芳即正 著
薩摩藩天保財政改革の立役者調所広郷の初めての正式伝記。隠居島津重豪側近説や文政10年改革主任任命説等々を否定、幾多の新見解を盛る。身を挺して巨額の藩債を整理し健全財政を確立、迫り来る英仏両国の開国要求に対処する等、多彩な調所改革の全容を網羅。幕末維新史上の薩藩活躍のなぞを解明した労作。維新史に関心を有する人すべての必読書。
[江戸][武人・軍人]
山中裕 著
和泉式部の生涯については文献が少ない。『和泉式部集』『和泉式部日記』が唯一の伝記を探る史料である。本書は『歌集』『日記』を主としながらも、残された文献を可能なかぎり集め、伝記と伝説を峻厳と区別する。摂関政治全盛期に生きた苦難のその姿を、娘小式部をはじめ、紫式部、赤染衛門などとの関係を絡ませ詳述、王朝時代女流作家の生活の意義を説く。
[平安][文化人|女性]
谷口澄夫 著
明敏な素質とひたむきな学問に裏付された理想をもって岡山藩の基礎をきずいた池田光政は、世に名君と称せられる。その逸話や俗説を巧みにおりまぜながらも、多年にわたり岡山藩の藩政史研究に研鑽を積む著者が、自筆日記などの新史料を駆使して、藩政全般から、光政の業績とその典型的人間像とを、史上に正しく位置づけた名君伝。
[江戸][大名]
坂田精一 著
安政条約の調印と、唐人お吉にまつわる伝説で有名なハリスは、日本総領事として、当時最大の国際的難事業といわれた日本の通商開国を成し遂げたが、その間、孤独と病苦に闘いながら、攘夷の白刃にも屈せず、よくその初志を貫徹した。本書は透徹した俗説批判と厳正な彼我史料の校合により、彼の全生涯を初めて明らかにした。
[江戸][外交官]
村尾次郎 著
天皇の伝記は、ともすれば平板な政治史に流れやすい。本書はこれを克服することに力を注ぎ、関係史跡の実地踏査や、史料の新解釈に加えて、多くの通説を打破しつつ、公私にわたる桓武天皇一代の事蹟を叙述した。なかでも陰謀や悲劇、または戦乱を通じて、人間天皇がたどる精神的苦悩は、読者の胸を深くえぐるものがあろう。
[奈良|平安][天皇・皇族]
三枝康高 著
契沖以来の国学の大成をめざし、『万葉集』の研究に心血をそそいだ賀茂真淵は、世に“国学四大人”の一人にかぞえられる。真淵は国学に指導的役割を果し、古典研究の立場と方法を発見して、古道と詠歌とを緊密に結びつけた功績は大きい。とかく無味乾燥になり易い国学者の伝記を、本書は真に血の通った人間として再現した。
[江戸][学者|文化人]
伊佐秀雄 著
明治・大正・昭和の三代にわたり、常に自由主義者として閥族的専制政治に反対しつづけた政治家。1890年以来、連続して衆議院に当選、東京市長・文相などを歴任、人称して“憲政の神様”という。著者は尾崎の後半生に親しくその謦咳に接しながら、その恩顧に溺れることなく、よくその性格と政界に苦闘する過程をたどる。
[明治|大正|昭和][政治家]
芳賀幸四郎 著
戦国動乱の渦中にありながら刻明につづられたその日記『実隆公記』をはじめ、数々の史料を駆使していわゆる雲上人の生活を丹念に描く。近世の曙を告げる戦乱の世に、室町の幕府も、公家の社会も、斜陽の命運に追われ、その窮迫した生活は想像も及ばないものがあった。夫人の機嫌を伺いつつしかも世間体を繕ろう赤裸の人間像。
[室町|戦国][官人|学者|文化人]
原敬吾 著
宗派神道のさきがけをなす黒住教の教祖。平凡に生まれながら、天照大神の天命を受けて自らの病をいやし、やがて周囲の人々に及ぼしてその教えをひろめる。著者はキリスト教における奇蹟と対比しつつ、黒住教における数々の霊能を述べるとともに宗忠その人の人格完成のあとを追求した。特異な宗派神道―黒住教教祖の実伝。
[江戸][宗教者]
楫西光速 著
機大工の子として生まれた豊田佐吉は、早くからすでに国家社会に貢献しようという大望をいだき、機械の理論も知らず、外国品の模倣でもなく、専ら自らの頭脳を生かして、ついに世界的な自動織機を発明大成した。本書は彼の発明の過程を克明に描き、日本織物業における豊田織機の果した役割と、豊田コンツェルンの由来を詳述。
[明治|大正][実業家]
井上薫 著
池溝開発・布施屋設置などの社会事業に尽した行基がなぜ官から弾圧されたのか。藤原広嗣の乱や都うつりの動揺期に大仏が造られたのはなぜか。先に弾圧された彼が、再び官の起用を受け大仏造営に献身したのはなぜか。本書は奈良時代の政治史と行基の伝記との謎を解き、また大野寺の土塔の原形を明らかにし諸問題を解明した。
[飛鳥|奈良][宗教者]
大平喜間多 著
識見高邁なる幕末の開国論者。始め儒学を、ついで西洋砲術を修めて名声高く、海舟や松陰など維新の英才を、その門下に輩出。米艦再度の渡来によって国論沸騰のさい率先開国を唱え、松陰の密航事件に連座して下獄。のち幕府の招命を受けて騒然たる京都に上り、時勢に奔走中、刺客の兇刃に斃れた、偉丈夫の生涯を克明に描く。
[江戸][思想家|武人・軍人|学者]
小長久子 著
わが国近代音楽史上、最初の作曲家。伝統音楽に西洋音楽をとり入れ、「荒城の月」「箱根八里」「花」など、数多い歌曲・童謡の名曲に不朽の名残す。人生は短く芸術は長いすぐれた天分をもちながらも、ドイツ留学中、病に倒れ、帰国療養ののち二十四歳で早世した、短命なその生涯。いくたの新資料にもとづいて、天才芸術家を鮮やかに描く。
[明治][文化人]
高橋富雄 著
僻遠の地奥州に隠然たる藤原政権を建設し、燦然たる平泉文化を築き上げた“北方の王者”たち──清衡・基衡・秀衡・泰衡の父祖四代にわたる伝記。東北開拓の歴史、藤原氏の素性、平泉文化の種々相、京都および頼朝政権との折衝から、その悲劇的滅亡に至るまでの歴史を、四代の伝記に巧みに織り込み、古代東北史を解明する。
[平安|鎌倉][武将・将軍]
麻生磯次 著
化政文化を代表する戯作者。原稿料で生計を立てた日本最初の作家ともいえよう。山東京伝に入門し、八十二歳で没するまでの血の滲むような著述生活は、家庭の労多く悪戦苦闘の連続であった。本書は、そのおびただしい著作や、失明をおして完成した晩年の大作『南総里見八犬伝』に至る悲壮な生涯を、近世国文研究の権威が詳述した、正確な実伝である。
[江戸][文化人]
田畑忍 著
“大津事件”に際し驚愕なすところを知らない政府の、ロシア帝国への恐怖症的な圧迫に対して、大審院長として毅然これを一蹴し、司法権独立の憲法原則を実践した明治法曹界巨人の伝。本書は彼の剛骨の性格と、その民権的法思想の両面から考察を進めるとともに諸家の惟謙観・裁判観を検討しその生涯を鮮やかに浮彫りにした。
[明治][官吏・官僚]
平林盛得 著
平安中期に活躍した第十八代天台座主。奈良期に行基が任じられて以来の大僧正に昇進、『往生要集』の源信や覚超ら高僧を育成、叡山の中興事業を完成しながら、僧兵の創始や権門の子弟を優遇し、山上を世俗化した張本人ともいわれる。その光と影の生涯を解明し、現代にいたる広汎な元三大師信仰に説きおよぶ。正確な史実によるはじめての伝記。
[平安][宗教者]
横山昭男 著
財政改革・産業開発・倹約奨励・文教刷新等、藩政改革にすぐれた業績あげた米沢藩主上杉鷹山は、江戸時代における名君の一人としてその名を謳われる模範的封建領主である。本書は、戦後目ざましい発展をとげた藩政史研究の成果をふまえ、多年にわたる基礎史料の精査をもとに、この典型的名君の人と生涯に新たな照明をあてた斬新な伝記。
[江戸][大名]
井黒弥太郎 著
埋もれたる明治の礎石。開拓使長官として北海道開拓に尽力し、のち第二代総理となったが、条約改正に失敗して辞任。その後、強列な個性がわざわいして、伊藤博文主導の明治政界で冷遇される。『開拓使簿書』『黒田榎本文書』等に遡り、『明治天皇紀』や巷間の伝説等をも吟味して、従来の伝記では記述しえなかった明治史の盲点を突く、初めての実伝成る。
[明治][政治家|武人・軍人]
冨倉徳次郎 著
虚構の衣をはがした古典作家の伝記は、多くは枯槁な姿をさらすが、“双岡の粋法師”兼好の場合もその例に洩れなかった。しかしながら、国文研究の権威者による本書は、近時新発見の史料によって、その生涯を新しく肉付け、兼好の中世隠者としての意味の究明と、「徒然草」の文芸性の探求という意図に立ち、ありしがままの人間像を見事に描出・活写した。
[鎌倉|南北朝][宗教者|文化人]