奥野高広 著
戦国群雄中最も深謀に富んだ名将。失政の父を廃して自立し、信濃を経略して、しばしば謙信と角逐し、北条・今川の両氏を畏縮せしめた。更に信長と雌雄を決すべく大挙上洛の途上、家康を三方ヶ原に破った直後に陣歿した。本書はこの豪雄活気に満ちた生涯に合わせて、特にその戦力基盤、すなわちその領国制をも解明した労作。
[戦国][武将・将軍]
山口宗之 著
親藩福井の出身でありながら志士として活躍し、安政の大獄に殉じた橋本左内については、従来は皇国史観にわざわいされ、近くは社会経済史学の成果による性急な反映による論考が多かった。著者はこれを踏まえ、かつ学界未見の新史料を駆使して、安政史の盲点と誤謬を指摘しつつ、開明的志士左内の行動と思想とを解明された。
[江戸][武人・軍人]
松下芳男 著
東郷平八郎とともに、軍国日本の象徴であった乃木希典は、戦後はすっかりその評価が変った。しかし軍国日本の再検討と、軍人精神の典型を知るには、この乃木は正によき標本である。それは懐古というより明治を形成した思潮であり、将来への警世として一顧を与えるべきである。戦後初めて試みられた人間乃木の赤裸々な記録。
[明治][武人・軍人]
上田正昭 著
日本武尊について、ある人は「英雄時代」の英雄とみ、また他の人は古典に作り出された作為の人間であるという。著者は『記・紀』に描かれた尊の行動を史料を総合して丹念に掘り下げ、伝承成立の過程を新しく分析する。尊の悲劇性とその土くさい香りをめぐる謎を、一皮一皮はがして、日本古代国家の実相解明に肉迫する力作。
[飛鳥][天皇・皇族]
城福勇 著
非常の才を抱き、非常の事を行ない、非常の死を遂げた無類の奇人。広く物産学を修め特に技術に長じ、多くの発明殊にエレキテルでは最も世人を驚かした。非凡な小説や戯作なども書く通人であったが、その才能は世に容れられず、晩年弟子の一人をあやめて投獄され、自ら絶食して世を去った。この破格な生涯を巧みに描いた最も興味深い伝記。
[江戸][文化人|学者]
中村尚美 著
藩閥という背景をもたなかった大隈は、維新政府に入っては財政家としてわが国近代財政の確立につとめたが、やがて十四年政変を転機として、藩閥に対抗し、「政治はわが生命」と喝破しつつ、政党をつくり、学校を建て、ひたすら近代日本の発展に捧げつくした民衆政治家であった。本書は未刊の『大隈文書』を基礎にした大隈伝。
[明治|大正][政治家]
高柳光寿 著
謀叛人といえばまず光秀が挙げられる。ところがその光秀に関する伝記は従来全くなかった。本書は彼の出自から死に至るまでを一貫して始めて書かれた伝記である。高い教養と理性に恵まれながら、彼はなぜ主君弑逆の挙を敢えてしたのか。著者は道徳史観を排し、戦国武将の心裡を解剖して始めてこの謎を解く。
[安土桃山][武将・将軍]
小林計一郎 著
瓢々奇特の俳人一茶についての著書は、その多くが文学研究者の手になるもので、一茶の生活面にまで及ぶことがなく、その伝記には誤り伝えられている部分が少くなかった。本書は一茶の故郷信州柏原村の近世史料を初め、従来知られていない史料を多数利用し、新しい立場、とくに経済史的面をも追求した、正しい一茶伝である。
[江戸][文化人]
住谷悦治 著
マルクス主義社会科学者である一方、貴い“体験”にひらめく宗教的真理を確信し、非転向を貫徹した求道の戦士。本書は、博士の人物・生涯・思想を、多くの学問的著書・論文・『自叙伝』などをたどって、必然の姿において捉え、その精神構造を分析し、東洋的マルクス主義者としての博士の特質・面目を躍如たらしめた力編。
[明治|大正|昭和][学者|思想家]
平野邦雄 著
道鏡を転落せしめた宇佐神託の一件から、かつて忠臣といわれ、または藤原氏の走狗ともいわれる。しかし最近の卓絶した歴史観では、果して清麻呂を如何に評価するか。本書は、備前の土豪から身を起し、宮廷政治の優れたオルガナイザーとして新時代の開拓者となった清麻呂の風貌と生涯とを、綿密な史料調査によって跡付けられた。
[奈良|平安][政治家|官人]
阿部喜三男 著
多くの資料と紛々たる論説、または多彩な俗説を整理し、最近特に進歩した芭蕉研究の成果をふまえて、従来にない正確さで、新しくまとめられた伝記。作品・作風の展開を述べ、その風雅、文芸の境地を解説するだけでなく、その生涯のあらゆる部面にわたって綿密な検討を遂げ、さらに死後の一章をも叙した芭蕉翁の全貌である。
[江戸][文化人]
杉谷昭 著
明治維新の潮流に乗りそこねたものは多い。西郷とともに、江藤もまた時早く命を絶たれた。功臣が一転して逆賊となる時勢の激しさに、江藤も押流されたのである。その波瀾多き生涯は幕末維新史のめまぐるしさに似ているが、本書はよく新史料を消化し、政治法制史的な視点から佐賀藩及び江藤個人を分析し追及した力作である。
[江戸|明治][政治家|武人・軍人]
安田元久 著
鎌倉政権確立期の執権北条義時に対しては、従来史家の批判は厳しかった。しかし義時は果して悪逆者か? 源氏の正統を根絶し、承久の乱には三上皇を遠島に流したことは事実だが、当時の人心に映じた義時の姿はどうか。新しい時代の、透徹した史眼によってのみなし得る義時評とその生涯、繰りひろげる絵巻の如き歴史の妙味を綴る。
[鎌倉][武将・将軍]
石原道博 著
本名は鄭成功だが国姓爺として有名。貿易のため来日した明人鄭芝竜の子で母は日本人。帰国して抗清復明に活躍、国姓「朱」を賜わり、しばしば日本に救援を乞うたが容れられなかった。一度は南京を陥落しようとして果さず、退いて台湾に拠り、大陸反攻を夢みつつ同地に歿した民族運動の英雄。本書はその生涯を描いた興味ある伝記。
[江戸][武将・将軍]
吉田久一 著
清沢満之は近代信仰の第一の樹立者であり、また日本哲学の基礎を築いた傑人でもある。本書は、日本近代思想史研究の立場から、彼の生涯をたどり、従来真宗教団内に孤立しがちだった満之を、本来あるべき位置に正しくすえただけでなく、宗教信仰や哲学的思索の難問を、実地踏査と適正な史料操作によって見事に解決している。
[明治][宗教者|思想家]
林陸朗 著
華麗な天平文化の頂点に立つ“美貌の皇后”彼女はまた凄惨極りない政争の嵐の中にそびえ立つ存在でもあった。彼女は生来の叡智と仏への深い帰依によって数々の事業をなし遂げるが、公私にわたり人間としての悲喜にも遭遇する。この天平宮廷に生きた一女性を、政治・社会・文化の各方面からダイナミックに描き出したものである。
[奈良][天皇・皇族|女性]
進士慶幹 著
講談・浪曲で知られる正雪と、実際とは、どこがどう違うのであろうか。正雪が計画したところは、勤皇運動の先駆か、キリシタンの一揆か、また幕政に対する批判か、生活難にあえぐ浪人の救済か。由比正雪・丸橋忠弥らの慶安事件の全貌は、本書に示された時代背景の鮮やかな浮彫りとともに、はじめて克明に描き出されている。
[江戸][学者]
近盛晴嘉 著
ヒコは漂流して渡米、日本人として禁教後最初にキリスト教の洗礼を受け、また帰化第一号の米国市民権を得る。ハリスに伴われて開国日本に帰り、わが国最初の新聞『海外新聞』を発行し、幕末明治の文化の恩人となった。著者はヒコ研究に三十年、この“新聞の父”の生涯と功績とを克明に記し、また『ヒコ自伝』を正確にした。
[江戸|明治][その他]
佐藤昌介 著
渡辺崋山は幕末のすぐれた文人画家であるだけではなく、三河・田原藩家老として藩政を担当し、また蘭学を通じてアヘン戦争前夜の対外的危機状況を的確にとらえ、幕府の鎖国政策を批判して、蛮社の獄の悲劇を招いた。本書は、戦後発掘された新史料を駆使して、崋山の人となりや藩政との関係、蛮社の獄の真相等を究明、従来の崋山像を更新した労作。
[江戸][学者|文化人]
仲田正之 著
代官として有能な江川坦庵(太郎左衛門)は、蘭学者・外交官・芸術家・軍学者・教育者にして剣客でもある。幕末の生んだ多芸多能の先覚者といえよう。その幅広い交際から、渡辺崋山・高島秋帆らの力を幕政に反映せしめんとして果せず、晩年は、ペリー来航より登用され、二年余の奔走のすえに没した。著名な人物だが本格的研究がなかった坦庵像に初めて迫る。
[江戸][武人・軍人|文化人|外交官|学者|教育家]