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民俗芸能

ジャパンナレッジで閲覧できる『民俗芸能』の国史大辞典・世界大百科事典のサンプルページ

国史大辞典
民俗芸能
みんぞくげいのう
地域社会の中で、住民の信仰や風俗・習慣と結び付きながら伝承してきた郷土色ゆたかな芸能。郷土芸能・民間芸能などともいう。祭や宴遊・講などを主な伝承の場とし、特に農耕の祭に呪術的機能を買われて演じられ、また芸能をもって成人教育とするなど人生通過儀礼にかかわるものも多い。種類には神楽系・田楽系・風流(ふりゅう)系・舞楽系・延年(えんねん)系・舞台芸能系・言い立て芸系・人形芸系などさまざまある。

(一)

神楽は、神座(かみくら)に迎えた神霊を人の体に付与して生命の更新をはかる鎮魂の呪術に発した歌舞で、巫者が榊・幣などの採り物を手に、神招(お)ぎ・神がかり・託宣・攘災などのわざを示すのが骨子である。中世以降、陰陽道・修験道・伊勢神道・吉田神道などの教義・作法などを取り込んだ各種の神楽が派生した。この系統には、現在、採り物舞中心の巫女神楽、採り物舞に記紀神話から取材した仮面芸能などを伴う出雲流神楽、採り物舞に湯立神事と仮面舞などを伴う伊勢流湯立神楽、獅子舞に各種の能・舞を付随させた山伏神楽、獅子舞に寸劇・曲芸を加えた大神楽などがある。

(二)

田楽系は稲作儀礼から生まれた芸能の系統で、新春、稲つくりの模擬をして当年の豊穣を予祝する田遊びや田植踊、また田植えの際、歌をうたい囃子を奏して田の神を饗応する囃田・田植祭など、またそれらの芸能化したもので、平安時代以来田楽法師の手で曲芸・能などを加えた田楽などがある。

(三)

風流系は、平安時代、装束や作り物などに意匠を凝らした、いわゆる風流を飾り立てた集団が、厄神・怨霊を攘却鎮送する目的で楽をはやしたり踊ったりしたことに始まる芸能の系統で、祇園祭の山・鉾(ほこ)などのような練り物や、念仏を唱えながら踊躍する念仏踊、太鼓・鉦をうちはやす太鼓踊、鷺・鹿・竜などの仮装や傘・花などの道具を誇示する風流踊、歌をつぎつぎにうたいながら踊る小歌踊など多彩な種目を派生している。

(四)

舞楽系は、古代、大陸から伝来した楽舞が宮廷雅楽化し、それがさらに地方化したもの。

(五)

延年系は寺院法会の余興の芸能で、舞楽・田楽などの芸脈も取り込んでいる。

(六)

舞台芸能系は、能・狂言・歌舞伎など、一度中央で舞台芸術化したものが地方へ伝播し、地域住民の手で郷土色を濃くしたもの。

(七)

言い立て芸系は、祝言や語り物・口上などの話芸で、新春、各戸をめぐって祝言を述べる万歳や春駒など、あるいは大道でうたい踊りする飴屋芸、また曾我・源平の物語を語りながら舞う幸若(こうわか)舞などがある。

(八)

人形芸系は、桑の木の御神体を手に物語をする東北のおしら遊びなどを古い形と見るが、また九州には細男(せいのお)とよぶ、朝鮮半島の人形と共通する神人形があり、徳島県にはえびす神の人形をもって村々を祝って歩く、中世のえびすかつぎをしのばせるものも残っている。祭の山車(だし)でからくり人形を見せる風も各地にあり、人形芝居も、糸操りや一人遣いのものから文楽系の三人遣いのものまで多彩に分布している。
→郷土舞踊(きょうどぶよう)
[参考文献]
本田安次『日本の民俗芸能』、三隅治雄『日本民俗芸能概論』、西角井正大『民俗芸能入門』、日本ナショナル・トラスト編『日本民俗芸能事典』、仲井幸二郎・西角井正大・三隅治雄編『民俗芸能辞典』
(三隅 治雄)


世界大百科事典
民俗芸能
みんぞくげいのう

民族それぞれの社会生活の中で,住民みずからが演者となって伝承してきたきわめて地域性の濃い演劇,舞踊,音楽の類をいう。いずれも,地域の生活・風土と結びついて伝承されるものだけに郷土色が濃く,そのため日本では郷土芸能,郷土芸術などと呼ばれる。この種の芸能は世界のどの民族にも存在するが,欧米のような,墨守よりも創造に情熱をかける国々では,いわゆるフォークダンスのようなものも自由に編作・創作の手が加えられて,昔ながらの伝統を残すものが少なくなっている。これに対して未開地域や発展途上国では,人々が旧習になずみ,また娯楽機関に恵まれないこともあって,土着の芸能が豊富に残されている。

日本の民俗芸能

日本では有史以来,大陸の高度な文化を吸収しつつ,一方では土着の芸能の芸術化を積極的にすすめながら,一方では土地ではぐくんだ芸能を地域の慣行として保存・継承する態度を保持したから,昔のおもかげを残す民俗的な芸能と,その芸能をより芸術的に発展させたものとが並立共存する状況が生まれた。そのため,欧米のように古態を調査するために,いちいちアフリカなどへ出かける要もなく,自国の舞台芸術の発生と成立を,自国の民俗芸能の調査を通して考察できるという便宜を得た。それは,民俗芸能のもつ歴史的意義というべきか。その点に目をつけた研究者たちが1927年〈民俗芸術の会〉を創立して雑誌《民俗芸術》を刊行し,これを契機に民俗芸能を対象とする研究が活発になり,世間のこの種の芸能に対する関心も深まった。さらに52年に〈民俗芸術の会〉の延長とみられる〈民俗芸能の会〉が誕生し,以来民俗芸能の称が郷土芸能などに代わって一般化するようになった。文部省でも,50年以来毎年芸術祭執行委員会主催で行っていた全国郷土芸能大会を,59年から全国民俗芸能大会と改称するようになった。また1954年からは各地伝承の民俗芸能のうち,歴史的な意義をもち,かつ流派的・地域的特色をもつものを国の重要民俗文化財として指定保護する制度が生まれ,近代以降,衰退の傾向にあった民俗芸能も,その伝承が保障されるようになった。

特色と社会的機能

民俗芸能の何よりの特色は,地域の生活とつねに密着して生きてきたことである。民俗と称するのも,それが地域における社会慣習と認識されたためであり,事実,それらの芸能の多くは,土地や人の繁栄,息災を祈願する儀礼として,季節のおりおりに催す地域の祭りに毎年演じるのをならわしとした。すなわち,農耕生活を主体に社会を形成している日本では,年の初めにまず当年の穀物の豊穣を祈願予祝する祭儀を営むが,農村ではこのとき田遊(たあそび),春田打(はるたうち),御田(おんだ),田植踊などと称する芸能を演じる。田の土ならしから稲の収穫にいたる稲作の模様を,歌としぐさ,踊りなどで表現し,このとおりの無事収穫をお願いすると祈るのである。また夏の田植どきになると,女たちが田に降り,田の神を迎えて美しい田植歌を神に聞かせながら稲よ実れと祈る。またこの季節には,天災や疫病の鎮圧を祈って,太鼓や鉦(かね)を打ち鳴らして道中をしたり,激しく踊ったりする。盆には先祖供養と豊作を祈願して月光の下でおおぜいで歌い踊り,秋には無事収穫を祝い,かつ神に収穫の感謝を捧げての歌舞を盛大に演じる。太陽の衰える冬季を迎えると,衰弱した生命の復活再生を祈る鎮魂の神楽(かぐら)を演じる。これらのことを例年繰り返すことで,人の生命も田畑の実りも社会の繁栄も約束されると信じたのである。

こうした信仰的機能が民俗芸能伝承の第1とするなら,第2は各地域社会の成人教育に果たした教育的機能である。すなわち,昔の村落では,子供組,若者組と年齢に応じたグループを組織して身心の鍛練に努めたが,そのとき教科に当てられたのが獅子舞,神楽,太鼓踊などの芸能で,祭りを迎えるまでの一定期間,宿に籠って先輩から厳しい稽古(けいこ)を受ける。その訓練を通じて一人前の人間としての精神と肉体をつくり上げるのであるが,その期間の先輩・後輩の交流を通じて,後輩は村と芸能の歴史を知り,また村落の構成員としての連帯感を強くもつ。

第3には,年間労働に明け暮れる民衆にとって,この祭りの場を中心とした芸能は何よりの芸術創造意欲の発散の場となり,また,それを見る者にとってはこれが大きな娯楽になったのである。いわば創造機能と娯楽機能といえるが,人々は表には信仰心に基づく昔ながらの技芸の反覆を心がけながら,しかしより巧みに演じ,より美しいものに表現したい意欲で芸能に取り組む。だから根幹は昔を変えずとも,感覚的には去年よりは今年の新味を出していくのである。芸能伝承の生気はそのわずかな表現の新しみから生まれるのだが,人々は,昔を変えぬ芸能のほかに,年々にほかから新しい歌舞を学んでこれをその土地なりのものに創り上げていくことも行い,祭りは,地域社会における芸術創造の場になったのである。祭り以外の日常生活では,歌が日々の労働のよき伴侶となった。農耕,漁労,工作等々,いずれもおおぜいの共同作業で行われた昔は,歌が全体を統一し,志気を高め,仕事を促進させた(労作歌)。これは,いわば生産向上の機能で,かつての民族の生活においては,芸能の伝承を通じて人々は日々の生活を心安らかなものとし,かつ技芸の研修を通じて身心の鍛練,知識の充足を果たし,さらに創造意欲を満たしつつ明日に生きる活力を養ったのである。

分類と種類

日本の民俗芸能の種類は多彩である。長年全国を踏査して多くの研究成果をあげた本田安次(1906-2001)は,これを整理して次のような種目分類を行った。

(1)神楽 (a)巫女(みこ)神楽,(b)出雲流神楽,(c)伊勢流神楽,(d)獅子神楽(山伏神楽・番楽(ばんがく),太神楽(だいかぐら)),(2)田楽 (a)予祝の田遊(田植踊),(b)御田植神事(田舞・田楽躍),(3)風流(ふりゆう) (a)念仏踊(踊念仏),(b)盆踊,(c)太鼓踊,(d)羯鼓(かつこ)獅子舞,(e)小歌踊,(f)綾踊,(g)つくりもの風流,(h)仮装風流,(i)練り風流,(4)祝福芸 (a)来訪神,(b)千秋万歳(せんずまんざい),(c)語り物(幸若舞(こうわかまい)・題目立(だいもくたて)),(5)外来脈 (a)伎楽・獅子舞,(b)舞楽,(c)延年,(d)二十五菩薩来迎会,(e)鬼舞・仏舞,(f)散楽(さんがく)(猿楽),(g)能・狂言,(h)人形芝居,(i)歌舞伎(《図録日本の芸能》所収)。

以上,日本の民俗芸能を網羅・通観しての適切な分類だが,ここではこれを基本に踏まえながら,多少の整理を加えつつ歴史的な解説を行ってみる。なお,万歳や太神楽などのように,特定の舞台をもたず,地域の冠婚葬祭にかかわって人家を訪問して演じる芸能も民俗芸能に含める。

(1)神楽芸 カグラは神座(かむくら)の音略で,古代祭祀においては,巫者が神座となる榊などの採物(とりもの)を打ち振りながら神霊を迎えて歌舞したことに始まったものとみられる。記紀の天岩戸神話に示された天鈿女(あめのうずめ)命の俳優(わざおぎ)などがそれにあたり,太陽の衰える冬季,巫者が招き迎えた神霊を天皇の御体にいわい込めて,魂の再生をはかる鎮魂祭にこれが行われ,宮廷ではこれが基で御神楽(みかぐら)が生まれた。民間でもこの鎮魂の神楽は陰陽道,修験道,伊勢神道などの信仰や作法を吸収しながら多彩な展開を示す。各地に多い巫女舞は榊や笹,幣,扇などを採物にしての神招ぎと,神がかりの舞が原型だが,いまはすべて様式化して優美な採物舞になった。中世以降,男巫(おとこみこ)による荒々しい神招ぎと託宣のわざが中国地方や四国地方に残存するが,近世は,出雲の佐太神社などを中心に,記紀神話を能風に演出してみせる仮面舞劇が広く行われるようになり,神招ぎの採物舞はその導き役程度に後退した(佐陀神能)。神楽にはまた湯立(ゆたて)を中心とした湯立神楽がある。祭場の中央で煮立てた湯を神に献じ,神の息吹きのかかったその湯をまわりの人々に浴びせることで魂の再生をはかろうとする。これも鎮魂の意義をもつ神楽で,巫者が採物で神を迎え,のちに仮面の神役が出て鎮魂の所作を行う形が愛知県の花祭や,長野県の遠山祭,冬祭などにみられる(霜月神楽)。また獅子頭(ししがしら)を御神体と仰ぎ,それを捧げて人家を訪ね,悪魔払いの祈禱舞を演じる風が,東北の山伏神楽や番楽,関東・関西の太神楽などにある。前者は昔山伏が演じたもので,獅子舞に添えて物語を仕組んだ舞曲を演じ,後者は伊勢神宮や熱田神宮の御師(おし)が演じたもので,余興に曲芸や寸劇を披露する。この太神楽系の獅子舞は全国に普及した。

(2)田楽芸 稲作儀礼の芸能化したもので,初春に行うものと,田植どきに演じるものとがあった。関東から関西に分布する田遊,御田などは,稲作の過程を歌としぐさと問答で模すものである。東北に分布する田植踊は歌と群舞で表現するもので,前者は中世ごろから寺院の初春行事であるオコナイと習合しながら普及し,後者は農家の小正月行事として近世に広く行われた。田植どきの芸能で著名なのは中国山地付近に残る囃子田(はやしだ)で,おおぜいの早乙女が田の神役のサンバイと,恋歌を掛け合いながら苗を植える。畦には太鼓,笛,ささら(簓)などの囃子方がいて伴奏役を勤めるが,この風俗は古く平安中期の《栄華物語》などにも見えて,当時すでに鑑賞芸能として貴族たちにもてはやされていたようである。この囃子が独立して田楽と呼ばれるものになり,これに踊りをつけた田楽躍と曲芸や能などをレパートリーとして,寺院奉仕の芸能者が法会や祭事の余興に演じて評判をとるにいたった。鎌倉幕府の執権北条高時が田楽に熱中したのは有名な話だが,南北朝時代,猿楽能の人気に押されて衰退し,現在は地方寺社の祭礼などに演じられるのみになった。その余風は,いまも和歌山県の那智大社や岩手県平泉の毛越寺(もうつじ)などにうかがうことができる。

(3)風流芸 風流はもと雅(みや)びやかの意であったが,平安時代には趣向を凝らした庭園や調度,衣装,山車(だし)などの造形美を賞する語となり,そうした造形美を誇示した祭りや芸能を風流の名で呼ぶようになった。その代表は京都八坂神社の祇園御霊会(ぎおんごりようえ)で,夏季に発生する疫病や水害,干ばつなどの災害は,怨み(うらみ)をのんで横死した人々の亡魂のたたりだと考え,それを御霊とあがめて華麗な山車と鉦や太鼓などの強烈な囃子の行列で慰撫鎮送しようとした(御霊会)。晩春には,桜花の散るのを疫神飛散の兆しとみて,華美な扮装の子女が鼓笛を奏して紫野(京都市)の今宮神社へ道中したのも同じ民俗で(今宮祭),平安朝以後,疫神,亡魂鎮送のために風流を飾り立てた一行が囃子を奏し,はなやかな踊りを見せたりする風俗が各地で見られるようになった。念仏踊も,もとは解脱(げだつ)を求める人々が国中に念仏を唱えつつ共に跳躍する形のものだったが,亡魂を慰撫するには念仏が何よりとの考えから,災害除けにこれを踊り,また盆供養にも念仏踊を手向けるようになった。これが盆踊の誕生であるが,のちには念仏に代えて,当世流行の小歌をうたって踊る形も生まれた。念仏にゆかりのものでは,聖衆来迎の信仰を野外劇化した菩薩来迎会や,念仏信仰を黙劇でえがいた京都の壬生(みぶ)大念仏狂言(壬生狂言)などがある。西日本に広く分布する太鼓踊は田楽と念仏踊を習合した勇壮な集団舞踊で,雨乞い,虫送りなどに踊られるが,東日本では鹿頭(ししがしら),竜頭(たつがしら)をいただいた踊り手が3人とか8人など,組をつくってこれを踊る(鹿踊(ししおどり))。いわゆる風流獅子舞である。これらの群舞は室町時代から江戸時代にかけて流行するが,同時期,美しい装いを凝らした男女が小歌につれて踊躍(ようやく)し,また綾竹などを誇示して踊る小歌踊,採物踊の類が流行し,そこから,かぶき踊,槍踊など近世初頭を飾る舞踊が生まれ,これが地方村落にも波及した。

(4)郷土舞台芸 能,狂言,歌舞伎などは,発生的には村落の民俗芸能に根ざしたものであるが,やがて舞台芸術として完成してのち,ふたたび地方村落に迎えられて,その土地なりの芸能になることもあった。山形県の黒川能,岐阜県本巣市の旧根尾村能郷に伝承される能郷能,三重県伊勢市の馬瀬(まぜ)狂言,長野県下伊那郡の大鹿(おおしか)歌舞伎など各地に点在する。また大陸伝来の舞楽は宮廷や奈良,大坂四天王寺などで完成をみる一方,地方の寺社へ伝播(でんぱ)して法会,祭礼に演じられるようになった。秋田県鹿角市の大日堂舞楽のほか,山形,新潟,富山,静岡各県に多く伝承されている。

(5)人形芸 桑の木の御神体を手にして語る東北の〈おしら遊び〉は日本の人形芸の原始を示す例だが,大分県の古要(こよう)神社などに伝わる神人形は朝鮮半島の人形とも似て,大陸伝来の人形芸の古風をしのばせる。海辺の村々を漂泊したという平安時代の傀儡(くぐつ)のおもかげは,いまも徳島県の夷(えびす)まわしにも見られ,江戸時代に発達した一人遣いの人形芝居や,大坂で完成した三人遣いの文楽系の人形芝居も各地に分布している。また,からくり人形(からくり)などの人形戯も各地で考案されている。

(6)言い立て芸 言霊(ことだま)の威力で幸運を招き,魔や災害を押さえるとの信仰から祝言・口上(こうじよう)を言い立てたり,長々の物語を披露する慣習が昔からあり,職業芸能化することもあった。正月,各戸を訪問して祝言を述べる万歳,春駒,大黒舞などがその一。大道で口上を並べて物を売ったりする飴屋踊などがその二。幸若などの語り舞がその三である。

(7)その他 ほかに,舞楽や田楽などをバラエティ式に並べて法会の余興に演じた,中世以来の寺院芸能,延年などがある。
→神楽 →歌舞伎 →狂言 →人形浄瑠璃 →能
[三隅 治雄]

日本以外の民俗芸能

諸民族の民間で行われてきた芸能の全体を通じて際だつ特色としては,第1に総合芸術的性格をあげることができる。日本語の〈芸能〉ばかりでなく,古代社会ではギリシアの〈ムシケmousikē〉やインドの〈ナーティヤnāṭya〉,そして現代では英語の〈パフォーミング・アーツperforming arts〉やインドネシア語の〈カラウィタンkarawitan〉などは,すべて舞踊,音楽,演劇,文芸などの要素を有機的に内包する文化事象を意味している。しかし,これらが未分化であるとレッテルをはり,音楽や文芸が分化・独立して自律化したかのように思われがちなヨーロッパ近代の芸術観に照らし合わせて,発展の前段階にあるとするのは妥当ではない。民俗芸能の本質の一つは,民衆の生活と密着した形で表現される総合性であるといえよう。たとえば,ハワイのメレmele,南インドのヤクシャガーナyakshagānaを例にとれば,それぞれの土地の言葉(ハワイ語,カンナダ語)を文芸的に操作した様式で変形し,それを音楽的には〈語り〉〈朗唱〉〈歌唱〉などの声楽技法に加えて,楽器の音を重ね合わせ,特定の衣装やメーキャップを施したうえで動作パターンを演じ分けるという舞踊と演劇の要素が加わってくるのである。

民俗芸能は第2に,身体性を特徴としてもっている。すなわち,視覚,聴覚,触覚,嗅覚ばかりか,味覚までを含んだ感性の世界として共同体の中で提示され,演者の肉体運動が中心に据えられるのである。色,形,音,香,飲食物が織り成す民俗芸能の端的な例は,中部ジャワの成人式,結婚式などの機会に催されるスラマタンselamatanという〓宴,そこでとりおこなわれるガムラン(音楽),ワヤン(影絵芝居),そしてベンガル地方の神秘的・宗教的な歌舞バウルなどのパフォーマンスである。また,ユーラシアとアフリカに広く分布する旅芸人による曲芸,門付芸,演舞,さらに武芸の中に身体運動の民俗的様式化を見ることができる。

第3の民俗芸能の特色は,民俗的な歴史知識を含みもつ叙事性である。多くの民俗芸能は,史実を脚色した題材をもち,過去に対するその時その時の現代的解釈として人々に支えられてきた。北部タイやラオスでのケーン(笙(しよう))を伴奏とするモーラムmōlam,ネパールでのサーランギーを伴奏とするガイネgaineには,そうした過去とならんで新しい話題(時事問題)なども織り込まれる。また,事実ないしその脚色ではなく虚構の世界を描く物語性をもった民俗芸能も多く,それらはしばしば勧善懲悪,二元論などの倫理観,世界観を表明するものと解釈することができる。たとえば,インドの《ラーマーヤナ》《マハーバーラタ》と,それが伝播し変形された東南アジア諸民族の舞踊劇,あるいはそれぞれの民族が固有にはぐくんできた神話・伝説の類に基づく語り物や舞踊劇の中に,人民の共同体意識を高める動機が文芸・舞踊の構造の一部として観察できるのである。このように叙事性をもつ民俗芸能は,諸民族の歴史・価値体系をパフォーマンスそのものを通じ,コード化ないし記号化したものと解釈することができる。
[山口 修]

[索引語]
郷土芸術 民俗芸術 民俗芸能の会 重要民俗文化財 田遊 春田打 御田 田植踊 田植歌 若者組 太鼓踊 労作歌 本田安次 神楽(能・狂言) 田楽(芸能) 田楽躍 風流 踊念仏 祝福芸 舞楽 菩薩来迎会 俳優 鎮魂祭 みこ舞 採物舞 佐太神社 湯立神楽 花祭(民俗) 遠山祭 冬祭 山伏神楽 番楽 太(代)神楽 御師 囃子田 早乙女 那智大社 毛越寺 祇園御霊会 今宮神社 今宮祭 念仏踊 盆踊 鹿踊 小歌踊 能 狂言 歌舞伎 黒川能 能郷能 馬瀬(まぜ)狂言 大鹿(おおしか)歌舞伎 古要(こよう)神社 傀儡 人形芝居 言い立て芸 口上 mousikē nāṭya performing arts karawitan メレ(音楽) mele ヤクシャガーナ yakshagāna スラマタン selamatan モーラム mōlam ガイネ gaine ラーマーヤナ マハーバーラタ
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26. 朝倉喬司[犯罪ルポなどで知られるノンフィクション作家、死去]
イミダス 2018
大島啓司(オオシマ・ヒロシ)。ノンフィクション作家、音楽評論家。 2010年12月9日、犯罪ルポや民俗芸能を中心にした音楽評論などで知られるノンフィクション作家 ...
27. 芦刈(旧町名)
日本大百科全書
し港としてにぎわった。米作とノリ養殖が主体で、秋祭りに演ずる面浮立(めんぶりゅう)は代表的な民俗芸能である。川崎 茂 ...
28. あたごじんじゃ【愛宕神社】茨城県:筑波郡/伊奈村/小張村
日本歴史地名大系
小張城主只越全久の崇敬があつかったと伝える。八月二四日の例祭に行われる松下流綱火は中世末期頃より伝承されている民俗芸能で、正しくは「小張松下流三本綱からくり花火 ...
29. あだちぐん【安達郡】福島県
日本歴史地名大系
それぞれ施行して現在では一市四町二村となった。なお安達郡東部は三匹獅子舞・田植踊・七福神・太々神楽などの民俗芸能が県内でも数多く残っている地域として知られている ...
30. あつたむら【熱田村】沖縄県:沖縄島中部/北中城村
日本歴史地名大系
九町八反余・原野五町六反余・池沼雑種地一反余(県統計書)。「アビラウンケン」の梵字碑がある。民俗芸能フェーヌシマは棒踊の一種で、昔は旧盆の七月遊びと称し、豊作を ...
31. あつみまち【温海町】山形県:西田川郡
日本歴史地名大系
基地となり、水揚げは酒田に次いで多い。町域には温海温泉・弁天島・摩耶山などのほか、海水浴場や民俗芸能山戸能など観光資源が豊富で、観光産業の発展にも力を入れている ...
32. 阿南[町]
世界大百科事典
農林業を主体に営まれているが,農業人口の減少や兼業化が進むなかで,近年工業の導入が図られている。民俗芸能の宝庫で新野の雪祭(重要無形民俗文化財),盆踊をはじめと ...
33. あなんちょう【阿南町】長野県:下伊那郡
日本歴史地名大系
果していたと伝えられる。産業は米作・養蚕・蒟蒻・椎茸栽培が盛んで、近時工場誘致の姿がみられる。民俗芸能の宝庫で、新野の雪祭・盆踊、和合の念仏踊、早稲田人形等があ ...
34. 安乗(あのり)の人形芝居
デジタル大辞泉プラス
三重県志摩市阿児町に伝わる民俗芸能。安乗神社境内で上演される、3人遣いの人形芝居。「安乗文楽」ともいう。1980年、国の重要無形民俗文化財に指定。 2013年0 ...
35. 海人
世界大百科事典
がなかった。五島列島や瀬戸内海の家船(えぶね)漁民と同系統に属する海人の残留らしい。 海人と民俗芸能・文芸 大和朝廷が稲作農耕を主軸とする生業を基盤に成立し,律 ...
36. あまかわむら【天川村】佐賀県:東松浦郡/厳木町
日本歴史地名大系
この浮立は太鼓打ちが天笠と称する六尺余りの角形のものを頭にかぶり山袴をはき、腰に刀を差して舞うもので、県指定民俗芸能とされている。若宮神社は旧村社で、文明元年( ...
37. 雨乞踊
世界大百科事典
民俗芸能。降雨を祈願するための踊り。干ばつ・日照りの続いた時に臨時に踊られるのが本来であるが,願いがかなって雨が降った時にも御礼踊を行うことがあった。現在では定 ...
38. 阿万の風流(ふりゅう)大踊小踊
デジタル大辞泉プラス
兵庫県南あわじ市阿万上町に伝わる民俗芸能。亀岡八幡神社で9月に奉納される雨乞い、五穀豊壌などの願いをこめた踊りで、室町期の発祥とされる。桃山時代~江戸時代初期の ...
39. あむら【阿村】熊本県:天草郡/松島町
日本歴史地名大系
する男女も多く、文政頃の大鞘節には八代の干拓工事に出稼した阿村の娘お菊の恋物語が歌いこまれ、民俗芸能潟切踊も伝わる。当時の「あまくさ島めぐり長歌」に「世に合津村 ...
40. 天宮神社十二段舞楽
デジタル大辞泉プラス
静岡県周智郡森町に伝わる民俗芸能。4月初旬に天宮神社の例大祭で披露される。奈良春日神社系の舞楽が地方に伝播し民俗化した一例で、1982年、国の重要無形民俗文化財 ...
41. あや‐おどり【綾踊り】
デジタル大辞泉
綾織り竹を持って踊る民俗芸能。滋賀・静岡・千葉などの各地に分布。  ...
42. 綾子踊
デジタル大辞泉プラス
香川県仲多度郡まんのう町に伝わる民俗芸能。雨乞い祈願の踊りで、念仏踊風の風流踊。かつて干ばつの年に、村を訪れた弘法大師が「綾」という名の村の娘に教えたものとされ ...
43. あやこ‐おどり[‥をどり]【綾子踊】
日本国語大辞典
新潟県柏崎市女谷に伝わる民俗芸能で、踊り、囃子舞(はやしまい)、狂言がある。綾子舞。あやこ。 ...
44. 綾子舞画像
日本大百科全書
新潟県柏崎(かしわざき)市黒姫町女谷(おなだに)の下野(しもの)、高原田(たかんだ)両地区に伝わる民俗芸能。踊りと囃子舞(はやしまい)と狂言からなるが、初期歌舞 ...
45. 綾子舞[百科マルチメディア]画像
日本大百科全書
柏崎(かしわざき)市女谷(おなだに)の下野(しもの)、高原田(たかんだ)両地区に伝わる民俗芸能。若い女性による小歌踊、男性が演ずる囃子舞(はやしまい)、狂言から ...
46. 綾子舞
世界大百科事典
新潟県柏崎市女谷下野(しもの),高原田(たかはらだ)(旧,刈羽郡黒姫村)に伝わる民俗芸能。少女によって踊られる小歌踊と,男性による囃子舞,狂言がある。踊りの扮装 ...
47. あや‐こまい【綾子舞】
デジタル大辞泉
新潟県柏崎市女谷(おなだに)の下野・高原田両地区に伝わる民俗芸能。踊り・囃子(はやし)舞・狂言からなり、初期歌舞伎踊りの姿を今日に残すものとして貴重。重要無形民 ...
48. 綾子舞
デジタル大辞泉プラス
新潟県柏崎市女谷地区に伝わる民俗芸能。9月15日の黒姫神社の祭礼で演じられる。踊り、囃子舞、狂言からなり、初期歌舞伎踊の名残を伝える貴重な民俗学的資料として、1 ...
49. あやこまい【綾子舞】
歌舞伎事典
新潟県柏崎市(旧刈羽郡黒姫村)下野(しもの)および高原田(たかはらだ)に伝わる民俗芸能。少女によって踊られる優美な小歌踊と、男性による狂言がある。踊の扮装や振 ...
50. あららぎむら【蘭村】長野県:木曾郡/南木曾町
日本歴史地名大系
捕らえようと懸命になるという動作を、三味線や太鼓のはやしとだじゃれまじりのこっけいな歌に合わせて演ずる民俗芸能が伝承されている。 ...
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田楽(国史大辞典・新版 能 狂言事典・改訂新版 世界大百科事典)
広義には稲作に関する芸能の総称として用いるが、狭義には田楽躍(おどり)を本芸とする職業芸能者が演じる芸能をいう。また田植の囃しや田楽躍に用いる太鼓を称する場合もある。広義の田楽は、(1)田植を囃す楽、(2)職業芸能者である田楽法師による芸能
民俗芸能(国史大辞典・世界大百科事典)
地域社会の中で、住民の信仰や風俗・習慣と結び付きながら伝承してきた郷土色ゆたかな芸能。郷土芸能・民間芸能などともいう。祭や宴遊・講などを主な伝承の場とし、特に農耕の祭に呪術的機能を買われて演じられ、また芸能をもって成人教育とするなど
精霊流し(国史大辞典・日本大百科全書・日本国語大辞典)
盆行事の最終段階で、精霊を送り出す儀礼。先祖の霊は、七月十三日の精霊迎えを経て、十五日または十六日夕方まで各家に滞在したのち、精霊流しによって、再びあの世へ送り返されると信じられていた。祖霊をはじめ、死者の霊は山の彼方の世界に行っているが
三社祭(国史大辞典・日本大百科全書・世界大百科事典)
東京都台東区浅草公園に鎮座する浅草神社の祭り。浅草神社は土師真中知(はじのまち)命・檜前浜成(ひのくまのはまなり)命・檜前武成(たけなり)命の三神を祭るところから三社権現と称されてきたが、明治元年(一八六八)、三社明神社
左義長(国史大辞典・世界大百科事典)
小正月に行われる火祭り行事。三毬杖・三毬打・三鞠打・三木張などとも書き、爆竹にこの訓をあてた例もある。打毬(だきゅう)は正月のめでたい遊戯とされ、これに使う毬杖(ぎっちょう)を祝儀物として贈る風習があった。その破損した毬杖を陰陽師が集めて焼く
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雛人形(世界大百科事典)
雛祭に飾る人形。節供人形ともいう。平安時代には,小さな紙人形でままごと遊びをする〈ひいな〉遊びがあった。またこれとは別に,季節の変り目に神に供御(くご)(飲食物)を供えて身体の安泰を願う信仰があり,それを節供といった。3月上巳(じようし)(最初の巳
歌舞伎十八番(新版 歌舞伎事典・国史大辞典・世界大百科事典)
七世市川団十郎が制定した一八の演目をいう。七世団十郎は、天保三(1832)年三月海老蔵に八世団十郎を襲名させ、自身は海老蔵と改名した時に配った刷り物で、「歌舞妓狂言組十八番」と題して一八種の名目を掲げた。その後、天保一一年《勧進帳》の初演に際し
日本舞踊(日本大百科全書・世界大百科事典)
邦舞ともよび、西洋舞踊(洋舞)と大別される。広義には、舞楽(ぶがく)、能(のう)、歌舞伎(かぶき)舞踊(古典舞踊)、新舞踊、創作舞踊、民俗舞踊(郷土舞踊)などをいう。狭義には、これらのうち一般的によく知られている歌舞伎舞踊をいうことが多い。「舞踊」と
歌舞伎舞踊(新版 歌舞伎事典・世界大百科事典)
歌舞伎の中で演じられる舞踊および舞踊劇。また日本舞踊を代表する舞踊として同義語にも用いられる。【歴史】歌舞伎舞踊は、中世末期の風流(ふりゅう)踊という民俗舞踊を母体として発したもので、出雲のお国の踊った歌舞伎踊にはじまる。お国に追随した遊女歌舞伎も
寿狂言(新版 歌舞伎事典・世界大百科事典)
江戸の劇場の中村座・市村座・森田座に伝承された祝言儀礼的狂言のこと。家狂言ともいう。江戸時代の歌舞伎の興行権は、幕府が座元(太夫元)個人に与えた特権であった。江戸三座の座元は世襲であったので、その権威も特に大きく、各座では、由緒正しい家を誇り格式を
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