新型コロナウイルス(SARS-CoV-2 (サーズコブツー))がヒトに感染することによって発症する呼吸器感染症。2019年(令和1)に初めて発生が確認された新興感染症であり、当初、日本においては感染症法上の「指定感染症」に指定された。指定感染症に指定された感染症は、公衆衛生に応じた措置(強制的な入院措置や休業措置など)が可能になるほか、入院にかかる費用が公費負担となるなどの規定がある。その後、2021年2月13日より、法的位置づけは「新型インフルエンザ等感染症」に変更された。
2021年5月21日
発生の経緯
2019年12月31日、中国・湖北 (こほく)省武漢 (ぶかん)市で原因不明の肺炎患者が発生したことが報告された。その後2020年1月7日には新型のコロナウイルスが分離されたことが報告され、日本では2月1日に施行された政令において、ウイルスおよび疾患の法令上の公式名称がそれぞれ「新型コロナウイルス」「新型コロナウイルス感染症」と定められた。この新型ウイルスは2002(平成14)~2003年にかけて流行した重症急性呼吸器症候群(severe acute respiratory syndrome:SARS (サーズ))や中東呼吸器症候群(middle east respiratory syndrome:MERS (マーズ))の病原体と同じコロナウイルスに分類される動物由来のウイルスであることが判明し、2月11日にはウイルス名が国際的に「SARS-CoV-2(サーズコブツー)」と命名された。宿主動物はコウモリではないかといわれているが、いまだ議論がある。世界保健機関(WHO)は、このウイルスに感染した場合の疾患名をcoronavirus infectious disease, emerged in 2019に由来して「COVID-19 (コビッドナインティーン)」と命名した。ちなみに、コロナウイルスは電子顕微鏡で見ると王冠のような形に見えることから、ギリシア語で王冠を意味する「コロナ」という名前がついている(本稿では、以下「新型コロナウイルス」「新型コロナウイルス感染症」の名称を用いる)。
武漢市での発生が報告されて以後、新型コロナウイルスと関連のある呼吸器感染症患者は中国以外の複数の国や地域でも確認されるようになり、日本国内では2020年1月27日までに4名が確定診断された。この4名には全員に武漢市での滞在歴があった。
2021年5月21日
感染者数と感染経路
2021年5月20日現在、世界での感染者数は1億6000万人を超え、死者は340万人を上回っている。日本では70万人以上が感染し、死亡者数は1万2000人以上となっている。
感染経路としては、飛沫 (ひまつ)感染、マイクロ飛沫感染(後述)、接触感染が考えられており、飛沫感染やマイクロ飛沫感染のように、人の声や咳 (せき)などで発せられる飛沫を吸い込むことでの感染が、接触感染よりも多いと考えられている。
2020年3月9日、厚生労働省専門家会議の見解として、「(1)換気の悪い密閉空間であった、(2)多くの人が密集していた、(3)近距離での会話や発声が行われた、という三つの条件が同時に重なった場」がクラスターとよばれるような多くの人が感染する機会となることが示された。これを、(1)換気の悪い密閉空間、(2)多数が集まる密集場所、(3)間近で会話や発声をする密接場面=「三つの密(3密)」という表現を用いて首相官邸がポスターを作成し、以後「3密」ということばが広く国民の間でも周知されるようになった。
3密場面では、感染者がいて、会話などで飛沫が飛び、それを吸い込むことによるマイクロ飛沫感染が起きていると考えられる。マイクロ飛沫感染の対策として換気が推奨されているが、できるだけ3密の環境をつくらない、できる限り短時間に留めるなどの対応が求められる。なお、「マイクロ飛沫感染」の定義についてはいまだ議論されており、「エアロゾル感染」ということばで表現されることもある。いずれも5マイクロメートル未満の微細な粒子が、しばらくの間、重力に影響されずに空気中を漂い、少し離れた距離にまで広がり感染が生じる事象のことをさしている。空気感染が起こりえるよりは短い距離であり、空調などの影響を受け、5メートル程度にまでマイクロ飛沫が広がり、感染した例が報告されている。
2021年5月21日
感染から発症まで
新型コロナウイルスを体内に取り込んだ後、発症するまでの期間(潜伏期間)は1~12.5日間とされているが、多くは5~6日後に発症すると考えられている(そのため、ウイルスに曝露 (ばくろ)された状況を確認するために、患者にそれらの日の行動を聞いても、発症以前の記憶がすでに曖昧 (あいまい)で本人が覚えていないことも多い)。
新型コロナウイルス感染症に特徴的な点として、症状が現れる2日ぐらい前から、会話などで生じる飛沫にウイルスが排出されていると考えられており、発症前に会食などでマスクをせずに会話をして、それがとくに長時間に及んだ場合には同席者などが感染するケースも多く報告されている。
なお、新型コロナウイルスに感染した人のうち、さらに他の人に感染させた人は10人中2人程度であり、その他の8人程度はだれにも感染させていない。
感染が判明した場合には、自宅での療養や療養施設への入所、医療機関への入院等により、感染を拡大させないための隔離措置が講じられる。発症から8日程度経過すると、他人に感染させるだけのウイルス量の排出はなくなることも明らかになりつつあるが、現在のところ「発症日から10日間経過し、かつ、症状軽快後72時間経過した場合」が隔離解除の基準とされている。
感染者を特定して、他の人に感染させないように外出しない、人と接しない、場合によっては施設や医療機関で療養することで地域の流行は制御できうる。しかし、地域での流行がおさまらない場合には、「緊急事態宣言」などに基づき他者と接触する機会を極力減らすことで感染拡大を抑える効果が得られることがわかってきた。
2021年5月21日
症状と経過
初期の症状はインフルエンザや感冒(かぜ)と似ており、発熱、咳、倦怠 (けんたい)感、呼吸困難、下痢、味覚障害や嗅覚 (きゅうかく)障害などを呈する。味覚や嗅覚の障害が起こるのは発症後数日経ってからが多い。感染しても無症状の人もいれば、集中治療管理が必要な重症肺炎を発症する人もおり、症状の出方は幅広い。
若年世代では自然経過で軽快することが多いが、とくに高齢者では重症化するリスクが高い。日本において重症化する人の割合は、50歳代以下では0.3%である一方、60歳代以上では8.5%、さらに死亡する人の割合は50歳代以下では0.06%、60歳代以上では5.7%となっている。また、高齢者だけでなく、基礎疾患を有する人も重症化しやすいとされる。
なお、回復後にも1割程度の人に後遺症が残ることが知られており、倦怠感、呼吸困難、脱毛、味覚障害、嗅覚障害などが報告されている。若年世代でも味覚や嗅覚の障害などが半年程度続くといった例が報告されている。
2021年5月21日
検査と診断
診断のための検査として、PCR検査、抗原定量検査、抗原定性検査などが行われている。医療機関で行われるだけなく、感染拡大を受けて薬局などでも検査用キットが売られるようになったが、正しく使用されているか、また検査の精度管理などが課題となっている。
なお、検査で「陰性」とされた場合でも、そのことのみをもって感染が否定されるものではない。あらゆる検査には、一定の割合で「偽陰性」(陰性でないのに陰性と判定されること)「偽陽性」(陽性でないのに陽性と判定されること)が生じる可能性があることは知っておきたい点である。
2021年5月21日
治療・予防
2021年5月現在、新型コロナウイルス感染症の治療薬として「レムデシビル」「デキサメタゾン」「バリシチニブ」の3種類が認可されている。こうした薬剤の使用や治療経験の蓄積により、当初より死亡する人は減りつつあるものの、特効薬の開発にまでは至っていない。
一方、新型コロナウイルス感染症に有効性を示すワクチン(mRNAワクチンなど)が世界中で開発されており、そのうち一部のワクチンでは、接種によって発症や重症化を予防できることが確認され、一部の国や地域では実際に接種が開始されている。ただし、多くの人が接種することで感染が広がりにくくなる(集団免疫ができる)かについては、まだ明らかではない。
2021年5月21日
課題
ウイルスは変異しうる。そのなかでも、他の人へ伝播 (でんぱ)する力が強いウイルスがしだいに選択されて残っていく。これは新型コロナウイルスについても例外ではなく、新型コロナウイルス感染症の拡大後にイギリスで確認され、その後世界中に急速に広がっているB.1.1.7とよばれる変異株は、これまでのウイルスよりもさらに感染拡大を招きやすい可能性が高いことがわかっている。しかし、日本において拡大の仕方がどの程度変わるのかは、マスク着用などの感染対策によっても変わるため、海外の動向とは異なっていく可能性もある。今後もこうした変異株が中・長期的に出現してくる可能性はあり、引き続きウイルスの遺伝子検査などを行い、世界の国々とも連携することで、できる限り感染の拡大を制御することが求められている。
2021年5月21日