銃弾が、第二次朝鮮戦争を引き起こしかねない緊急事態である。さらに4月25日には軍創建85周年があり、この日に6度目の核実験をするのではないかといわれている。

 そうなればトランプは躊躇せず北朝鮮を攻撃するかもしれない。トランプと北朝鮮問題について何らかの話し合いがあったに違いない習近平は、北朝鮮の核実験を止めさせるために金正恩側への圧力を強めていると思われるが、金正恩があっさり引っ込めるとは考えにくい。

 日本にとってはアメリカの占領時代が終わって以来、初めて日本が巻き込まれる戦争一歩前の異常事態である。

 だが不思議なことに、この国のメディアを見ている限り、そうした緊迫感は伝わってこない

 4月18日、ペンス副大統領が来日して安倍首相と会談した。北朝鮮問題も話し合われたことは間違いないが、安倍首相の表情からも緊迫感はうかがえなかった。

 だが、安倍の“ニタ笑い”の裏に隠された秘密の日米合意があるのではないだろうか。

 ここで『週刊文春』(4/20号)の巻頭で「金正恩“斬首”秒読み 政府が覚悟『最悪シナリオ』」を書いている山口敬之(元TBS記者)のレポートを見てみたい。

 山口は安倍官邸に近いといわれている記者の一人である。

 9日早朝、安倍首相がトランプとの緊急電話会談に臨んだ話から始まる。トランプはそこで「シリア攻撃を安倍が支持した」ことへの謝意を述べたという。だが、安倍としては、化学兵器を使用した確固たる証拠がないため、悩んだ末に「軍事行動ではなく、化学兵器の拡散と使用を抑止する」というトランプの“決意”を支持するという、もってまわった言い方にしたと、安倍の苦心話を披露している。

 山口によれば、トランプは習近平に、近く行なわれるといわれている北朝鮮の6回目の核実験をやめさせるために、中国に対して期限を区切った北への制裁強化を強硬に求めたという。

 だが習近平は明確には答えなかったのだろう。そこで北朝鮮へ軍事攻撃も辞さずという強行姿勢に転じたのだが、山口はここで、シリアは空爆したのに、北朝鮮に対しては、すでに計画立案が終了している「斬首+限定空爆」になぜ踏み切らないのかと疑問を呈している。

 その理由は、日本政府が入手した衝撃的なシミュレーションにあるという。シリアと違って北朝鮮にアメリカが先制攻撃すれば、北朝鮮は必ず韓国のソウルへ攻撃をしてくる。そうなれば韓国人だけではなく、在韓邦人や観光客が多数犠牲になる可能性がある。

 だからアメリカはためらっているというのだが、こんなことはいまさらシミュレイションしなくても、わかりきったことである。

 北朝鮮はソウルだけではなく、日本の心臓部にもミサイルを撃ち込んでくることは間違いない。だが、山口も書いているように、日本の最新鋭のミサイル防衛システムでも、全部を迎撃できるわけではない

 『週刊新潮』(4/20号、以下『新潮』)によると、『ウォー・シミュレイション 北朝鮮が暴発する日』(2003年、新潮社刊)を書いた北東アジア地域安全保障問題に詳しいマイケル・ユーが、米ヘリテージ財団の協力を得てした試算では、北朝鮮が核、生物兵器、化学兵器を搭載するミサイルを東京都庁周辺に撃ち込むと、最大で約186万人が死ぬとしている。

 山口の原稿で見逃せないのは結びの言葉である。「覚悟を決める必要がある」。主語はないが推測するに「国民」であろうが、何の覚悟なのか。

 安倍首相は北朝鮮討伐の米軍に、今後自衛隊も参加させるがゴチャゴチャ言うなということか。官邸の意向を代弁して、われわれに戦争への準備をしておけというつもりなのか。

 森友学園問題でもそうだったが、最近、官邸の意を汲んで、安倍昭恵の疑惑隠しや、アメリカと同盟関係にあるのだから、戦争となれば自衛隊を派遣するのが当然だといういい方をする評論家、ジャーナリスト、テレビのコメンテーターが多い気がしてならない。

 衝動的で先の見通しもないまま突っ走るトランプに対して、バカなことはやめろと忠告するのが真の同盟国としての役割ではないのか。

 トランプの本音はこうだ。シリアや北朝鮮を攻撃しても、アメリカ本土が攻撃されることは当面ない。自分たちが安全な場所にいて、アジアの火薬庫に火を放てば、朝鮮半島と日本列島は火だるまになる。それをワインでも飲みながら、トランプはテレビで見るつもりなのだろう。

 『新潮』によれば、かつて金日成が息子・金正日(キム・ジョンイル)にこう尋ねたという。

 「アメリカが北朝鮮を攻めて来たら勝てるのか」。金正日はこう答えた。

 「勝てないが、朝鮮のない地球はありえない。朝鮮が潰れる時には、地球を破壊してしまえばよい

 韓国では緊張感が高まっているが、日本ではメディアも国民も騒がないのはなぜか。

 今やノー天気週刊誌の代表になった『週刊ポスト』(4/28号、以下『ポスト』)などは、朝鮮半島有事なら日本に「特需」が来るなどという、呆れた特集を巻頭でやっている。

 昔から遠い戦争は買い、近くの戦争は売りという相場の格言がある。ベトナム戦争は遠い戦争であったから「ベトナム特需」があった。『ポスト』は朝鮮戦争のときも「朝鮮特需」があったではないかという。

 だが、あの戦争は米韓と北朝鮮との局地戦だった。その頃の日本はアメリカの占領下だったから、気分的には遠い戦争であった。

 それに、今のような飛び道具戦争ではなく、地上戦が主体だったし、北にはろくに戦闘機もなかったであろう。だが、今は、北と戦争になれば、アジア全土が巻き込まれる。

 『ニューズ』(4/25号)は、まだトランプは北朝鮮を攻撃しようとは考えていないと書いている。それは、韓国にいる15万人前後、日本にいる5万人以上のアメリカ人を退避させていないからだ。

 しかし、シリア攻撃をした後、プーチンの反応は抑制的だった。最強のアメリカに対して誰も報復などしやしない。

 「トランプがそんなおごり高ぶった自信を深めたとすれば、北朝鮮に対しても同じ論理で行動するのはあり得ない話ではない。これによって、米朝双方が互いの意図を読み違えて偶発的な武力衝突に至る可能性も否定できない」(『ニューズ』)

 保守的な『ニューズ』でさえ、北朝鮮という難題を解くには「話し合い」を目指すしかないと言っている。

 安倍首相は政治生命をかけてトランプを説得し、空母を引き上げさせ、金正恩とアメリカ、中国、韓国、日本との話し合いに持ち込むことに全力を挙げるべきなのだ。それこそが真のリーダーシップというものである。

元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3
 安倍首相の周りにはろくな者がいない。暴言、虚偽発言、浮気、不倫など、日常茶飯である。その連中になぜそんなことをするのかと問えば、きっとこう答えるに違いない。「上がアホだから」。左右どちらを見ても馬鹿と阿呆の 絡み合いばかりと歌ったのは鶴田浩二。ほんにお天道様に顔向けできない、いや~な世の中でございます。

第1位 「飲酒規制が始まった!」(『週刊ポスト』4/28号)
第2位 「『遺言手記』余命を諦めた『木嶋佳苗』の東京拘置所から愛をこめて」(『週刊新潮』4/20号)
第3位 「“総理の懐刀”が『番記者いじめて辞めさせた』事件」(『週刊ポスト』4/28号)

 第3位。今井尚哉(たかや)という首相秘書官は、よほど評判の悪い人間のようである。『ポスト』によれば、今井の番記者がいるそうで、毎晩、今井の家の前には番記者が10人以上も集まるという。
 機嫌がいいと話すが、へそを曲げると何もしゃべらない。その今井が朝日新聞の番記者S記者をとことん嫌ってしまったという。
 S記者は15年9月に可決された安保法案を取材しており、可決後、安倍首相が祖父岸信介と父安倍晋太郎の墓参りをした際、安倍に「安保法案の成立を報告したのですか?」と声をかけたのだ。
 それを、今井は「無礼極まりない」と怒っていたという。そこへS記者が番記者として現れたから、Sを無視し続けたそうである。
 Sはそれでも腐らずに夜回りを続けていたというが、今年1月、某新聞記者とテレビ局の記者に呼び出された。
 そして、君がいると今井さんが対応してくれない。もう来ないでくれ。その代わり、今井氏とのやり取りはメモで回すからと言われたというのだ。
 こんな記者がいるから、この程度の人間にいいようにあしらわれてしまうのだ。
 それを聞いたS記者は意気消沈して夜回りをしなくなり、朝日の上司もこれを知って、4月に別の記者と交代させてしまったという。
 記者もだらしないが、朝日もだらしがない。だから権力のポチと言われてしまうのだ。
 記者の質問に答える、説明責任を果たすのは役人や政治家どものやるべきことである。もしそうしないのがいたら、記者たちがそれぞれの紙面で告発し、世間に知らせるべきである。
 それでも何もしないのなら、野党に国会で質問させる。とことん追及するべきなのに、何をやっているのだ、お前たちは!
 安倍がヘラヘラしてられるのは、こういう腑抜けた記者たちのおかげである。

 第2位。さて、木嶋佳苗(かなえ)(42)という女性を覚えておいでだろうか。婚活サイトで知り合った男性3人を練炭自殺と見せかけて殺害したと殺人罪に問われ、4月14日に最高裁で上告が棄却され、死刑が確定した。
 その彼女が、『新潮』に「東京拘置所から愛をこめて」という手記を寄せている。彼女は獄中でも結婚、離婚、再婚をし、房内をパステルカラーのバスタオルで覆い、ベターッと開脚や、筋膜リリース、タバタ式などのストレッチを欠かさず、好きなブラジャーや下着を着けながら、優雅に暮らしていると書いている。
 食欲は旺盛で、いろいろなサンドイッチを作って楽しんでいる。性欲は「考えないわけではないけれど性欲で息苦しくなることはない」(木嶋)そうだ。
 彼女は自分が犯した罪については触れていないが、自分は無実だと主張しているようだ。だが彼女は、死刑確定後に法相に対して早期執行の請願をするというのである。
 その背景には母親との激しい葛藤があるようだ。母親は自叙伝などを執筆することをやめなければ一切の支援を打ち切る、弟妹や甥姪との交流も禁じると宣告し、彼女がそれを拒否すると、敢然と実行したという。
 拘置所内の生活は外部の支援なしでは立ちいかない。木嶋は母親のやったことを「悪意の遺棄」と書いている。それに父親が母親によって「心を蝕まれた結果、還暦で自死を選」んだことなどにも触れているが、複雑な家庭や母子の間の愛憎があるようだ。
 木嶋の学歴は知らないが、文章はうまい。拘置所内で多くの本を読んでいるそうだが、もともと書くことが好きで文才もあったのだろう。以前、ジャーナリストの青木理(おさむ)を好きだと言っていたが、そのことはここには書いていない。
 不謹慎かもしれないが、編集者としては、彼女の文才を駆使して、犯罪を犯す人間の心理や行動について書いてもらいたいと思う。

 第1位。今週の1位は『ポスト』の「飲酒規制が始まった」という特集にあげたい。まさに現代の「禁酒法」を厚労省が作ろうしているというのである。とんでもない!
 タバコについては、飲食店や公共の場所での喫煙を全面禁止する受動喫煙防止法案を3月にまとめていて、今国会で成立を目指している。
 4月1日、厚労省内に「アルコール健康障害対策推進室」を新設したそうだ。
 日本は酒の規制が少ない国なのだそうだ。そういえば、桜が咲けば酒、名月だと言っては酒、めでたいと言っては酒。言われてみりゃそうだがね。
 WHO(世界保健機関)では10年に「アルコールの有害な使用を減らすための世界戦略」を採択し、各国が取り組むべき酒害対策として、酒の安売り禁止、飲食店での飲み放題禁止、酒類の広告規制などをあげて、酒の値段の引き上げ、公共の場所での販売規制などが推奨されているというのだ。
 すでに欧米をはじめ、シンガポールやインド、タイなどにも規制の動きが広がっていて、日本でも13年に「アルコール健康障害対策基本法」がまとめられている。
 これは主として依存症対策だが、昨年5月に改正酒税法を成立させ、ディスカウント店に対して、過剰な酒の安売りの規制に乗り出しているというのである。へぇ~、ちっとも知らなかった。
 『ポスト』によると、テレビCMで、うまそうにゴクゴク飲みほすシーンは、アルコール依存症の人に苦痛を与えるとして、内閣府のアルコール健康障害対策関係者会議ワーキンググループの指摘で、業界がその指導に従い、ゴクゴクの効果音は使用しない、のど元のアップはしないという自主規制をしているそうだ。
 また、日本人の飲酒率は男が83.1%、女性が60.9%で約7472万人。このうち健康被害が予想される問題飲酒の人間が1353万人もいて、飲み過ぎによるけがや病気の治療にかかる医療費は年間1兆226億円と推計されている。飲酒による事故や労働損失を考えると、社会的損失は年間推定3兆947億円で、医療費との合計は年間4兆1483億円にもなる。
 アルコール飲料の国内市場は約3兆6000億円だから、飲酒は経済効果より損失のほうが大きいそうである。
 厚労省の官僚が、世界のほとんどの国では、公園やビーチなどの公共の場所での飲酒は禁止が常識だから、東京五輪に向けてアルコール規制の議論を本格化させ、自動販売機の全面禁止、屋外や公共施設での飲酒の規制、店での飲み放題の禁止などをしていくというのだ。
 フランスは飲酒大国だったのに、現在は半分以下に減ったという。カナダでは、野球場でも酒の販売と飲酒が禁止になったところが出ている。まるでこれでは、1920年から33年まで敷かれたアメリカの禁酒法のようではないか。
 プロテスタントの間での禁酒運動の高まりと、巨大資本への不満を持つ国民の社会改革運動が結びついて制定されたというが、これによって密造酒がつくられ、アル・カポネなどのマフィアの資金源になった。映画『アンタッチャブル』の世界だね。
 禁酒法でわかったのは、どんなことをしても飲みたい奴は飲むということ。それを金儲けにしようという人間が必ず出てくるということである。
 今回の場合は、国や厚労省が、医療費削減の大義名分でもって、酒への税金を大幅に上げて税収を増やそうとする魂胆が見え見えだ。
 この国は「酒なくてなんの己が桜かな」である。それに日本酒という世界に誇れる銘酒を作り出した国である。お上が禁酒令など出したら、暴動がおこるぜ。悪いことは言わねぇ、よしといたほうがいい。
 これを書き終わったら、谷中墓地の近くにある居酒屋へ、一杯飲みに行くとしようか。
   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   



 歴史の楽しみ方は人それぞれだが、教科書を読むお勉強だけではつまらないだろう。武将ゆかりの地を訪れたり、貴重な刀剣を見たりする(ゲームの影響で昨今の流行りとか)ことで、紙の上だけの存在ではない、実際に生を営んだ人間たちの歴史が実感できるはずだ。

 ではたとえば、「食」というアプローチから歴史を知るのはどうか。室町時代、周防(山口)の大名・大内義興(おおうち・よしおき)が時の将軍・足利義稙(あしかが・よしたね)を大いにもてなした記録が残っている。ここから、山口商工会議所・山口名物料理創出推進会議が開発、地元の湯田温泉などに提供した料理が「平成大内御膳」だ。2010年のことである。全国各地にはこのような歴史的な食がまだまだあるはずだ。そのネットワークを作るべく、同商工会議所が提唱したのが「歴食」なる言葉の始まりとされている。

 公式サイト「歴食JAPAN」によれば、歴食は「歴史的なストーリーを有した、価値ある食」と定義される。文献などをもとに当時の味を再現したもの、またインスパイアされたメニュー(鹿児島・琴鳴堂の「縄文どんぐりクッキー」など)を食する。2016年に山口市、2017年に島根県益田市で「歴食JAPANサミット」も開催された。
   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   



 警察によるGPS(全地球測位システム)捜査は、重大なプライバシーの侵害にあたるのか。

 3月15日、最高裁大法廷(裁判長・寺田逸郎長官)は、「裁判所の捜査令状を取らずにGPSを使った警察の捜査は違法である」とする判決を下した。

 最高裁判決が下されたのは窃盗事件の上告審だが、争点は警察の捜査手法で、GPS捜査が重大なプライバシーの侵害にあたるかどうかが問われる裁判となった。

 警察は令状を取らずに、関西を中心に窃盗を繰り返していた男と共犯者の車やバイクにGPS端末を取り付けて位置情報を継続的に確認。捜査員はGPSのバッテリー交換のために、無断で私有地に立ち入るなどの行為を行なっていたのだ。窃盗は犯罪ではある。だが、捜査だからといって警察なら何をしてもいいわけではない。法治国家であるならば、人権を無視した捜査は許されないはずだ。

 そのため、一審の大阪地裁は、この捜査手法が「プライバシーを大きく侵害する強制捜査にあたる」と判断し、GPSによる証拠を排除して残りの証拠で被告を実刑とした。だが、二審の大阪高裁判決では有罪を維持しながら、「GPS捜査に重大な違法性はない」として一審判決を覆す内容となり、被告が上告していた。

 2月22日、原告・被告双方の主張を聞く弁論で、GPS捜査について検察側は「令状のいらない任意捜査の範囲内」「令状不要の張り込みや尾行を超えるプライバシーの侵害はない」と主張。一方、弁護側は「令状がなければできない強制捜査。GPSによる行動監視は重大なプライバシーの侵害にあたる」として、権力による行動の監視を牽制していた。

 だが、犯罪容疑に関する権利は、憲法第三十五条で次のように決められている。

憲法第三十五条 何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第三十三条の場合を除いては、正当な理由に基づいて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。
2 捜索又は押収は、権限を有する司法官憲が発する各別の令状により、これを行ふ。

 今回の最高裁判決では、憲法で定めた犯罪容疑に関する権利に「私的領域に侵入されない権利も含まれる」として、GPS捜査も権利保護の対象になるという見解を示した。

 人工衛星からの電波で現在位置を測るGPSを用いると、「いつどこにいたか」という行動のすべてを把握できるので、犯罪容疑とは直接関係のない情報まで警察が収集し蓄積することも可能になる。人には知られたくない情報を警察が握ることで、個人が不利な立場に追い込まれることも予想される。

 最高裁大法廷は裁判官15人の全員一致で「GPS捜査は、プライバシーを侵害し、令状が必要な強制捜査にあたる」と認定。現在の刑事訴訟法の枠組みでGPS捜査を行なうのは、手続きの公平さが担保する仕組みがないとして、新たな立法措置が必要という見解を示したのだ。

 今回の最高裁判決を受けて、警察庁はGPS捜査を控えるように全国の警察に通達。今後、法務省で特別法の制定などが検討される予定で、立法化されるまでは「ごく限られたきわめて重大な犯罪」に限って、現行の令状で捜査が認められることになりそうだ。

 これまでGPS捜査は、令状のいらない任意捜査と位置づけられ、当たり前に使われてきた。だが、今回のGPS捜査に関する最高裁判決によって、警察には法律の根拠なく行なってきた情報収集活動を見直すことが求められる。

 4月6日に、衆議院本会議で審議入りした組織的犯罪処罰法の改正案には、犯罪を計画段階で処罰できる「共謀罪」が盛り込まれているが、警察の情報収集活動に対して懸念を示す声が大きい。

 今回の最高裁判決が、共謀罪をめぐる警察の情報収集活動にも歯止めとなるのか。審議の行方を注視したい。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   



 糖質制限が基本的なダイエットのキーワードになってしまった昨今(再三このコーナーで触れているが、炭水化物をまったく摂らないことには栄養学的に異論も多いので注意されたし)、おからやこんにゃくで製造した麺など、代替となる食品が注目されている。この流れでブレイクのきざしが語られているのが、「クラウドブレッド」である。

 小麦系の食品を食べない「グルテンフリー」派の欧米人のあいだで、クラウドブレッドはすでに確固たる地位を築いている。基本的にタマゴとクリームチーズ、ベーキングパウダーだけで作るパンで、小麦粉をまったく使わない。発酵の段階を踏まず、比較的気軽に作れるというところもポイントが高いだろう。「クラウド(雲)」という名称は、そのふわふわとした生地の状態から来ている。

 日本ではサンドイッチやパンケーキのイメージで食べられることが多い。こうしたレシピが写真映えするので、SNS上ではそれなりに拡散しているが、一般的な浸透度はまだこれからといった状況のようである。
   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   



 教育予算の財源をめぐり、自民党内で浮上しているのが、「こども保険」である。

 「こども保険」は、小泉進次郎衆院議員ら若手議員でつくる「2020年以降の経済財政構想小委員会」が2017年3月に創設を提言した。

 そのポイントは、年金保険料に上乗せする形をとり、働く現役世代から幅広く徴収することだ。保険料収入は、保育や幼児の教育の無償化や児童手当の加算、保育所整備など、教育・子育て支援策の財源となる。

 当面、厚生年金の場合は0.2%(勤労者と企業が折半)、国民年金では月額160円程度を徴収する。総額で年3400億円の保険料収入となる。また将来的には厚生年金の場合、0.5%まで引き上げるなど総額で1兆7000億円の財源を見込む。

 提言の背景にあるのは、「子育て、教育は企業を含めた社会全体で責任をもって行なうべきだ」という考え方だ。

 しかし、疑問なのはその原資がなぜ「年金保険料」なのか、ということだ。また、「独身者やこどものいない世帯からも徴収するのは、不公平ではないか」との指摘もある。保険制度はリスクへの備えだが、そもそも、「こどもを持つ」ことがリスクなのかという疑問も出ている。

 「公的保険で子育て支援」というのは聞こえがいいが、実質的にこれは増税ではないか。取りやすいところから徴収しようという魂胆が透けて見える。

 自民党内からは教育費を国債発行でまかなう「教育国債」の創設を求める案も浮上している。実質的に赤字国債でツケを将来の世代に回すものだ。こちらに対しても批判が少なくない。

 少子化に歯止めをかけるためには子育て支援の充実が欠かせない。そのために必要な財源は確保しなければならない。自民党内に浮上した「こども保険」や「教育国債」は、そのための方策だが、実施に向けたハードルは高い。とくに「こども保険」を導入するとなると、現役世代にとっては医療、介護、年金、雇用、労災に加えて6つ目の社会保険料となる。負担感は重い。
   

   

マンデー政経塾 / 板津久作   



 読んで字のごとく「黒板とチョークを使ったアート」のこと。オーストラリア・イギリス・カナダほか、おもに欧米諸国の飲食店の看板などでよく見られる鮮やかなイラストやレタリングは、多くがこの手法によって描かれている。画材があまり要らないので女子たちを中心にじわじわ注目を集めている。

 “キャンバス”となるのは、おもに「板」で、それに特殊なインクを塗って、黒板調に仕立て上げるらしい。

 「チョーク」とは言っても、学校にあるチョークみたいに2~3色しかないソレとは違い、色数は100色近くにもおよぶ絵画専用の本格的なもの。通常のチョークと比べ、油分が少々多めに含まれており、パステルよりもしっとりとした質感を表現でき、クレヨンよりも混色がしやすくグラデーションも付けやすい──といった特性がある。

 女優・モデルとしても活躍するチョークアーティスト・Moeco chalk artさんは、以下のような「お手軽さ」から、イラストを始めてみたい“初心者”にもチョークアートをすすめている。

・用意するものはチョークと板と特殊インクだけ
・小さい板に描くなら机の上でも大丈夫
・絵の具のように乾き待ちをする必要がない
・油絵やマーカーのように匂いが部屋につかない

 一応「イラストレーター」の肩書きをも持つ筆者も一度は試してみたい、正直まだ聞き慣れない画材の一つであるけれど。
   

   

ゴメスの日曜俗語館 / 山田ゴメス   


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